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再会、そして 2

今日二回目の更新です

「要望の話をする前に、いくつかお聞きしたい事があります」


 王太子様の目を真っ直ぐに見て、私はそう切り出した。

 すると王太子様はひとつ頷いて、無言で先を促してくる。

 よし、頷いたという事はたぶん、ちゃんと答えてくれるだろう。

 そう思って、私は質問する事柄を素早く纏め、再び口を開いた。


「まず、ひとつ目。聖女の役目についてです。私は何をするんですか?」

「ああ、そうですね。確かにまずはそれからだ。聖女の役目は、勇者と共に魔王を浄化する事です。ですから、貴女には仲間と共に、魔族領へ赴いて貰う事になります」

「!! ……えっと……ちょっ、ちょっと待って? それって、つまり私、魔王を生きたヌイグルミにするんですか? でもその為には、私魔王より強くならないといけないんじゃ……」

「あ、いえ、そうではありません。聖女の浄化の力は、勇者と協力する事で真の力を発揮します。正しくは、勇者の持つ聖剣の力と合わせる事で、ですが。ですから、魔王を生きたヌイグルミにする事はないんですよ」

「え……じゃあ、その勇者と協力して魔王を倒すって事……?」

「いえ、それも違います。倒すのではなく、浄化するのです。魔王は、いえ、魔族は、普段の食事とは別に、世界に満ちる負の力をその身に吸収し生きている生物なのですが……長く吸収し続けていると、狂うらしいのです。凶暴化し破壊衝動が強くなるそうで……その周期は、約千年に一度。近年、魔族が凶暴化し、魔王からの外交も途絶えた事を受けて、我々は狂ったと判断した。故に浄化を行う為、聖女を必要としたのです」

「…………。……え、えっと?」


 な、なんか今、聞き逃せない単語があった気が。

 魔族の生態事情に詳しいのは、古くからの確執で魔族について調べたと考えればまあ納得できるとして。

 けど……王太子様、今『魔王からの外交も途絶えた』って言った?

 ま、魔王って人間と外交するの!?


「あ、あの、その"狂う"状態になる以外でなら、魔王、いえ、魔族と人間って交流あるんですか……?」

「? 勿論です。文化は異なりますが、彼らもこの世界で自治を行い生きる生物ですから」

「も、勿論……? で、でも魔物は、人間を襲ってますよね? あ、それが、凶暴化って事?」

「え、いえ、魔族と魔物は、似て非なる、別の存在です。魔族の凶暴化とは、関係がありません」

「へっ……。…………。……ええと? ま、まあ……うん、なんとなく、わかりました」


 つまり、人間を襲うのは魔物であって魔族じゃなく、魔族は人間と敵対せず交流している、と。

 で、私は狂ったであろう魔王を勇者と協力して浄化して……しょ、正気に戻すって事なのかな?

 でも、狂って凶暴化して、破壊衝動が強くなった魔王って……やっぱりよくある魔王退治の英雄物語と同じように命の危険あるよね……?


「ラ、ラオ君、申し訳ないけど、私をしっかり守ってね……!! あ、でも怪我も気をつけてね!? 私を置いて死んじゃ嫌だよ!? 勝手を言うけど、私、ラオ君だけが頼りなんだから、死なない程度に頑張って守ってね!!」

「えっ……! は、はい、ユイ様。わかりました……ユイ様を残しては、死にません」

「うん、よろしく! ……って、あれ、なんかラオ君体温高くない? あ、なんだか顔もちょっと赤いよ? もしかして熱がある!?」

「いっ、いえ、大丈夫です……!!」


 私がラオ君の手を握って力みながら頼み込むと、ラオ君はしっかりと頷いてくれた。

 その直後、私はラオ君の手が熱をもっている事に気づいて発熱の心配をしたけれど、ラオ君はそれを否定して、何故か顔を背けてしまった。

 あ、あれ……?


