第十四話 それは反撃の狼煙と呼ぶにはあまりにも眩しく、痛々しかった。
不在のため返信等遅れております。誤字報告いつも助かっております。
現場が大混乱するほど忙しい原因その2。
キノコに感染したオークを鍋にして振る舞っていたら、あちこちからやって来た。
何がって?
人が2割に野生動物が4割、残りがモンスター。
動物性たんぱく質ゼロなのに誰も文句言わない。黙々と器を受け取って行儀良く食べている。キノコ化したオークはナトリウム泉質の温泉水で煮込んでて……ちょっと待ってなんか怪しいので解析魔法発動、温泉水が微妙に光ってる。オークとキノコと相乗効果で、ごく微量だけど回復効果。状態異常解除は呪いも含む。あかん。若干だが若返り効果も乗ってる。
医薬業界がまた怒るヤツだ。
探索者の大半はこれ食べてて気付いてる。
食べてるそばから肌が綺麗になってるんだから、誤魔化せるはずもない。ハイソな方々も目の色が変わってる。金と権力で独占に走らないのは、おとなしく鍋をもらっている野生動物が怖いからだ。いやヒグマたちも隙あらば人間を襲いそうなのだけど、エゾオオツノジカの群れが囲んでおり一切の暴走を許していない。
黙って食え。
暴れるなら次は熊鍋だ。
アッハイ。
幕末ゴブリン族も思わず従っている。美味しい?ならいいのですが。ひとまず暴れてたオークを捕まえてダンジョンは落ち着いたと。
うん。
視界の片隅で新人相手にオタサーの姫プレイやってるビキニメイルは放置で。
◇◇◇
会議から帰ってきた支部長に心底呆れられた。
だが待ってほしい。
自分はオークを解体しただけ。怪しいのを煮込んだら美味しかったのは偶然で、それをエゾオオツノジカ君が食い始めたら周囲からみんなが集まって来た。そのままだと暴走されそうだったので振る舞いました。戦争になるので里芋は入ってません、というか里芋食う文化って北海道にあんまり根付いてないですね。
「里芋は英断だったな」
代わりにバカみたいなサイズの土瓶蒸しとアヒージョになっちゃいましたけどね。独り者に多くを求めないで下さい。
それで、凡その流れは伝わってきていますが会議に意義のある進展などは。
「第一回目の集まりにそこまで期待しないでくれ。本来なら年単位で取り組む事案だろう」
ですよね。
主導権争いで空中分解も覚悟してましたけど、意外というか。
「スズメバチの一件が相当堪えたと見える。君の地元は今ごろになって動物愛護団体と環境保護団体の過激派が来て連日抗議デモだ。レベルアップした動物たちに市民権とヴィーガンミートを与えたいそうだよ」
睨まないで下さいよ。
自分、あの手の団体から良い扱いを受けた記憶全くありませんし。意識がそっち向いてる内に何とかしましょうや。その手にあるモノ、切り札か何かでしょう?
「ああ、幾つかのジーンバンクがな。こいつを試してくれとわざわざ届けに来たよ」
綺麗にパッキングされた包みに書かれているのは、揃って同じ系統の名前のナマモノ。譲渡書類とかついてない、独断での横流し品だろうか。
「考えることは皆一緒だと笑っておられたが」
そっすね。
自分も基本路線は同じです。郊外で探す手間が省けました。
◇◇◇
ソレに意思と呼べるものはなかった。
核と細胞質に細胞壁。
生命として最もシンプルな、たったひとつの細胞から誕生したそれは、自らを増やしながら辺りのモノを分解し吸収することで糧とした。幸いにもソレは他が敬遠するものをも糧とし、真っ直ぐに、時に分岐しながら自らを増やしていく。
小さな虫に食われることもあった。
胞子を散布することもあった。
一本の枯れ枝の内に潜んで寒い時期をやり過ごすこともあった。拡大と縮小を繰り返し束ねた菌糸がワイヤーのようになり、枯れかけた街路樹の中に潜り込んだ。その頃この辺りは自ら以外に嵩の大きなモノはなく、動くものもいなかった。
異変は、予兆なく起こった。
自らのいる場所が、何か別のモノに書き換えられた。
取り付いた街路樹が、街路樹ではない何かに変わろうとして……変わりきった直後に、中核となる部分に自らの菌糸が侵入を果たした。
流れ込む力が、初めて朧気な自我を産み出した。
増殖への意欲。
強烈な飢餓を上回る、自らを満たした力への欲求。あちこちに拡散した、力の源。ソレは今までにない勢いで菌糸を伸ばし、力を次々と取り込んでいく。満たされる力は少しずつ生物としての格を上げ、意識の質を変えていく。
もっとほしい。
どこにある。
菌糸が増えれば増えるほど、意識は明瞭になる。
アソコだ。
ソレはやがて力の中心にまで菌糸を伸ばし、其処がただの入り口であることを知り歓喜という感情を理解した。
◇◇◇
自分です。
今日は解体テントを離れ、ダンジョン入り口にまで足を運んでいます。いやア、数の暴力。菌類がレベルアップしてダンジョン寄生とか想像できませんよね。
「笑い事じゃないんですけど」
うん、そうだね職員さん。
入り口の石畳をひっくり返してすいません。地面も掘りますけどね。うわ、ふっとぉ。断じて背後を見せたくない太さです。長芋だって少しは自重する直径で、ダンジョンから魔力がギュンギュン吸い出されてるのかな、表面を削ると漏れてくるが直ぐに菌糸に覆われて傷口が塞がってしまう。
「地下50センチ、こんな場所に」
皆さん物凄い表情です。
太いケーブルから産毛のような菌糸が腕に絡み付いてエネルギー吸おうとしてますわ。あ、ビキニ姐さんに菌糸束を伸ばし始めたぞバカヤロウそういう需要は無いんだよ。
「イヤーン☆」
おいやめてくれ姐さん、一応ここシリアスな場面なんだから。見ろよこの空気、地元の高校生が気まず……え、むしろ逆に興奮する? ハーフエルフと思えば大丈夫と。
……
……
若いって、凄いなあ。
自分にはとても。
……
……
「えいっ☆」
ギャアア、顔が剥けたアア!
