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011 ナタリアーナとファヴリツィアが仲間になりたそうにしている。



 決闘が終わり、ギャラリーがはけていく。

 戦っている間は水を打ったように静かだったが、今は興奮気味な会話があちこちから聞こえてくる。

 そんな中、ざわめく群衆からリオンが飛び出してきた。


「オルソンさん! 想像以上に強かったです! それに、とっても格好良かったです!」


 リシパ以上に感極まった視線を向けられる。


「なに、鍛えればリオンでも、これくらい強くなれるさ」

「……はいっ! 頑張りますっ!」


 彼女の真っ直ぐさが眩しい。

 圧倒的な力を見せつけられると、恐れるか諦めるか、大抵はそのどちらかだ。

 だが、リオンは違った。

 俺を追いかけ、追いつき、追い抜こうという強い意思が伝わってくる。


 これなら、リオンは大丈夫そうだ。

 なにせ、主人公。

 ステータスも成長速度も規格外だ。


 俺も本気でやらないと、すぐに追い抜かされてしまう。

 まあ、そう簡単に追い越させる気はないがな。


「この後は、どうする? メシでも食いにいこうか?」

「えっ、いいんですか?」

「ああ、積もる話もあるよね」

「ぜひ!」


 今日のガイダンスは終わっており、後は自由行動だ。

 性別が変わってしまったリオンがどう変化したのか、早めに知っておきたい。


「アニキ。俺もご一緒していいですか?」

「ダメ」

「そんな……」


 リシパが絶望を見せる。

 だが、リシパ攻略に時間をかけるつもりはないので、俺は適当にあしらう。


「お前には遊んでる暇はない。舎弟になりたいなら、死ぬ気で修行しろ」

「うす」

「さっきの決闘、どこがマズかったか。明日までに、レポートにまとめておけ」

「うす」


 リシパの表情が変わる。

 うん。こんな感じで雑に扱っとけばいいんだな。

 チョロすぎる。

 リシパを適当にあしらった後――これから起こるイベントを俺は知っている。


 決闘を見たヒロインが主人公に声をかけてくる。

 通常なら、メインヒロインのナタリアーナが。

 そして、ファヴリツィア・ルートを進めていると――。


「殿下っ」

「お待ちくださいっ」

「そいつはっ」


 周囲の取り巻きから離れ、俺の方に姫様が向かってくる。

 歩くだけでも高貴さを振りまく、優雅な足取りだ。

 ゲームだとキラキラ光るエフェクト付きだった。


 正統派王女さまヒロイン。

 艶やかな金髪を上品に結い上げ。

 他生徒と同じ制服をまとっていても、格別な気品が漂っている。


 ファヴリツィア・ルートを進めていくうちに分かるのだが、彼女はふたつの顔を持っている。

 ひとつ目は、どこから見ても完璧で優秀な気品溢れる王女。

 ふたつ目は、周囲の期待に応えようと必死で王女を演じている、淋しがりな少女。


 ふたつ目の顔は誰にも見せないし、本心を晒すこともない。

 だが、テスレガを死ぬほどやり込んだ俺には彼女の心の声が聞こえる。


「オルソン、少し話があります」

(うー、思い切って話しかけたけど、緊張しちゃう~。ちゃんと喋れてるかなあ)


 彼女が15年間かけて育てた、張りついた作り笑顔と抑揚のない厳かな声。

 この短い振る舞いだけで、どちらの格が上であるかを知らしめる振る舞いだ。

 ファヴリツィアは王女として完成されていた。


「どのようなご用でしょうか?」


 俺は膝をついて、返答する。

 視線をファヴリツィアに向けると、彼女の背後には数人の取り巻き貴族。

 王女さまが俺に興味を持ったことが不満なのだろう。

 俺に向けて刺々しい視線を飛ばしている。


「立ちなさい」

(私より凄い人にこんな姿勢をさせちゃって、申し訳ないよ~)


 王女さまの言葉に俺は立ち上がる。


「学園では、皆、対等。臣下の礼を取る必要も、へりくだる必要もありません」

(みんな王女扱いしないで、仲良くして欲しいな~。でも、私、こういうしゃべり方しかできないから、距離を置かれちゃうよね)


 俺だけでなく、クラスメイト全員に告げる言葉。

 王女さまの宣言に、場はシーンと静まりかえる。

 どこまで信じていいのか、困惑が伝わってくる。


「入学試験を首席で合格したこと。そして、先ほどの決闘。どちらも見事なものでした。今まで、同世代に私と並び立つ者は存在しないと思っていました」

(首席だったのもビックリだけど、さっきの戦う姿、カッコ良かったな~。お友だちになりたいな~)


 威厳を持って告げるファヴリツィア――氷結王女。


「オルソン、わたしはあなたの強さに興味があります。この後、時間をとってくださるかしら?」

(言っちゃったっ! 思い切って、言っちゃった! ナイス、私!)