「ラ、ラオ君? どうかし」

「ユイ・クルミ様。……話を、続けても?」

「えっ……えっと、ラオ君、本当に大丈夫?」

「はい、平気です」

「そう……? なら……わかりました、続けて下さい」

「…………。……では、続けますが。魔王浄化の旅には、他国からの協力者、つまり、仲間が加わります。勇者の青年、腕の立つ剣士の少年、優れた魔法剣士の青年、癒しの術を使う世話係の少女、そして魔法使いとして私が同行します」

「あっ。なら、あの、その同行者に、私を加えて戴けますでしょうか……?」

「え? 貴女を、ですか?」

「レシーナさん……? き、危険ですよ!?」

「あ、うん。ちゃんと話は聞いてたから、それは理解してるよ。けど……王太子様は、私の工房の土地と建設の手配、して下さるんでしょう? なら、ちゃんと私自身への報酬として、それを受けたいもの。ユイちゃんと契約した故での幸運じゃなくね。でないと私、とてもそれを受け取れないから。……王太子様、私は錬金術士です。戦闘に役立つアイテムや回復薬をいつでも用意できます。それに、得意とまでは言えませんが、戦闘もできます。連れて行って損にはなりません。ですからどうか、同行を許可して下さい。お願いします!」


 レシーナさんは王太子様を見つめてそう言うと、深々と頭を下げた。

 王太子様は暫しその姿をじっと見続けていたけれど、やがて微笑んで頷いた。


「わかりました。では、よろしくお願いします、錬金術士のお嬢さん」

「あ……! はい、ありがとうございます!」

「それは、私の台詞です。戦闘力が増えるのは、ありがたいのですから。……さて、ユイ・クルミ様。他に何か、聞きたい事や出したい要望はございますか?」

「え、他に……? ……。……美子ちゃん、は、どうなりますか?」


 あの最初の日に、美子ちゃんは"私を巻き込んだ"と言って、謝った。

 それは形だけのものに聞こえた言葉だったけど、でも実際は逆で、私が美子ちゃんを巻き込んでしまったんだ。

 できれば関わりたくない相手とはいえ、彼女の今後を心配しないわけにはいかない。


「彼女ですか……。……そうですね、決定はきちんと話をしてからになりますが、彼女にも旅に同行して戴くつもりです。浄化の力こそないものの、彼女のスキルと魔法の力は戦力になるでしょうから。……何より、城で働くある特定の者達の為に、城に置いてはいけませんからね」

「……旅に……。……そうですか」

「はい。……まあ、彼女が断る事はないでしょう。旅の同行者達は、見目がいい者ばかりですしね」

「!!」


 旅に同行するなら、とりあえず、美子ちゃんが食べるものとかに困る事はなさそうだ。

 あとは、旅の中で何か、その後の生活についてどうしていくか、標のようなものを見つけてくれたら、いいんだけどな。

 そう思ってひとまず安堵した次の瞬間、王太子様が発した言葉に、私はぴくりと反応した。

 み、見目がいい、同行者ばかり……?

 そんな人達がもし、聖女という肩書きがついた私を頻繁に構い、ただの同行者の美子ちゃんをあまり構わなかったら。

 表向きは普通でも、その人達の目がない裏では……理不尽な言いがかりのエンドレス状態になるんじゃ……!?

 ま、まずい、か、回避策……えっと、えっと……!!


「あっ、あの、それなら、私と美子ちゃん、接触する事がないようにして貰えませんか……!?」

「え? ……ユイ・クルミ様、それはどういう? 彼女の同行には、反対なのですか?」

「えっ、いえ、そうじゃないんです! 同行するならひとまず美子ちゃんが今後の生活に困る事はないだろうし、賛成ではあるんです! た、ただ……その……ちょ、ちょっと、事情がありまして……」

