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仲間達の到着 3

「ふふふふふふっ」

「……ご機嫌だね、ユイちゃん」

「そうですね、良かったです」

「ラオのおかげだね。よくやった、ラオ」

「そうですね。お手柄でした、ラオレイール殿。勿論、ユシャール殿のスキルも、一役かっていますが」

「あ、いえ、私はただ、遭遇率を変えただけですから」


 迷宮からの帰り道、新たに生きたヌイグルミとなった、あの可愛い魔物を膝に乗せ、私は満面の笑みを浮かべて馬車に揺られていた。

 生きたヌイグルミは、私の膝の上に丸まり、されるがまま私に撫でられている。

 それを見ている皆は、その口元を緩めていた。

 そう、あの後、ラオ君は無事あの可愛い魔物を生け捕りにしてくれた。

 気絶して動かなくなった魔物に、私は絶対に成功させてみせると気合いを入れて人形変化のスキルを使い、それは見事成功した。

 愛くるしい生きたヌイグルミとなった瞬間の魔物を見て、私は思わず「やった~~!!」と叫びながらちょうど隣にいたラオ君に抱きついてしまったのは、今にして思えば恥ずかしいけれど、それくらい、嬉しかったのだ。

 キル様によれば、この子が使える可能性のある魔法は、傷を治す回復の魔法らしい。

 使えるかどうかを試す為、ラオ君は自分の指先をちょっとだけ剣で斬ってくれた。

 私がこの子にそれを治すようにお願いすると、この子は『フニュウ』と一声鳴き、そして、魔法を使った。

 ラオ君の指先を淡い紫の光が包み、その傷を治したのだ。

 これにより、魔法を使える魔物を生きたヌイグルミに変化させた場合、そのまま魔法を使えるという事が証明された。

 同時に、私も間接的に戦えるという事がわかった瞬間だった。

 そしてその後も、ユシャール様のスキルのおかげか、数匹間を置いて、もう一種の魔法を使える魔物にも遭遇した。

 その魔物は、薔薇が魔物になったような、植物の形をした魔物だった。

 その魔物を見た事のない人ならば、花の魔物なら可愛い魔物だったのではないか、と思うだろう。

 けれど、私ははっきりと断言させて貰う。

 そんな事は断じてない、と!

 足の部分は根っこ、しかもがに股で、手は茎から伸びた葉っぱでうねうねと揺れてて、目は花の部分にギョロっと飛び出て…………ああああ、思い出しただけでも気持ち悪い!!

 とにかく可愛くない、あんな子絶対にいらないっ!!

 脳裏にその姿を思い浮かべた私はきつく目を閉じてブンブンと頭を振り、それを脳内から追い出すと膝の上に視線を戻して高速で手を動かし、そこにいる子を必死で撫でた。


「……ふぅ。……お城に帰ったら、貴方達に名前をつけなきゃね。一匹だけならなくても良かったけど、これからは貴方達を区別する為にも、名前がないと不便だし。……何がいいかなぁ、貴方達の名前」