 ――ここまではゲームと同じ展開だ。この後の選択肢はふたつ。『引き受ける』か『断るか』だ。


 普通のギャルゲーだったら、『引き受ける』が正解だ。

 攻略したいヒロインからの誘いを断るなどあり得ない。

 せっかくの仲良くする機会を棒に振るなど言語道断だ。


 だが、そこはテスレガだ。

 ここで『引き受ける』と、攻略が無茶苦茶ハードになる。

 その原因は、今でも俺を睨みつけている取り巻き貴族どもだ。

 彼らは王女さまが自分たちを差し置いて、平民である主人公と仲良くするのが許せない。

 それで、ありとあらゆる嫌がらせをしてくるのだ。

 そして、それは彼らだけでなく、王女さまを取り込もうとしている各派閥からも妨害が入る。

 そうなると、ヒロイン攻略を進めるどころか、ダンジョン攻略もままならない。

 せっかく得た周回アドバンテージの効果が生かせなくなるのだ。


 まあ、ゲームと違って、この世界では俺の実家の力を駆使して、取り巻き貴族の妨害は未然に防げる。

 そのための手はすでに打ってある。

 だが、ここであえて面倒ごとを起こす必要もない。


 ――なので、『断る』の一択だ。


「せっかくのお誘い、心苦しいのですが、今回ばかりはお断りさせていただきます」

「どうしてです?」

(えっ、なんでっ、涙、出ちゃいそうだよ~)


 よりいっそう冷たく低い声。

 王女さまが不快感をあらわにした――と思うだろう。

 多くのプレイヤーもそう思った。


 だが、ゲームを進めていくとそのうち分かる。

 頑張って勇気を振り絞って誘ったのに断られて、泣き出しそうなくらい落ち込んでいるのだ。

 王女教育のたまもので、それを顔に出さずにいられるだけだ。


「このクラスには私よりも高貴な方々がいらっしゃいます。僭越ながら、そちらとの友誼ゆうぎを優先すべきではないかと愚考する次第であります」

「分かりました。では、またの機会としましょう」

(今度だよ、今度は絶対だよ!)


 俺は『断る』を選んだ。ここまでは

原作と同じ。

 だが、俺にはひとつの企みがあった。

 ゲームでは限られた選択肢からしか選べない。

 だけど、この世界にそんな制約はない。

 それは散々、実証済みだ。


 ファヴリツィアとの別れ際。

 俺は彼女の手に、小さく折りたたんだ紙を忍ばせる。

 彼女の耳元で「後で一人になってから読め」とささやく。

 (はふぅ~~)


 一瞬、王女の仮面にヒビが入り蕩けた内面が零れそうになるが、彼女はすぐに仮面を修復する。

 それに気がついたのは、俺だけだった。


 さて、これで一見落着と言いたいところだが、やっぱり――。

 演習室から出ようとしたところで、また、声をかけられる。


「ちょっと、待ってよ」


 予想通り、ナタリアーナに止められた。


 原作の通常ルートだと、ファヴリツィアではなく、ナタリアーナが「アンタ、中々やるわね。私ほどじゃないけどね」とツンツン絡んでくる。

 なぜ、男嫌いのナタリアーナが主人公にちょっかいを出すのかというと、彼女も主人公と同じ平民だからだ。

 周りは貴族ばかりで王女さままでいる。

 とても声をかけられる状況でなく、主人公しか絡む相手がいないという理由だ。


 プライドの高い彼女が、圧倒的だったパシリ戦を見てもツンツンできるかな?


「アンタやるわね。悔しいけど、今の私じゃ勝てないわ。でも、すぐに追いついて見せるからねっ!」


 なるほど、こう変わるのか。

 確かに、「ナタリアーナなら、こう言うだろうな」と腑に落ちる言葉だった。

 それに対する俺の答えは――。


「なら、俺も頑張らないとな。じゃあ、リオン、行こうか」

「うん」

「リオンを連れて、どこに行くのよ」


 想定通り、ナタリアーナが喰いついてきた。


「ああ、二人で食事にね。じゃあ、また明日」

「ナタリアーナちゃん、また明日ね」


 スルーした俺に続いて、リオンも当然のごとくスルー。

 雑な対応をされ、ナタリアーナの表情が曇る。

 ツンデレキャラの特徴、打たれ弱いのだ。


 これが彼女攻略の最善手だ。

 他の選択肢、「ナタリアーナも一緒に行こうよ」でもダメ。「お前に関係ないだろ」でもダメ。

 正解は「キミにはなんの興味もないですよ」とサラッと流すことだ。

 こうするとナタリアーナは――。


「あっ、ねえ……」


 立ち去ろうとした俺たちの前に回り込む。

 彼女の気持ちは分かっているが、あえて「ん?」ととぼけて見せる。

 そうすると、モジモジして言葉を絞り出す。


「わっ、私も一緒にいい?」


 顔を赤くして俯いたまま言う。


「なんで?」

「えっ、あっ、その……」

「あっ、分かった。リオンと一緒に行きたいんでしょ? じゃあ、俺は一人で帰るよ。じゃあね、リオン」

「オルソンさん、ちょっと待ってくださいよ」


 しょんぼりと落ち込んだ仔犬みたいな表情。

 ファヴリツィアのとき以上に心が痛む。


「ボクは三人で行きたいです」

「そうだな。リオンが言うなら、そうしよっか」

「いいの?」


 ナタリアーナが弱気な目で見てくる。


「いいよ。俺はどっちでもいいから。お礼ならリオンに言えばいいよ」

「ありがとうね、リオン」


 そういうわけで、三人で街に繰り出すことにした。


次回――『リオンたちとランチ。アルダとディナー。』


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