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第132話 舞い戻る

 










 これまでのことで、一件落着……というわけにはいかなかった。

 その後、精霊王による謀略と干渉が続く。


 彼の干渉によって、妖精という存在が世界中に知られるようになり……そして、乱獲が始まった。

 もともと好奇心が強く悪戯好きな彼女たちは次々に捕らえられていき、どんどんとこの世界を守る結界が弱まっていった。


 もはや、その妖精狩りの流れは、止められるものではなかった。

 小さく、容姿の整った妖精たちは、愛玩用として非常に高く売れる。


 妖精たちの持つ魔力も高いレベルのもので、搾り取って様々なことに流用することができる。

 それゆえに……もう、妖精たちを守る手段はなくなっていた。


 だからこそ……破壊神は決断した。


「このままでは、妖精たちは狩り尽くされ、この世界を守る結界はなくなり、貴様の元いた世界の侵略は避けられないことになる」

「……そうね」


 ヴィルは、バイラヴァの肩に座っていた。

 最初は慣れなかった小さな妖精の身体だが、今ではこの小ささでないと違和感を覚えるほどになっていた。


 そして、あれほど一緒にいるのを嫌がっていたバイラヴァであるが、もうヴィルが近くにいても何も言わないくらいにはなっていた。

 口調もすっかり慣れ、今では敬語を使うことはまったくというほどなくなった。


 そうしてずっと一緒にいるようになってから、バイラヴァのこのような顔を見るのは初めてのことだった。

 怒りでも、悲しみを抱いているわけでもない。


 無表情。現実をしっかりと受け止め、把握しているからこそである。

 ヴィルもまた、バイラヴァの意見には同意であった。


 妖精になったからこそわかる。

 この世界を守る結界は、どんどんと弱くなっていっていると実感できる。


 このままでは、あの精霊王の思うつぼだろう。

 しかし、妖精たちの乱獲は止まらない。


 どうすればいいのか。

 頭を悩ませるヴィルに、バイラヴァが短く告げる。


「それゆえに、我はこの世界を破壊する」

「え……?」


 世界を破壊する。

 おとぎ話に出てくる、陳腐な悪役のようなセリフだ。


 その言葉を、まさかバイラヴァから聞くことになるとは思っておらず、ヴィルはポカンと口を開ける。


「我という強大な敵が……世界の大敵が現れれば、妖精狩りをしている暇すらなくなるだろう。我に全ての注目と畏怖を集め、妖精たちから目を逸らさせるのだ」


 ……確かに、バイラヴァの言うことには一理あるかもしれない。

 妖精が娯楽目的で乱獲されているのは、この世界に余裕があるからだ。


 大きな戦争もなければ、災厄もない。

 病気が世界的に蔓延することもなく、人類と魔族の大規模な紛争も何年も起きていない。


 だが、そこに大きな厄災が降りかかればどうだろうか?

 妖精たちを愛玩するような余裕はなくなるだろう。


 それが、神の一柱であるのであれば、なおさらだ。

 だが、そんなことをすれば……。


「そ、そんなことをしたら……あなたがあまりにも……! あなたは、世界のために自分を殺す気なの!?」


 バイラヴァは強大な力を持っている。

 それは、妖精になってからずっと一緒に過ごしてきたから、よくわかっている。


 だからと言って、この世界を相手にたった一人で勝てるなんて、そんな都合のいいことは考えられなかった。

 数は力だ。確実に押しつぶされてしまうだろう。


 それは、自らの命と引き換えに、この世界の寿命を少し伸ばすだけのように思えて、ヴィルは悲鳴じみた声を上げてしまう。


「そんなわけあるか。我がこの世界のために自分を殺すだと? ありえない。我は破壊神だぞ?」


 しかし、バイラヴァはあきれたようにヴィルを見た。

 自分は、そんな性格ではない。


 ましてや、破壊神である。


「そもそも、世界に暗黒と混沌を齎すことこそが我が使命。そして、この世界は破壊神である我のものである。どうやら、この世界の連中はそれを忘れているようだ。だから、それを思い出させてやるだけのことよ」


 好戦的にほくそ笑むバイラヴァ。

 だが、その内にある思惑のことは、ヴィルはよく分かっていた。


 彼はそんなことを言いつつも、この世界のことを誰よりも考えて……。


「……なら、あたしも手伝うわ」

「なに?」


 考える暇もなく、そのような言葉が出ていた。

 バイラヴァが怪訝そうに見てくる。


 ただ見られるだけでも最初は怯えていたというのに、今ではしっかりと見返すことができるようになっていた。


「もう、あたしとあなたは一蓮托生よ。最後まで付き合うわよ」

「……ふん。邪魔はするなよ」


 ヴィルの言葉に、口ではそういいつつも口角が上がるバイラヴァ。

 まったく、ツンデレな男だ。


 ヴィルもふっと笑みを浮かべ……。


「分かっているわ。じゃ」

「我の中に入ってくるなと何度言えば分かる!!」


 光の玉になってバイラヴァの中に入ろうとして、彼に怒鳴られるのであった。

 その後のことは、有名だ。


 破壊神バイラヴァが世界に牙をむき、世界中は国家や種族の垣根を越え、一致団結してそれに抗った。

 とてつもない被害を出しながらも、神々の力を結集させ、ついに封印することに成功したのであった。


 そして、それから千年の月日が流れ……。


「破壊神ねぇ。私の退屈を終わらせてくれるかしらぁ?」


 精霊ヴェロニカの干渉もあり……。


「ふははははははははっ! 我、復活!!」


 破壊神バイラヴァは、再びこの世界に舞い戻ってきたのであった。




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