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第116話 異世界征服

 










『ふーむ……』

「どうかされましたか? 精霊王」


 唸る巨大な人影。

 豊かな髭を撫でながら思案するのは、精霊たちの王である。


 そんな彼を見上げて、側近が声をかける。


『いや、なに。懐かしい顔を見てな。少し過去を振り返っておった』

「はあ……」

『くっくっ。まあ、千年以上前のことじゃからのう。まだお前もおらん時のことじゃ。気にする必要はない』


 気の抜けた顔をする側近を笑い、精霊王は過去を思い出す。

 あの無機質で、それこそ自分の命令にただ唯々諾々と従う機械のような11号。


 それが、千年ぶりに見たと思えば、随分と感情表現が豊かになり、また自分の意思を話すようになったものだ。

 自分の下にいた時なんて、一度たりとも命令を受ける返事以外は聞いたことがないというのに。


 いやいや、面白い。

 彼女にそれだけの変化を与えたのも、彼女が寄り添おうとしていたあの男が原因だろうか?


『それにしても、なかなかの男じゃった。奴が11号と結託して妖精を守っておったのか? 手こずるのも当然じゃな。いやはや、あの世界を征服するのは、骨が折れそうじゃ』


 破壊神バイラヴァ。

 なるほど、送り込んだ精霊を全て破壊していることから、その実力は確かなものである。


 また、11号を変えたことからも、何か特別な力を持っているのかもしれない。

 どこか気弱にもとれる言葉。そのため、側近は声をかける。


「……では、侵攻は止めますか?」

『それはない。諦めるには惜しすぎるほどの魔素が、あの世界にはあるのじゃ。あの世界を手に入れるために、ワシは千年の月日をかけて準備したのだからな』


 あまりにも長い年月をかけて熟成された異世界への渇望。

 ドロドロに淀みきったそれは、側近の背筋を凍りつかせるほどの悍ましさがあった。


『しかし、まさか11号が生きておったとは……。あの男も、破壊しなかったのじゃな』


 破壊神と言うのだから、精霊王の手駒は破壊するものだとばかり思っていたが……。


『まあ、よい。別に、もうあれは用済みじゃ。今更何かを求めることはしないし、どうでもいい塵芥よ』


 確かに、11号のことは記憶にはあったが、だからと言ってずっと頭の中にあったというわけではない。

 その程度の存在である。


 もはや、彼女のことはどうでもいい。

 重要なことは、これから行うことなのだから。


『さて、準備はできているな?』

「はい。生贄1万人を使った次元扉が、開かれました」


 側近に声をかければ、すぐさま返答がある。

 かつて、精霊が侵攻したこの世界の住民を使った、大規模な魔法。


 どうしても魔力が足りず、生贄を使うことになった。

 しかし、その結晶が、精霊王の目の前に展開された巨大な扉だ。


 これを通ることによって、精霊王が異世界へと渡ることができる。


『うむ。……ワシが出ると、どうにも大げさになっていかんなあ』

「精霊王がそれほど強大な存在だということです」


 やれやれと首を横に振る。

 何も、無駄に命を奪ったり消費したりしたいわけではないのだ。


 彼にとって重要なのは、魔素。それさえ手に入れられるのであればそれでよく、命が失われるのはその過程でしかない。


『まあ、どうでもいい犠牲じゃ。気にする必要もないわ』


 積極的に命を奪うわけではないが、罪悪感や後ろめたさといったものを感じることもない。

 精霊王とは、そのような男であった。


 ゴゴゴゴ……と重たげな音と共に、扉が開かれていく。

 中はどうなっているか分からないほどの濃い霧が広がっている。


 しかし、その先にはあの魔素が豊富な異世界があることは、確信していた。

 精霊王が振り返る。


 そこにいたのは、軍勢。

 一人一人が強大で特殊な力を持つ、精霊であった。


『さあ、行こうかの。異世界征服じゃ』


 精霊の軍勢が、侵略を開始した。



第4章は以上となります。

次回から最終章です!

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