6-11 遺体の処理
騒ぎを聞きつけた兵士達が駆けつけた頃にはすべて終わっていた。
死んだはずの少女は蘇って、錯乱した自分の母親を殺した。そして多くの人間がこれを目撃した。
リビングデッドの再度の復活は、まだそんなに多く発生しているわけではない。今のところ人的被害も少ない。けれどそれは間違いなく起こって、人がひとり殺された。
街の住民の間に、不安と恐怖が急速に広がるのを止めることはできないだろう。
兵士の部隊がやってきて現場の保全をやっているのを、フィアナとユーリは路上の段差に腰掛けて眺めていた。
もう少しうまく出来なかっただろうか。別の結果を出せるやり方、あの母親を助ける道はなかっただろうか。
「あのお母さんが、あんなことするなんてわからなかった。仕方なかった、と思う」
隣のユーリがぽつりと言う。フィアナのことを慰めようとしているのはわかった。
「そうですよね。仕方なかったと……わたしもそう思います。でも……」
「最初から、生け捕りは無理って諦めて、あの子のこと、殺しておけば良かった?」
「それは……」
生きたままのリビングデッドを調べることを諦める。あるいはあれを殺すためにユーリが路上で狼化することで、さらなる混乱を引き起こす危険。
そういうことを考えて、生け捕りにする方針にしていた。
「なにが正しいかは、やらなきゃわからない事も多い。……たまたま、間違ったやり方を選んだだけ」
そんな事を言うユーリは、仕方ないと言ってる割には辛そうだった。彼だってこの結果を平然と受け入れられるわけがない。
こんなことは間違っている。だから、終わらせなきゃいけない。
「ユーリくん。捕まえましょう。これを起こした犯人は絶対にいます。捕まえて、こんなことしたことを後悔させてやりましょう。それから……二度と、こんなことが起こらないようにしましょう。わたしたちの手で」
「うん。やろう」
フィアナの言葉にユーリは短く、でも強く応えた。
「ユーリ、フィアナ、大丈夫だったか?」
それから少しして、別行動していたカイが駆けつけた。彼も、自分が一緒にいてやるべきだったと少なからず後悔している様子だ。
でも後悔したまま立ち止まるタイプの人間ではないカイは、すぐさま情報の整理を始めることにした。
「リビングデッドが復活した箇所は、やっぱり今までの復活した例の場所と近いな。復活した場所だけじゃなくて、女の子の棺が最初に置かれていた家も近い」
「棺?」
復活した場所だけではなく、その棺の場所について注目したらしいカイにユーリがすぐに気付く。カイは頷いて、さっきまで調べていたチェバルの遺体埋葬の政策について説明を始めた。
「ついこの間まで……つまり、チェバルの家がリビングデッドを作るために市民の死体を集めていた時のことだな。死体はこの都市の中に何箇所かある処理場に運ばれるんだ。表向きは処理場じゃなくて、単に多くの遺体を一度まとめて、各地の共同墓地に再配分するために整理する仕事の事務所ってことになっていた」
「遺体の処理ですか? そこでなにをしていたんでしょうか」
「遺体が長い時間腐らずにしておいて、いざという時リビングデッドとして戦力になるような仕掛けをしてたらしい」
その真意についてはわからない。その処理の責任者は捕まって今は城の牢獄にいて、取り調べに対してはまったく口を割らない。
処理場で働く人間はみんなチェバルの息がかかった者で何をしているかは固く口止めされていた。しかし組織の末端で忠誠が低く、少し脅せば口を開く職員はいた。
末端の職員であるがゆえに、その処理がなんの意味なのかはよくわかっていない様子。しかし何をしていたかは聞き出せた。
「遺体を塩漬けにして腐りにくくすることと、遺体を切り開いて中に紙を入れること。やってたのはこのふたつだ」
「塩漬け?」
「紙?」
フィアナとユーリは揃って首をかしげる。塩漬けについては少しは意味がわかるけど、人間の死体に対して行うという事実に困惑していた。もうひとつの紙については全く意味がわからない。
カイの説明をおとなしく聞くことにした。
肉を塩漬けにして保存が効くようにする。そういう種類の保存食はこの世界にも存在する。ならば、死体を腐りにくくするためにも使えるはずだ。
正確に言えば塩だけでは死体の保全性が十分ではないため、水分をよく吸収する他の鉱物と塩の混合粉末を使っていたらしい。食用ではないからそれで問題はない。
届いた死体の腹を裂き、内蔵をいくつか取り出して空いた隙間に乾燥剤となる粉末を詰め込む。
死体自体も大量の粉末の中に埋め込むことで、死体が腐敗しにくく、長い間その形を留めておけるような状態にする。そのまましばらく死体を放置して、一定期間が経てば塩の中から掘り出す。そして改めて棺に入れて共同墓地に埋葬する。
棺は簡単に開くような軽い蓋がされているし、埋葬のために掘られる穴も浅いものだ。リビングデッドとして蘇った時に簡単に外に出られるように。埋葬までの作業は完全に外部には知られないように行われてきたため、この秘密を知るものは少なかった。
それから死体の中には、乾燥剤以外に紙を一枚入れるように指示がされていた。その紙がなんなのか、末端の作業員には一切知らされていなかった。ただ、死体一体一体に入れるために、大量の在庫が用意されていた。
「一枚もらってきた。たぶん魔法陣が描かれてるんだと思う。リゼならなにかわかるかもな」
カイが手のひら程度の大きさの紙片をふたりに見せた。フィアナは魔法陣というものがなんなのかはわからない。魔法使いが使用する何かなんだろうなとだけ思った。
紙片に描かれているのは、円形の中に様々な図形や文字が複雑に絡み合っている紋様だった。インクで手書きしているように見える。
紋様の中程で、小さな円が六つ等間隔に輪を描くように並んでいるのが特徴的だなと思った。
「たぶん、ここから魔力的な作用が遺体に働いて動いたってこと……だと思う。俺は魔法使いじゃないから、合ってるかどうかはわからないけど。魔力封じの結界が張られている図書館の中では動かなくなったのは、そういうことじゃないかな。そして……」
ひとつ確認したいことがある。カイはそう言ってさっき蘇って今度こそ死んだ女の子の死体の方へふたりを連れて向かう。調べている兵士に事情を話し、女の子の遺体を調べた。
胸の近く。ちょうど服で隠れそうなあたりに、同じ魔法陣が描かれた紙片が張り付けてあった。




