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第127話 悍ましい化け物

 










 森の中を駆ける。

 足元も整備されておらず、非常に走りづらい。


 何度もつまずき、転げそうになる。

 それでも、11号は走ることは止めなかった。


 飛び出していた木の枝に引っ掛かり、頬が裂けて血が散る。

 だが、その程度で速度は一切弱まることはなかった。


 そのまま走り続け、そして……10号と妖精たちの元にたどり着いた。


「どうしたんですか!?」

「あ、あの子が……おかしくなっちゃった……」


 近くで尻もちをついていた妖精に声をかける。

 すると、フルフルと指をさす。


 その方向を見れば……。


「じゅ、10号!?」

「あっ、ぐっ……ああああああああっ!?」


 自身の身体を抱きかかえ、もだえ苦しむ10号の姿があった。

 どう見ても、自分との戦闘による後遺症ではない。


 何か……身体の中で暴れまわっているのを、必死に抑え込み、激痛を堪えているように見えた。


「ど、どうしたんですか!? しっかりしてください!」

「じゅ、11号ちゃん……!!」

「10号! これはいったい……!?」


 すぐに駆け寄り、10号の身体を支える。

 直に触ると、大量の汗が噴き出していて、べっとりとしていた。


 何よりもゾッとしたのは、恐ろしく身体が冷たくなっていたことだ。

 汗をかいていたら、身体が冷えるのは理解できる。


 しかし、その限度を遥かに超えていた。

 また、10号の皮膚の下で、何かが蠢いていた。


 ボコボコと皮膚が波打っている異常な光景は、喉まで熱いものが込み上げてくるほどの悍ましさがあった。

 凄まじい激痛に襲われているのだろう。


 10号の顔は血の気がまったくない死人かと思うほど白く、眼の焦点も合っていなかった。


「はぁ、はぁ……っ! 精霊王の仕業よ……! あいつ、私たちの身体に何か埋め込んでいたんだわ……! 最初から、期待も信用もされていなかったっていうことね……っ!」

「で、でも、それなら、あたしはどうして……!?」


 突然の豹変と身体の異変。

 創られた存在である人工精霊ならば、その創った大元の精霊王を疑うのは当然だろう。


 彼ならば、何かしらの毒とも言える異物を体内に入れることは容易なはずだ。

 おそらく、この任務が失敗して、逆に情報をとられかねない状況に陥った時や、人工精霊たちが自分の意に反するような言動をとれば、発動するようになっていたのだろうと、10号は予想していた。


 不可解なのは、彼女よりも精霊王に明確に反していた11号が、何の異変もないことである。

 だが、10号はそのことの予想もついていた。


「た、多分、あなたにも入れられているわ。だけど、精霊王は……っ! あいつは、私にあなたを殺させようと……あるいは、あなたに私を殺させようとしているのよ……!!」

「そ、そんな……っ!」


 サッと顔を青ざめさせる。


 そんな外道、ありえない。

 そう叫びたかったが、かの精霊王なら……と考えると、完全に否定しきることができなかった。

 大切な者に殺され、大切な者を殺すことを強要する。


 なんて悪趣味で、反吐が出るような『毒』だろうか。


「ごほっ……ぐっ、うああっ!? 痛いっ! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」

「10号!!」


 ここにきて、さらに皮膚の下を蠢く何かが活動を激しくする。

 ボコボコと、何かが10号の身体を突き破ろうと体内で暴れているようだった。


 悲鳴を上げてのた打ち回る10号に駆け寄る。


「11号ちゃん!!」

「ッ!」


 すると、強く細い肩をガッ! と鷲掴みにされ、眼前に10号の顔がくる。

 彼女の美しい顔は、もはやその名残を残さない。


 目は真っ赤に充血して血を流し、鼻や口、耳からも当然のように出血がある。

 体内で何かが暴れまわったせいだろう。


 顔は、目を背けたくなるほど痛々しくはれ上がり、色も中で血管が切れてしまったのか、赤紫になっていた。

 大切な存在なのに、一歩足を後ろに引いてしまう。


 その事実に、何よりも11号が自分自身を殺したくなった。


「お、お願い……! 分かるわ。私の中から、私じゃない何かがせりあがってくるのが……! それが、もう抑えきれないことが……!!」

「10号……!」


 10号はこんなにも苦しんでいるというのに。

 こんなにも必死に耐え忍んでいるというのに。


 自分は、いったい何をしているのか!

 10号は、自分の説得に応じて、自分のために妖精を殺さないと言った。


 それを、精霊王への反逆と捉えられ、この地獄を味わっているのだ。


「(何とか……何とかしなければ……!)」


 必死に頭をめぐらせる11号。

 考えろ! この間にも、10号は苦しんでいるのだ!


 考えろ……考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!


「だから、11号ちゃん。お願い」


 一転して、穏やかで、静かな声。

 ハッと顔を上げる11号。


 その顔には、びっしりと汗が浮かび上がっており、妖精たちは今にも死にそうなのは彼女の方ではないかと思ってしまうほどだった。

 そう思った理由は、10号の表情である。


 10号の顔は、全てを受け入れた穏やかな……そんな『諦めた』顔だった。


「私を、殺して」

「……ッ!?」


 ボソリと。風が吹けば聞こえなくなってしまうほど弱弱しい小さなかすれた声。

 しかし、その言葉は、11号の耳に確かに届き、その中で嫌に響き続けていた。


 何度も言葉を出そうとして口を開くが、声が出てこない。

 それでも、11号はしゃがれた声を絞りだした。


「し、死にたくないと、言っていたではありませんか! だから、私とも戦って……!」

「そうね。でも、もうダメなの。これは、どうしようもない。精霊王の、人工精霊に裏切られた時のための爆弾なのよ。そして、それはもう起動してしまった」

「そんな……」


 ガクガクと震える11号。

 自分の手で、10号を殺す?


 そんなこと……できるはずもなかった。

 先ほどの戦闘でも、11号は10号を殺すつもりなんて微塵もなかったのだ。


 なのにもかかわらず、無抵抗の10号を自分の手で殺すなんて……そんなこと、できなかった。


「早く! 私が私でいられる間に! そうしないと、私はあなたたちを……!!」

「ふっ、ぐぅぅ……っ!」


 だが、10号は苦しんでいる。

 血を噴き出し、全身を変形させながら、それでも自分に殺されようと……自分の意識が保っている間に、一番大切な人に殺してほしいと。


 地獄の苦しみを味わいながらも、彼女は必死に耐えているのだ。


「早く!!」


 10号に怒鳴られる。

 怒りではない。11号を心配して、この期に及んでも自分よりも11号のことを思いやって叫んだ。


「あああああああああああああああああああっ!!」


 それは、しっかりと11号にも届いていた。

 地面に捨てられていた10号の剣を握り、彼女の元へと突き進む。


 ようやく自分を殺してくれる決意をした11号を見て、10号はホッと息をついた。

 そう、『油断してしまった』のだ。


「がっ!?」


 吹き飛ばされたのは、11号の方だった。

 剣が手からこぼれ、地面を転がる。


 完全に防御のことを考えていなかったため、呆然と『それ』を見上げたのであった。


『■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』


 そう、決して人の言葉ではない雄叫びを上げる、『それ』を。


「10、号……?」


 そこに現れたのは、優しく美しかった10号とは似ても似つかない、悍ましい化け物だった。




前作コミカライズの第11話が、ニコニコ静画とコミックリュウで公開されました。

下記からはニコニコ静画に飛ぶことができますので、ぜひご覧ください!

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