「事情……? ……。……わかりました。貴女の要望は叶えるという約束ですからね。そのように致しましょう」

「あ、ありがとうございます! あと……えっと。その、見目がいい同行者さん達も、できれば必要以上には私に構わないでくれると嬉しいんですけど……」

「え、同行者も、ですか? …………。……ああ……なるほど。そういう事か……。……わかりました。彼女が妬む事のないよう、配慮致しましょう。それでよろしいですね?」

「!! ……は、はい。よろしくお願いします……」

「ラオレイール殿、貴方も、今後会う事になるミコという少女には近づかないように。でないと、厄介な事になります」

「あっ! ラ、ラオ君、美子ちゃんには会っちゃ駄目! 姿を見せちゃ駄目! ど、どうしよう、どうにかしてラオ君を隠さなきゃ……っ!!」

「……。……キルアリーク様、申し訳ありませんが、フード付きの上着をひとつ、戴けませんか」

「! それだ! 今すぐ買いに行こうラオ君!!」

「え、いえ、ユイ様、今は……」

「ユイ・クルミ様、どうか落ち着いて下さい。私が用意致しますから」

「えっ、あ……はい、じゃあ、お願いします……」


 王太子様は、さすがに次期国王様というだけあって、頭の回転は早いらしい。

 私の少ない言葉から、私が何を懸念しているかを察してしまった。

 でもそれなら、私が心配したような事にはならないように、上手く取りはからってくれるだろう。

 ラオ君の上着も用意してくれるようだし、ひと安心だ。


「あっ! それと、最後に。旅の間も、できるだけ雑貨屋オープンに向けてできる事はやりますから! 街とかに着いて自由時間になった後の私の行動には、不干渉でお願いします!」

「はい、わかりました。元より、そういった時間は誰に対しても、よほどでない限り干渉する事はありませんから、ご安心下さい」

「そ、そうですか、なら良かった……! 私の要望は、以上です」

「そうですか。……では、王都、王城へ参りましょうか。同行者が揃うまでは、城にて一日数時刻、浄化の力を使いこなす訓練をなさって下さいね、ユイ・クルミ様」

「え……あの、それってお城でやらなきゃ駄目なんですか? どうせなら迷宮とかで、魔物相手にドロップ品入手しながらやりたいんですけど、王都の近くにはないですか? 迷宮」

「ああ……なるほど。わかりました。では王都より馬車で一刻ほど走る場所にありますから、そこで、という事で」

「わ、あるんですね、やった! じゃあラオ君、明日から旅立ちまではそこに行こうね!」

「はい、ユイ様」


 王都に向かうという事で、席を立ちながら、私達はそんな事を話し合う。

 王都近くの迷宮かぁ、どんな魔物がいるかなぁ?

 ちょこっとしか足を踏み入れなかったけど、シーファンの岬にあった迷宮には、魚とか蟹とか、海の生き物に似た魔物がいたし……生きたヌイグルミにしたくなるような可愛い魔物、いるかなぁ?

 楽しみだなあ。


「ああ、ユイ・クルミ様。その迷宮には私もご一緒してもよろしいですか? 私が都合の悪い日は、誰か他の者も。ラオレイール殿がいるとはいえ、貴女に万一があってはいけませんから」

「え、はい、いいですけど……。あの、私の事は、ユイで構いませんよ?」

「おや、ありがとうございます。けれど、聖女様を尊称でお呼びしないわけには……いえ、そうですね……それもご要望のうちなら、という事で、せめてラオレイール殿と同じように、ユイ様とお呼びしましょう」

「えっ……あっ、それなら! ねえラオ君、これからはラオ君も私を様呼びするのやめよう? ね、そうしよう?」

「え。………………。……わ、わかりました……それじゃあ、ユ、ユイ……さん」

「うん! ほら、王太子様、ラオ君と同じ呼び方するなら、様はいりませんよ?」

「い、いえ、そういう事ではないのですが……困りましたね。……ま、まあ、ご要望であれば、仕方がありません……わかりました、ユイさん」

「はい!」


 ラオ君と王太子様の私への呼称を改めて、私は満面の笑顔を浮かべた。

 最初にとりあえずはって事で流しちゃったラオ君の私への呼び方、実はずっと気になってたんだよね。

 変えるいい機会がこんなに早く訪れてくれるなんて思わなかったよ。

 ふふ、一石二鳥!

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