「ノーノー、菌糸ぶった斬っただけデ~ス☆」
おい年齢の次は何を詐――なんでもないです。押忍、切断有り難うございます。
うむ。
触ってみた感じ、この菌糸束は市外まで接続してダンジョンの魔力を末端まで伝えるケーブルみたいな機能もありますね。推測通りです。さてと、こいつが菌としての性質を残したままなのか、それともレベルアップの影響で準モンスター化が進んでいるのか。解析しつつ触ってみますか。
魔法、あっそれ、魔法。
隅々まで染み渡る魔力、伝達素材としてとんでもなく高品質ですな。ダンジョンで魔力や栄養を吸収してダンジョン外に菌糸体を拡大しているが、供給が止まったことで特に反応は無し。ただ輸送し成長するだけの細胞群、そして魔力を受け入れやすい。驚くほど隅々まで探査魔法が届く。
よし、これなら解体魔法で――待って、ビキニ姐さん。なに魔力全開で構えてるんですか。
「肉屋、これは戦争の引き金になる代物だよ。今ここでぶっ潰す☆」
待って、姐さんエゾシカコレダー発生器に魔力込めすぎ。
笑顔で誤魔化さないで、この菌糸束は魔力伝達が凄いの。自分の解体魔法で樹木や建物から剥がすから発動待って待って待って、フィラメントに高圧電流どころの話じゃないから間に合えー!
「あはっ☆ 出しちゃえー!」
解き放たれた雷はエゾオオツノシカ君のそれとは比較にならないほど巨大な規模で、それらは根状菌糸束に吸い込まれると一気に拡散。市街地どころか郊外の林地にまで伸びていたナラタケの根状菌糸および巨大菌糸体の隅々まで雷のエネルギーで蹂躙、爆発させた。
「成★敗☆」
成敗じゃねーよ、市内あちこちがスタングレネード喰らわせたみたいに発光したし、煙も上がっとるわ!
+登場人物紹介+
●オークの土瓶蒸しとアヒージョ
東北の芋煮会ほどではないが馬鹿馬鹿しいサイズの鍋で煮こまれたスープ。食べると回復機能てんこ盛りもはや劣化万能薬と言っていいレベルのものに仕上がった。キノコの性質に加え、キノコがオークの植物素材を分解した際に発生する成分に薬効と旨味が含まれていた。偶然の産物かもしれないし、ダンジョンの意思かもしれない。厚労省が助走つけて殴ってくるレベル。
●炊き出しに来た皆さん
こんなすごいものを無料で食べていいと、しかもおかわりまで許されると。と恐々としている。でも食べる。
●支部長御一行
ダンジョン入り口を掘り返して頭を抱えている。
ビキニ姐さんのやったことに更に頭を抱えている。
●ビキニ姐さん
ナラタケ素材のヤバさに気付き、世間が求める前に抹消を決めた。
●ナラタケ素材
オーク感染体は万能薬の素材となり、根状菌糸束は極上の魔力伝達素材として様々な魔法具の材料に成りえる。主人公の解析魔法の結果より菌糸がある種の集積回路的な構造を形成していることを理解した直後にコレダーした。
●主人公
ナラタケ菌糸体の構造に魔力同調した結果、その構造が意味するところを理解していなかった。理数系は不得意のようだ。ギリギリ解体魔法が発動したため、菌糸は樹木や構造物から分離した状態で燃え尽きることになる。




