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第93話 色を塗ってくれた

 










「これからは、精霊様に付いて行こう! 俺たちで、破壊神を倒すんだ!!」

『おおおおおおおおおおお!!』


 歓声を上げる反破壊神の男たち。

 皆武器を手に握り、目は殺気立っている。


 破壊神は、倒されなければならない。

 そう彼らは信じているし、事実間違いではない。


 破壊神がこの世界に存在し、精霊を駆逐すれば、間違いなく世界を支配するのは彼になるだろう。

 世界征服を認めることのできない彼らが戦いを選ぶのは、当然だった。


 しかし、彼らだけではどうしようもない。

 千年前、世界中の戦力が集まってなお倒しきることができず、何とか封印することができた。


 そこには、勇者や魔王……神々といった、超越した力の持ち主も入っている。

 一方で、彼らにそれほどまでに強大な力はない。


 数だって、かつての戦争時に比べれば非常に少ない。

 それゆえに、彼らが決意を固めて蜂起したとしても、あっけなく潰されて終わりだろう。


 それが、本来あるべき結末だった。


「ってことなら、俺たちも協力するぜ」

「ええ。力になりましょう」

「せ、精霊様!?」


 しかし、その本来あるべき結末を覆すことのできる者たちが現れた。

『ガイスト』に所属する精霊だ。


 あの投影に映っていた者であることを確認し、反破壊神の人々は歓声を上げる。


「よ、よし! 精霊様まで力を貸してくれるのであれば、破壊神なんて敵じゃない! 俺たちを脅かす世界の敵を、撃ち滅ぼすぞ!!」

『おおおおおおおお!!』


 彼らは声を上げて精霊を迎え入れる。

 その顔には、必ずや破壊神を駆逐することができるという確信が張り付いていた。


 しかし、それは自分たちでは成し遂げることができず、精霊の力を借りて、である。

 彼らが人狩りをしているという現実を直視しないまま……。


 そして、破壊神を倒した後、その世界を支配するのはまたもや強大な力を持つ精霊になってしまうということからも目を背け……。


「本当、馬鹿ですねぇ……」


 精霊の嘲笑が、小さく響いた。











 ◆



「っていうか、何でこんな回りくどいやり方してんだ? 破壊神が精霊を殺すことができるって言ったって、俺たち全員で襲い掛かれば余裕だろ?」


『ガイスト』の本拠地――――と言っても、集まるのは精霊三人だけだが――――で、精霊の一人であるベニーが頭の後ろで手を組みながら呟く。

 彼は、どちらかと言うとマルエラの性格に近い。


 正々堂々ということが好きというわけではないのだが、こういったまどろっこしい搦め手を使うよりも、さっさと力で押しつぶせばいいではないかと考えるタイプであった。


「念には念を、ですよ。あなただって、別に死にたいわけではないでしょう? 勝つことはできるでしょうが、それでもこの中で一人くらいは破壊されても不思議ではありません。その一人になる覚悟はおありですか?」

「嫌だね。俺はもっと楽しみたいんだ。せっかく、魔素の満ちた世界に遊びに来られたんだからな」


 しかし、この作戦を考えた精霊――――レオンの言葉に、あっさりと頷く。

 彼らは、自分たちの優位を疑っていることはない。


 だが、破壊神のことをただの雑魚と思っているわけではなかった。

 一人の精霊を倒した、というだけなら、まだまぐれだと笑うことができただろう。


 とはいえ、それが二人、三人と続いて、しかもその中の一人が精霊の中でもトップクラスの力を持っていたマルエラまで入っているのだから、もはや油断も隙も見せるわけにはいかない。


「別に遊びに来たわけじゃないけどねぇ」

「うっせ。ちゃんとしていたのって、ヴェニアミンだけだろうが」


 ヴェロニカがボソリと呟く言葉に、ベニーは眉を寄せる。

 本来、精霊がこの世界に侵攻してきたのは、元の世界で魔素が枯渇しかかっており、それを他所から奪ってくるためである。


 まあ、その任務を忠実にこなそうと努力していたのは、ヴェニアミンだけであるが。

 そんな彼も自分の研究をしていたのだから、その個性の強さは計り知れない。


「それに、敵は少ない方がいい。この世界の人間は私たちの敵にはなり得ませんが、鬱陶しいのは事実です。破壊神にはしっかりと集中してぶつかりたいですしね」


 この世界の人間がどれほど集まろうが、精霊の敵にはなり得ない。

 たとえ、この三人に対して千の軍勢が襲い掛かってきたとしても、彼らは勝つだろう。


 だが、その勝つためにはそちらに意識を向けて攻撃を仕掛けなければならない。

 その間に、精霊を破壊しうる破壊神に対して、注意がおろそかになってしまうことは十分に考えられる。


 それを避けるための、離間の計。

 破壊神の味方になる者を減らし、敵になる者を増やせば、必然的にその危険性は大きく下がるのである。


「というか、何であんなに上手くいったんだ? ただ、ヴェロニカが喋っただけだろ? いくら何でも、破壊神にたてつくまでにたきつけることができるとは思えないんだが……」

