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第17話 コラボカフェに行こう

 数十分後。

 無事にコラボカフェに着いた俺たちだったが、鈴北さんは、


「きゃーっ! ね、綾田っち! 伯爵様の等身大フィギュアある! きゃーっ!」


 ……ものすごく興奮した様子で、パシャパシャと店内の写真を撮りまくっていた。


「きゃーっ! 伯爵様のご尊顔、マジ最高なんだけどっ! きゃーっ、きゃーっ!」


「何回きゃーって言うんだよ……」


 まあ鈴北さん以外にも騒いでるお客さんが多いし、彼女だけが特別浮いているというわけではない。店員さんもそれを許容しているのか、注意してくるような様子はなかった。

 と、ぐるっと店内を見て回り終えた俺たちは、ようやく着席してメニュー表を確認することに。

 エンフィル内に実際に登場する料理や、各キャラクターをイメージしたコラボドリンクがずらっと並んでいる。値段はそれなりに高い、が……コラボカフェとは、そういうものだ。


「ど、どうしよっ! 伯爵様のコラボドリンク、十杯くらい飲んじゃおっかな……っ!」


 メニュー表を眺めながら、手をぶるぶると震わせる鈴北さん。

 ……こうして見ると鈴北さんって、やっぱり中身は重度のオタクだな。見た目はギャル風の美少女だが、鈴北さんのそんな一面を見ると、なんとなく安心する自分がいた。



 注文を終えて数分後。

 笑顔の店員さんが「お待たせいたしました」と丁寧に、料理とドリンクを俺たちのテーブルに運んでくれた。

 俺は“エンフィル式ステーキ”という名の骨付き肉っぽい料理と、最推しであるサーナちゃんのコラボドリンクを。

 対する鈴北さんは“キルット(執事風の男性キャラだ)の手作りオムライス”と、レルガント伯爵のコラボドリンクをなんと三杯も頼んでいた。


「く……ウチのお財布的に、三杯が限界だった……っ!」


「財布もそうだが、腹の心配をしたほうがいいんじゃないか……?」

 

 カレーパンひとつでお腹いっぱいになるという彼女に、オムライスとドリンク三杯はけっこうキツい気もする……が、推しのコラボドリンクは別腹ということなのだろうか。


「じゃっ、いただきます! ――んぅ、おいひっ!」


 あむっとオムライスを食べて、ニコニコと笑う鈴北さん。

 俺も骨付き肉を手に取り、とりあえず一口……これ、アレだな。ステーキって商品名になってるが、普通にハンバーグだ。べつにいいけど。


(……味はぼちぼち、だな。恋歌のハンバーグのほうが、ずっとうまかった)


 おっと。良くないな、こういう思考は。

 せっかく鈴北さんと一緒に過ごしているのに、つい恋歌のことを考えてしまった。こうなると俺は、どうしてもあの日のことを思い出してしまうのだ。

 恋歌の――「大嫌い」という言葉が、脳裏にフラッシュバックする。

 そのせいで、このハンバーグの味が余計にしなくなってきた。俺はサーナちゃんのコラボドリンクをごくごくと飲んで、それを無理やり喉の奥へ流し込む。


「ちょっ、綾田っち正気!? コラボドリンク、一気に飲みしたの!?」


「え……あ、やべっ」


 しかし気づいたことには、グラスの中身は空。

 どんな味だったかも覚えていない。なのに、今のドリンクの価格は800円。……なんてもったいないことをしてしまったのだろう、俺は。


「ふふっ、あははっ! 綾田っちって、やっぱり面白いねぇ」


 にこっと笑って、鈴北さんはオムライスを食べ進めながら、


「ね、綾田っち。せっかくの機会だし、ちょっと聞いてもいい?」


「ん、なんだよ」


「じつはウチ、けっこう前から気になってたことがあるんだよね。でも、なかなか聞くタイミングがなくてさっ」


 と、ごくごくとコラボドリンクを飲んだあと。

 鈴北さんは唐突に、じっと俺のほうへと顔を寄せてくる。

 そして――、


「綾田っちってさ。やっぱ、レンレンのこと好きなの?」


 レンレン。恋歌のこと、だよな。

 ……そうか。そういう話になるのか。

 女子という生き物は、他人の恋愛話を大好物としているらしい。そして俺はたしかに数日前まで恋歌としょっちゅう話していたし、周囲からは“親子”だの“夫婦”だのと言われて、からかわれていた。

 そんな状況がずっと続いていたのだ、俺が恋歌のことが好きなのでは? ……と、そう勘ぐられてしまうのも頷ける。

 

(……さて、どう返すかな)


 少しだけ、思案する。

 正直……俺はいまだに、恋歌のことが好きだ。彼女に嫌われてると知った今でも、この気持ちはそう簡単に割り切れない。実る可能性がゼロだと理解していても、恋歌への恋心を消し去ることはできなかった。


 だけど――繰り返すが、恋歌は俺のことを嫌っている。

 ならば恋歌にとっては、こういうヘンな噂が立つことは迷惑で仕方ないだろう。だから俺は、


「べつに、そういうのじゃないよ。俺と恋歌は、ただの幼なじみだ」


「え……ホントに? ホントのホントに?」


「だから、そう言ってるだろ。最近はもう学校でも喋ってもないしな」


「……ふうん。そっか、そうなんだ」


 鈴北さんは、一杯目のドリンクを飲み干した。

 推しのコラボドリンクを飲めた興奮からだろうか。彼女の顔は、どこか恍惚としているように見えて――、


「じゃあさっ。綾田っちのこと、ウチが狙っちゃおうかなっ」


 心の底から嬉しそうに、鈴北さんは笑った。

 ……綺麗な笑顔だなと思った。思わず俺は、彼女のその表情に見惚れてしまう。

 いや――今は、それよりも……、


「……鈴北さん。今の、どういう意味?」


「んーっ? えへへっ、なんだろうねっ」


 と、無邪気に鈴北さんは微笑んだ。

 そのまましれっと二杯目のドリンクを読み進める鈴北さんに対して、俺は……さっきの彼女の台詞が、頭から離れなくなっていた。

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