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ちょっぴりドジな錬金術士 2

「なるほどねぇ。お店に必要な品を作って卸してくれる職人を探してるんだ?」

「はい。……貴女が錬金術士なら、お願いできないでしょうか……? まだ工房を構えていない駆け出しなら、既に他の店との契約で手一杯、という事もないでしょう?」

「そりゃあね~。仕事なんて、冒険者ギルドか職人ギルドの依頼見てちびちびこなしてるくらいだし。どこかと契約なんて、ないない」

「ならっ……って、わっ?」

「すみませんユイ様。こちらへ」


 『話ならとりあえず歩きながらでいい?』と言った女の子と契約を取りつけるべく、冒険者ギルドへ向かいながらこちらの事情を説明し、再び頼み込もうとしたところで、私はまたラオ君に引き寄せられた。

 すると私のすぐ後ろを、人が通って行く気配がする。


「ああ……私、またぶつかるところだったんだね? ありがとうラオ君」

「いえ」

「あはは。気をつけないとだね? 下手すると私みたいにお財布落としちゃうよ?」

「うっ! そ、それは、困ります……」

「……落としたのではなく、すられたのでは? このシーファンには忙しない様子で通りを足早に歩く人々をよく見ますが、その中に、あからさまに不審な動きをしている者がいますから」

「へっ……?」

「ラ、ラオ君? 不審な、って……?」

「……前方に、周囲を見渡しながら歩く人や、話ながら歩く人をちらりと見て、途端に速足になり、その人達を避ける素振りも見せずそのまま突き進んでくる者がいるんです。明らかにおかしい。……貴女は財布をなくす前、誰かにぶつかったのではありませんか?」

「そっ……そう言われてみれば、二人ほど、人にぶつかった……!!」

「……では、その二人のどちらかにすられた可能性が高いですね」

「う、嘘ぉっ、そんなあ……!!」

「うわぁ……そ、そういえば、私もこの街に来てから人にぶつかりそうになってはラオ君に引き寄せて貰って回避してるけど、中には小さく舌打ちしていった人がいたような……! き、気のせいかと思ってたけどあれって……!! う、うわわわわ、ありがとうラオ君……!! 私も危うく財布がなくなるところだったんだね……!! き、気をつけなきゃ!!」

「いえ、大丈夫です。ユイ様の事は、俺が守りますから。ご安心下さい」

「う、うん、もしもの時はよろしく! 頼りにしてるよ……!!」

「はい」

「へえ~、護衛がいるって、こういう時も役にたつんだね……って、きゃ!?」

「チッ、気をつけろ女!」

「あっ、す、すみません!! ……うぅ……」


 横を見ながら歩き、私達と話していた錬金術士のお姉さんは、正面からきた人とすれ違いざまにぶつかってしまった。

 その事に悪態をつかれ、去っていく後ろ姿に頭を下げて謝る。

 そして顔を上げると、眉を下げた情けない表情でラオ君を振り返った。


「ねえ、護衛君……良ければ私の事も守ってくれない? ぶつかりそうになったら注意するくらいでいいからさぁ……」

「……貴女がユイ様の頼みを聞き入れるというなら、考えます」

「あ、うん。それは勿論、受けるよ。駆け出しの私に一店舗と契約なんて永続的に続く収入源の仕事が舞い込むのは、願ってもない事だし。そうしてどんどんお金が貯まれば、夢の工房設立が近づくしね! だから断る気はないよ」

「えっ! ほ、本当ですか!? 本当に、引き受けてくれますか!?」

「わっ!? い、痛い、ちょ、ちょっと、落ち着いて!」

「あっ……! ご、ごめんなさい!」


 ラオ君の言葉に対して錬金術士のお姉さんがさらりと返した返答に私は過剰に反応し、ついがしっと力任せにお姉さんの両腕を掴んでしまう。

 痛がって身を捩るお姉さんに我に返り、私は謝りながら慌てて手を離した。


「ふぅ、必死だね。大丈夫、本当に引き受けるから、安心して。それで、貴女のその店ってどのくらいの規模なの? こじんまりしてるなら卸す品数もそう多くないだろうし、品物は全部私が作って卸してあげられるよ? こう見えて私、かなり色々作れるからね!」

「わぁっ、嬉しいです、助かります! ありがとうございます! お店の規模はささやかなものですから、たぶん大丈夫だと思いますっ。オープンまでは、まだ期間がありますし」

「そう。ならそのラナフリールって街に着いたら、早速ご希望の品を作るよ。 オープンまでコツコツ作り溜めてあげる! 機材さえあれば、調合は宿でもできるからさ」

「は、はい、ありがとうございます! じゃあ明日になったらラナフリールに向かいましょう!」

「うん! じゃあ改めて、私は錬金術士のレシーナ・ジュレス。よろしく!」

「あっ、私はユイ・クルミです。よろしくお願いします!」

「……ラオレイールです。よろしくお願い致します」


 自己紹介をしながら手を差し出したレシーナさんの手を取り、私も名を名乗って、握手を交わした。

 それを見ながらラオ君も名乗って、私達はまた歩き出す。


「あ、着いたね。ここがこの街の冒険者ギルドだ。それじゃ、今日のところは私、お金稼ぎに依頼受けるから。ここで一旦別れようか」

「あ、はい。私達も、材料調達に迷宮みたいな場所に行きますから。それじゃ……あ、レシーナさん、宿はどこに?」

「ああ、大通りにある宿だよ。貴女達は?」

「あ、私達もそこです! それじゃあ、また宿で!」

「あ、そうなんだ? うん、わかった。じゃあ宿で」

「別行動ですね。スリにはお気をつけて」

「うっ!! ……あ、貴女達、迷宮に行くんだよね? わ、私も一緒に行こうかなあ……!! ドロップ品調達の依頼、ないかなあっと~!!」


 こうして、冒険者ギルドで一旦解散になりかけるも、ラオ君の最後の一言で、結局レシーナさんも近くの岬にあるらしい迷宮へ一緒に行く事となった。

 そして、翌日。

 レシーナさんという錬金術士さんを商品の卸し元として無事GETした私達は、意気揚々とラナフリールへと帰ったのだった。

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