27.バッドエンドになっちゃった
「……封印します」
……ルナが歩み寄ってきて、タンポポの綿帽子をアイテムボックスから出す。
ふっとそれを吹くと、綿帽子がふわふわとむき出しになった爆心地のクレーターに舞い降りる。
「穢れた大地に女神の慈しみを、魂の浄化を、女神ルナテスの名において、あなたの罪を許します……。大いなる自然の恵みに感謝を、花たちに愛を、春の息吹を、あなたの魂に変えて、この大地に祝福を与えます……」
魔法のように、一面にタンポポが咲き乱れる。
魔王が浸み込んだ土に一粒の種を植える。
「……それは?」
「世界樹の種です」
植えた後に、聖水を振りかけると、芽が出て、幹が伸び、葉が開き、ざわざわと生い茂り、たちまち世界樹は一本の大木となった。
「……お別れです」
ルナが振り返って、微笑む。そのほほを涙が伝う。
「……愛してました。あなた」
「俺は、ずっと君に……恋している……」
「幸せでした。私にはもうないと思っていた、一生分の冒険と、一生分の恋を、あなたとできた。たくさん、たくさん、愛してもらえました……」
「君は素敵だった。俺の全てをあげたかった」
「お別れすること……、知ってました?」
「わかっていた……。一夜、一夜が、まるで最後の夜みたいだった……。明日にはもう会えなくなる、そんなふうに君は……」
「ごめんなさい……私、女神なのに、あんなに淫らで、幻滅したでしょう」
「君は愛の女神だ。愛し合っているときの君が一番素敵だった。美しかった」
「嬉しいです。幸せです。もうなにもいりません……」
ルナは、世界樹の木に手を当てた。
「私は、世界樹とひとつになります。この世界から、もう二度と、人々を苦しめるものが現れないように、ここで封印の力となります」
「……」
「さようなら……あなた。大好きでした」
「ルナ……」
そうして、ルナは、消えてしまった……。
涙が出た。悲しかった。いつまでも泣いていたかった。
世界樹は成長を続ける。どんどん大きくなる。
どこまで大きくなるんだ。
夕暮れに、成長に、陰りが出た。
葉が枯れ始めた。
葉が落ち始めた。
……足りないのか?
……ルナだけでは、まだ不足なのか?!
枝が、落ちる。
俺でいいか? 俺でなんとかなるか?
世界樹の幹に手を当てる。
力が抜ける。ものすごいなにかを吸われてゆく。
俺の命か?
俺の魂か?
くれてやる。
いくらでも持っていけ。
ルナの木を枯れさせるものか。
葉が開く。
枝が伸びる。
まだ足りないか。
もっとほしいか。
全部持っていけ。
もうなにも惜しくない。
俺の全てはルナのものだ。
頼む。
ルナと、ひとつにさせてくれ。
「佐藤雅之さん、お気の毒ですが、あなたは亡くなられました……」
なにもない白い空間。ただただ白い……。
「ルナあぁああああああ――――――――!!」
絶叫した。
「ルナは!! 世界樹は! どうなった!!!」
目の前の知らない女神に問いかけた。
「ありがとうございました。世界樹は無事です。あなたのおかげです」
「……そうか」
「……」
「……すまん、しばらく、泣かせてくれ……」
「はい」
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ここまで読んでくれてありがとうございました。
続編、「理系のおっさんが物理と魔法で異世界チート4(最終章)」もよろしくお願いいたします。




