旅立ちの時
翌朝、朝食を取り終え、さあまた迷宮にでも、と思っていたところに、メイドさんから謁見の間に行くように言われた。
何の用だろうと疑問に思いながらラオ君と一緒に向かったそこには、キル様を始めとした旅の仲間の皆様と、レシーナさんに美子ちゃん、そして玉座にそれぞれ座っている男女、更に見知らぬ少女がいた。
玉座に座っているのは、この国の王様と王妃様だろう。
けど、あの初めて見る少女は誰だろう?
肩まである柔らかそうなストロベリーブロンドの髪に、紫の瞳をした、随分可愛い人だけど……ここにいるって事は、私が呼ばれた事に関わりのある、関係者なのかな?
そう思って首を傾げていると、キル様が私に向かって一歩進み出た。
「おはようございますユイさん。つい先ほど、旅の仲間の最後の一人が到着致しましたので、ご紹介致します。……さあ、メイファ殿」
「は、はい。あの、初めまして、聖女様。メイファ・クーカフと申します。い、一応、クーカフ王国の第十二王女なのですが、その……わ、私は故あって市井で育ちまして、礼儀作法には疎いので……えっと、し、失礼をしてしまうかもしれませんが、何とぞ、寛大なお心で、ご容赦戴きたく……っ」
キル様に促されて自己紹介したメイファ様は、そう言って最後に深々と頭を下げた。
なるほど、この人も旅の仲間だったのか。
それで挨拶する為に私も呼ばれたんだね、納得。
けど、第十二王女様、ねぇ……。
勿論他に、王太子の第一王子様から始まる兄や弟といった人達もいるんですよね?
…………兄弟多そうで、いいですね。
でも、王女様なのに市井で育っただなんて……どうしてだろう?
ああでも、一緒に旅する仲間なのなら、そういう人のほうが、私としては親しみやすいかもしれないし、まあ、いいかな。
他人様の事を詮索するのは、良くないしね。
「初めまして、ユイ・クルミです。様はつけずに、ユイと呼んで下さい。皆様にもそうお願いして承諾して貰っていますから。それと、礼儀作法なんてものには私、縁がありませんから、気にしなくても大丈夫ですよ?」
「え……ええっ!? そ、そうなんですか!? なら良かっ……あっ、で、でも、せ、聖女様を尊称でなく、名前でですか!? しかも、様もつけずに……!?」
「はい。お願いします」
「今代の聖女様であるユイさんは、そういう方なんですよ、メイファ殿。ですから、貴女も変に気負う必要はありませんよ?」
「えっ……。…………。……わ、わかりました……じゃ、じゃあ、そうさせて戴きます……ユ、ユイさん」
「はいっ!」
私はメイファ様の言葉に笑顔で頷いた。
メイファ様が最後の仲間、という事は、これで私を聖女様なんて呼ぶ人はもういないね!
少なくても、一緒に旅する人達は大丈夫、と。
ふぅ、良かった。
「……自己紹介は、済んだようですな。では、旅立ちの儀に入らせて戴く」
「え……?」
一緒に旅する仲間全員に聖女様ではなく名前で呼んで貰う事に成功した私が安堵の息を吐くと、ふいに玉座に座っている王様が声を発し、立ち上がった。
た、旅立ちの、儀?
え、何それ、そんなのやるの?
というか、仲間が揃ったら即旅立つの?
だってメイファ様、到着したばっかりなんだよね?
少しくらい休ませないの?
そんな私の疑問を他所に、旅の仲間である皆様が私の側にきて玉座のほうに体を向けると、その場に膝まずいた。
「え……あっ! わ、わわっ」
「……ミコ殿。貴女も、お早く」
「え? あっ……はぁい、ごめんなさぁい」
その様を見て、旅立ちの儀とやらはまずはそうするものなのだと察し、慌てて私も膝まずく。
続いて、キル様に促された美子ちゃんが同じく膝まずいた。
それを待って、王様がゆっくりと口を開く。
「メルーセゼンス代表、勇者、ユシャール・メルーゼン」
「はっ」
「よくぞ聖剣に選ばれ、それを手にした。その覚悟は並々ならぬものであったろう。勇者はこの旅の要、聖女の対。その任は他の者よりも重いものだが、頼むぞ」
「はっ!」
「デュオールス代表、剣士、マノン・デュオールス」
「はっ」
「よくぞその歳で代表となるほど腕を磨いた。その剣の腕、聖女と仲間達の為存分に振るうといい。期待しておるぞ」
「はっ!」
「ハーデンルーク代表、魔法剣士、シャオレイール・ハーデンルーク」
「はっ」
「王太子という位にありながら、この旅に加わるのはそなたにも、国にも、複雑な思いがあろう。それが定められた我が国なら致し方ないが……必ず魔王殿を正気に戻し、生きて帰るようにな」
「はっ!」
「クーカフ代表、癒し手兼世話係、メイファ・クーカフ」
「はい」
「そなたには戦闘での支援のみならず、普段の仲間達の食事なども任せる事となる。大変であろうが、これは持ち回り制故、許せよ」
「は、はい!」
「シーアブルク代表、魔法使い、キルアリーク・シーアブルク」
「はっ」
「……そなたには、多くは言うまい。必ず役目を果たし、国の為、生きて帰れ。良いな」
「はっ!」
「聖女、ユイ・クルミ」
「は、はい」
「突然異世界より召喚され、憤りもあろう。しかし、どうしてもそなたの協力がいる。旅が無事に終わったその時は、私からも望むままの褒美を与えよう。どうか、魔王殿を頼む」
「え、は、はい」
「……そして、聖女の護衛、ラオレイール。錬金術士、レシーナ・ジュレス。異世界の少女、ミコ・ヒメジ。よくぞ旅の参加を決意してくれた。戦力となってくれた事、礼を申す」
「はっ」
「はい」
「はぁい」
「……最後に、聖女と、その仲間達よ。必ず狂ってしまった魔王殿を正気に戻し、凱旋を果たすよう、我らを始め、各国の皆が願い、祈っておる。武運をな」
「「「「「「「 はっ! 」」」」」」」
「え、あっ! は、はい!」
「あっ。はぁい」
王様が一人一人に順に視線を移しながら声をかけ、皆様がそれに答えた。
そして最後に、全員に向かって告げられた言葉に皆様が声を揃えて答えるのに一瞬遅れ、私と美子ちゃんも返事を返した。
う、うぅ……こういうのがあるんなら、事前に言って練習させて欲しかったよ……。
最後のやつ、私も皆様と一緒に声を揃えて格好良く返事したかったなぁ。