 膝上の生きたヌイグルミを撫で回して気分を落ちつけた私は、直ぐ様思考を楽しい事に切り換えた。

 頭の中で、名前の候補をあれこれと考えつつ、時折仲間達の雑談に加わりながら、王都への帰路は、進んで行った。


★  ☆  ★  ☆  ★


 乗り合い馬車を停留所で降り、そこからは歩き。

 大通りを真っ直ぐに進んでお城に帰ると、そこにはたくさんの出迎えの人々。

 さすがにキル様を始めとした各国の身分ある人が一緒だと、出迎えも派手になるようだ。

 その人々を見て、ラオ君はサッと上着のフードを目深にかぶった。

 出迎えの人垣の一角に、美子ちゃんの姿があった。

 美子ちゃんは隣にいる見知らぬ少年と話していて、私達が帰ってきた事には気づいていないらしい。


「お帰りなさいませ、皆様。……殿下、デュオールスからのお客様がお着きになられてございます。……ですが……」

「……ああ、見ればわかる。いい、後は任されるとしよう」

「……は、申し訳ございません」

「気にするな。……マノン殿、お久しぶりです」

「! キルアリーク様! お久しぶりでございます!」

「あっ、お帰りなさい、キルアリーク様!」


 キル様は側近の男性に声をかけられ、それに答えると、見知らぬ少年のほうへ歩いて行った。

 少年はキル様に声をかけられ、その存在を視界に入れると足早にキル様に近づく。

 それに一歩遅れ、美子ちゃんが続いた。


「マノン・デュオールス、先刻到着致しました! 残念ながらキルアリーク様はご不在との事でしたので、先に聖女様にお会いし、お話をさせて戴いておりました」

「は? ……先に、聖女様に?」

「はい! とてもお美しい方で、驚きました! ミコ様のような方をお守りする任を授かれて光栄に思います!」

「まあ、マノン様ったら! お美しいだなんて、そんな事ありませんよぉ、美子恥ずかしいですぅ」

「何を仰います! 聖女という名に相応しい美しさではございませんか!」

「えぇ~、そんな事ぉ~」

「………………」


 ……ええと、これは、何事?

 目の前で繰り広げられているのは、何故か美子ちゃんを聖女と思い込んで褒め称えている少年と、それに対しくねくねと体を動かしながら恥じらっている美子ちゃんの会話(ちゃばん)

 ……まあ、何故か思い込んでるとは言っても、原因はどうせ美子ちゃんが聖女だと名乗ったか、そう思うように誘導したかのどちらかなんだろうけど。

 でも、どうしたものかな、これ。

 なんか、私が聖女なんですけど、なんて言い出せそうにない空気があの二人の中に流れてるんだけど……。

 ていうか、そんな事言った後の美子ちゃんが厄介な事になりそうだし……そもそも私、別に聖女だなんて名乗らなくてもいいし……普通に自己紹介だけしようかな?


「……マノン殿。何か勘違いをなさっておられるようですが……そちらの少女は聖女様ではありません。聖女様は、こちらの、ユイ・クルミ様です」

「え? ……えっ!? そ、そちらの方!? け、けれど……!!」

「あ……っ、ご、ごめんなさぁい。マノン様があまりにも真っ直ぐな目で聖女様って呼んでくるから、美子、言い出せなくてぇ……」

「えっ……な、なんと、そうでしたか……!! それは、失礼を……!! 申し訳ございません、貴女がとてもお美しい方でしたから、てっきり……!!」

「まあ……マノン様ったらぁ!」

「………………」


 私が聖女だと名乗らず済ませようと結論を出しかけたところで、キル様から訂正の言葉が告げられてしまった。

 それを聞いたマノンというらしい少年は一度私に視線を送ると、オロオロと私と美子ちゃんを見比べ始める。

 そして自分が聖女でない事がバレた美子ちゃんは、やんわりと責任をマノンさんに押しつけた。

 マノンさんはその事に気づかず自分の失態に謝罪すると共に、更に美子ちゃんを持ち上げた。

 ……うん、なんかすっかり美子ちゃんの手に落ちてますね。

 今日会ったばかりな筈なのに……なんという早業だろう。

 まあ、純朴そうな感じのする人だし、美子ちゃんにしたら落としやすかったのかな。

 ……まあ、正直他人の色恋なんてどうでもいいんだけど。

 なんか一気に疲れたし、ちゃちゃっと自己紹介だけして部屋に帰ろうかな。


「あの、私、ユイ・クルミといいます。旅の間、よろしくお願いします」

「あっ……! い、いえ、こちらこそ! とと、申し訳ございません、自己紹介が遅れました。私はマノン・デュオールス。デュオールス王国の第二王子でございます! よろしくお願い致します、聖女様!」

「あ、私の事は、ユイでいいです。様付けもなしで。皆様にそうして戴いていますから、貴方もそれでお願いします。……それじゃ、私部屋に戻りますからこれで。キル様、シャオ様、ユシャール様、失礼します。今日はありがとうございました。レシーナさん、また明日。ラオ君、行こう」

「え、えっ? あの……っ?」

「ええ、わかりました。ごゆっくりお休み下さい、ユイさん」

「お疲れさまでした、ユイさん。……ラオ、あとでな?」

「こちらこそ、ありがとうございました、ユイさん」

「うん、また明日ねユイちゃん、ラオ君!」

「それでは失礼します」


 私は皆に順に声をかけると、どこか戸惑った様子

のマノンさんを、いや、マノン様をそのままに、ラオ君と一緒に部屋へと移動を開始した。

 それを合図に皆も解散となったようで、それぞれに歩き出すのが横目に映る。

 立ち去る直前、『彼には少し申し訳ないが、これで彼女の担当は決まりだな』というキル様の呟きと、どこか黒い笑みが見えた気がした。

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