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第141話 オリジナル

 











「……貴様はどうしてそこまで殺意を抱いている?」


 管理者を殺す。

 その大言壮語に、思わずバイラヴァも目を見開く。


 管理者のことを知っているのであれば、彼らの強大さも知っているだろう。

 管理者。それは、文字通り世界を管理する者のことである。


 いや、世界だけではない。

 世界で起きるありとあらゆる事象や出来事は、すべて管理者の掌の上で行われていることである。


 いわば、ゲームマスターだ。

 彼らの望みや意向はすべて現実のものとなり、それらはこちら側からは認識できない空間から監視されている。


 そもそも、存在している次元から違うのだ。

 それらを殺そうというのは、かなり飛躍した言葉である。


『無論、やつらの思い通りに、人形のように操られることが不快で仕方ないからじゃ』


 そう考えるのは、ひとえに今の言葉が理由である。


『それだけではない。奴らの力であれば、やつらの思うままに世界を……この現実を改変することができるだろう。奴らの気まぐれで、世界が崩壊することだって考えられる。そんなこと、許されるはずがないだろうが』


 ギシリと歯が悲鳴を上げる。

 馬鹿げていると思うかもしれないが、管理者はその気になれば本当に世界を崩壊させることだってできる。


 大して力を使わず、葛藤することもなく、あっさりと。

 すべてを支配してきて、上に立ってきた精霊王からすれば、そのようなことは決して認められないことだった。


『だから、ワシは管理者を殺す! そのためには、魔素が……奴らと戦うために大きな力となる魔素が必要なのじゃ!』

「そのための異世界侵略か。……ふん」


 強力な魔法をもって管理者に抵抗するというのであれば、魔素は必要不可欠だ。

 体内で生成されるような微量なものでは足りない。


 それこそ、世界を一撃で崩壊させることができるほどの魔法が、管理者への反逆では必要となるだろう。

 そのための、魔素だ。


 そのための、異世界侵略だ。

 なるほど、理解できる。


 その目的自体への理解ではないが、精霊王が狂ったように異世界への侵略を繰り返していた理由への理解にはなる。

 しかし……。


「貴様の行動が、それこそ管理者に仕組まれているものだと、どうして考えられん」

『なに?』


 ぼそりとつぶやかれたバイラヴァの言葉。

 本当に誰に聞かせるつもりでもなかったため、精霊王も聞きとることができなかった。


「いや、何でもない。貴様に話すべきことではない独り言だ」


 バイラヴァもすぐに首を横に振る。

 問い詰めようにも、彼の雰囲気を感じ取るに、おそらく一切話すつもりはないだろう。


 精霊王は切り替えて、聞かなければならないことを口にする。


『ならば、答えを聞こうか。ワシとともに管理者を殺すか。それとも……ここでワシに殺されるか』


 究極の二択ともいえる、と精霊王は自覚していた。

 管理者との戦争は、非常に過酷なものになるだろう。


 それこそ、命を落としかねないほどの。

 一方で、それに応じなければ、ここで殺すという脅迫。


 それに対して、バイラヴァは恐怖でも悲痛でもなく、嘲笑を浮かべる。


「もちろん、我がここで貴様を殺すのだ、精霊王よ。貴様はここで死に、魔素の蒐集もここで終わる」

『愚か者めが。選択を誤りおって……!』


 バイラヴァの答えを聞いて、精霊王は一気に殺意を膨れ上がらせる。

 もはや、取り繕ってご機嫌をうかがう必要なんてない。


 全力でつぶす。

 それだけだ。


「それに、管理者も【すべて】が悪人というわけではないぞ。節穴め」

『なんだと? お前、どうしてそんな知った風な口を……』


 眉を上げる精霊王。

 おじけづいて管理者との戦争に参加しないことは理解できるが、まさかあの破壊神からかばうような言葉が出てくるとは思わなかった。


 むしろ、自分と同じく管理者に対して反骨精神を持っているものだとばかり思っていたのだが……。

 どうしてそのようなことを口にしたのか、悩む精霊王。


 悩んで悩んで……彼は、一つの答えを導き出した。


『そうか! お前、【オリジナル】か!』


 大量に発汗しながら、大きく目を見開く精霊王。

 オリジナルという言葉に、一瞬バイラヴァの肩が跳ねる。


 オリジナルとは、管理者たちがとある特徴を持つ下界の個体に与えた名である。

 その特徴とは、すなわち管理者自らが作り出した存在であるということ。


 世界に生み出された、最初期の個体。

 それこそが、オリジナルである。


『ああ、そうか! だから、お前は管理者のことを知っているのじゃ! 奴らをかばい立てするのじゃ! ああ、そうか!』


 精霊王の怒りが膨れ上がる。

 彼からすれば、管理者もそれに作り出されたオリジナルも同罪である。


 抗い、殺す対象であることに変わりはない。


『管理者側の者が、まさか破壊神などと呼ばれているとはのう。お前をここで殺す理由が、また一つできたわ。先ほどの話は聞かなかったことにしてくれ。お前はここで殺さねばならん!』

「我が管理者側だと? それもまた見当違いも甚だしいが……貴様を殺すことには変わりない。やる気になってくれたようで、何よりだ。さあ、それじゃあ……」


 精霊王の苛烈な宣戦布告。

 それを受けて、一瞬不愉快そうに顔をゆがめるバイラヴァ。


 しかし、精霊王が殺しあいに積極的になってくれたことに、歓喜の笑みを浮かべる。


「最後の戦いを始めようか」


 破壊神と精霊。

 その最後の戦いが、幕を上げるのであった。




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