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第121話 初めての死線

 










「……ご存じの方ですか?」


 11号は思わず妖精に尋ねる。

 しかし、その目は決して歩いている二人から離さなかった。


 草食動物が、天敵である肉食動物を見つけた時のように、決して。

 目を離せば、命を落とすことになる。


 そう本能で理解しているからである。


「うーうん。知らないよ」

「えっ……? じゃあ、どうしてそんな歓迎しているんですか?」

「どうしてって……面白い人だからだよ」

「面白い……?」


 えへへっと笑う妖精たちに、人工精霊たちは目を合わせる。

 そもそも、彼女たちは警戒心が薄い方なのだろう。


 自分たちを妖精郷に招き入れていることからも、理解できる。

 しかし、あんな『恐ろしい』二人を歓迎するほど馬鹿なのか?


 彼らを見て、面白いなんて感想が出てくることはありえない。


「ええい! 本当にいつまでついてくる! 鬱陶しいわ!」

「バイラヴァ様が考えを改めて人々のことを救ってくださるまでですわ!」

「世界破滅の時までついてくる気か!?」

「そこまで人助けが嫌ですの!?」


 ズンズンと先を歩く男に、女が必死について行っている。

 そのたびに揺れる圧倒的戦力の胸部に戦慄しながらも、彼らから目を離すことはできない。


 どうやら、男は離れたがっているようだが、女がそれを許さないようだ。

 痴話喧嘩とも一瞬考えたが、そんな雰囲気は微塵もないので、また異なっているのだろう。


「というか、何でそんなに嫌がるんですの? 赤の他人ならまだしも、バイラヴァ様をお慕いする『バイラヴァ教』の信者もいらっしゃいますのに……」

「我はあいつらを認めたことなんて一度もないぞ。そもそも、我は自身を信仰する宗教なんていらんわ」


 それこそ、唾を吐きそうなほど顔を嫌そうに歪めている男。

 女は首を傾げる。


 その美しい容姿も相まって、とても可愛らしい。


「……? 神なのですから、宗教は持たないといけませんわよ? 信仰が低いと、消滅してしまいますわ」


 神。

 その言葉に、人工精霊は顔を見合わせる。


 概念としては知っている。

 この世には存在しているかどうか、知覚することすらできない存在。


 少なくとも、こうして近くできて人間のように歩いている姿が見られるとは、思ってもいなかった。

 女が適当を言っていることだって考えられる。


 彼らが神ではないということだって、当然あるだろう。

 だが、彼らの存在感、溢れ出すオーラが、失笑を許さなかった。


「我は破壊神だぞ? 貴様ら普通の神とは違って、恐怖や畏怖を向けられることで存在を確固とするものにできる。ゆえに、奴らはいらん」

「……もしかして、慕われるのがむずがゆいんですの?」


 破壊神という言葉に戦慄していると、女が微笑ましいものを見るようにクスクスと上品に笑う。

 男は忌々しそうに女を睨みつける。


「馬鹿か貴様。我の信徒をちゃんと見たことがあるのか? あれは完全にカルトだぞ」

「カルトならば、なおさらバイラヴァ様が導いてあげればよろしいのですわ。わたくしたちは、人を守護して導く存在。そう思うのは、悪いことでしょうか?」

「悪くはないが、我に押し付けるなデブ女神め」

「で、デブではありませんわ!」


 バルンバルンと暴力的な視覚を作り出す胸部をさらに動かしながら、女は男に怒りを示す。

 バカげた会話だ。鼻で笑ってもおかしくはない。


 実際、妖精たちは茂みの中で腹を抱えて転げまわっている。

 しかし、人工精霊たちは、微塵も笑うことができなかった。


「じゅ、11号ちゃん……」

「……そう、ですね。この世界にも、これだけ強大な存在はいたんですね」


 あまりにも、強大。

 この世界に偵察に来てから、間違いなくナンバーワンの力を内包していることは、傍から見ても分かった。


 彼らは何も力を出そうとしているわけでもなく、ただそこにあるだけでそう感じ取ってしまうのである。

 本当に彼らの中にあるであろう力は、どれほどのものなのだろうか。


「(精霊王様とまではいかないものの、精霊に匹敵するほどでは……?)」


 自分たち人工ものではなく、天然ものの精霊はたった一人で一国を滅ぼすことができる力を持つ。

 そんな彼らと同等の力を、離れた場所から見ただけでも感じ取った。


 これは、必ず精霊王に情報を伝達しなければならないし、また決して近づくわけにはいかない。

 路傍の石ころのように、認知されることなくただ過ぎ去ってくれるのを待って……。


「さあ、あなたたちも付いてきて。悪戯、しちゃうわよ!」

「えっ……」


 輝く歯を煌めかせて、妖精は二人に笑いかけた。

 ダメだ。こいつら、あの化け物たちに悪戯を仕掛けるつもりだ。


「あ、あれになにかするつもりなの? 馬鹿なの?」

「いい? あなたたちに教えてあげるわ。妖精っていうのはね……」


 啞然とする二人に向かって、妖精たちはグッと親指を立てる。


「ああいうのに悪戯してなんぼなのよ!」

「違うと思います」


 即答で否定する11号。

 なお、妖精たちには届いていない模様。


「さあ、行くよ!」

『おー!!』

「ちょ、ちょっと待って……!」


 気勢を上げる妖精たちに引っ張られる人工精霊たち。

 この世界に来て、初めての死線を潜り抜けることになる!




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