「もちろん、あの演説には暗示や催眠といったものがかけられています。ヴェニアミンの遺産ですね」

「……あいつ、本当役に立つ奴だな」


 破壊神に好意的でない感情を抱いていない者ならばまだしも、中立であったり多少好意的であったりするはずの者まで、反破壊神へと引き込んだ。

 それは、ヴェロニカの演説にヴェニアミンの洗脳道具を付与していたからである。


 そのため、狂信的なまでに破壊神を崇拝していなければ、皆精霊の操り人形へと成り果ててしまったのである。


「今まで慕ってきてくれていた人間から敵意と殺意を向けられれば、どうですかね? 人は、少なからず他人からの評価を気にするものです。そして、その高評価が反転すれば……心理的なダメージは、大きなものになるでしょう」

「あー……確かに、精神的なダメージがあれば、不思議なことに一気に身体も付いてこなくなるからなあ」


 レオンの言葉に、訳知り顔で頷くベニー。

 人は……というよりも、生物は自分だけでは生きていけない。


 だからこそ、社会というものを築くのだが……そこで重要になってくるのが、評価である。

 相手からどのように思われるか、感じられるか。


 それによって、その社会における地位が決まり、尊重されるかどうかが決まるのである。

 そのため、評価が下がるようなことは当然避けたいことであるし、何よりも自分に対して好意的な人々が一気にそれを翻すこと。


 それが、どれほど心に大きな負担となるか。


「不思議ではありませんよ。健全な肉体は健全な精神があって初めて作られるものです。その精神が死んでいれば、肉体もボロボロになる……。流石にあの破壊神が精神的に死ぬ、までは思えませんが、大きく能力を低下させてくれていることでしょう」


 味方であったはずの人々が、敵にまわって本気で命を狙ってくる。

 多くの人が平静ではいられないだろう。


 破壊神も、その強大な力を除けば他の人間と変わらない思考能力のはずだ。

 であるならば、この作戦はまさに一石二鳥の優れたものだと、レオンは自画自賛していた。


 しかし……。


「そうかしらぁ?」

「ヴェロニカ?」


 それに疑問を投げかけるのが、ヴェロニカである。

 この『ガイスト』の発起人であり、リーダー格の精霊。


 彼女は、その作戦……とくに、精神的なダメージを与えるというものに、強く疑念を抱いていた。


「あなたがそう思うのであればぁ、私から何も言うことはないけれどぉ……。私の予想を言わせてもらえばぁ……」


 うーんと悩んでから、艶やかで退廃的な笑みを浮かべる。


「あの神様ぁ。多分、他人から何を思われようが一切気にしないと思うわよぉ?」


 それは、ずっとバイラヴァを見ていたからこその発言である。

 あの破壊神が、誰かから嫌われ殺意を向けられた程度で、酷く落ち込むような可愛い性格をしているだろうか?


 むしろ、大笑いして嬉々として迎え入れそうである。


「(そんな豪快なとこも大好きぃ。潰してやりたいわぁ)」


 くねくねと豊満な肢体を揺らし、よだれを垂らさんばかりに蕩けた表情を浮かべるヴェロニカ。

 その色気に当てられても不思議ではないのだが、ベニーとレオンは明らかに引く。


「……それは、ありえません。意思を持って考えることができる者である以上、一切何も感じないということは」


 レオンは苦し紛れに反論する。

 一番バイラヴァのことを知っているのはヴェロニカだ。


 その彼女が言うことには考慮すべきことだが……レオンはプライドが高い。

 これは、基本的に精霊全体に言うことができるが、この世界に来てから一度も揺らぐことすらなかった支配者としての立場が、それを強くさせていた。


 だからこそ、自分の間違いや過ちを認めることはできなかった。


「まあ、楽しみにしているわねぇ」


 作戦が失敗すれば、同じく『ガイスト』所属のヴェロニカも危うくなる。

 しかし、それすらも楽しい。


 つまらない世界に色を塗ってくれたバイラヴァに、彼女は笑みを浮かべて想いを馳せるのであった。




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