表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/89

第16話 休日の予定

 ゴールデンウィークに、幼なじみ五人で遊びに行くことが決まった。

 ……なんだか申し訳ないな、と俺は思った。瀬名は五人じゃないと嫌だと言っていたが、おそらく恋歌はそうじゃない。嫌いなやつと遊園地になんて行きたくないに決まってるよな。

 本当は俺がもっと強く断っていれば良かったんだろうけど、結局、チャット越しの瀬名の圧力に負けてしまったのだ。


「はあ……」


 と、俺が息をつくと。

 通話越しに、鈴北さんがむすっとした声を返してくる。


『――ちょっと、綾田っち? なんでため息なんてついてんのさっ』


「いや、悪い。こっちの話だ」


 そう。俺は今、鈴北さんと通話しながら、エンフィルのマルチプレイをしていた。

 ついさっきまで勉強をやっていた反動からか、いつもの倍くらいエンフィルが楽しく感じる。やはり息抜きは偉大だな、と思う。


「というか悪いな、鈴北さん。予定、一日ズラしてもらっちゃって」


『あ、そのこと? ウチはべつに気にしてないよ、どうせ毎日暇だしねっ』


 あっけらかんとした声で、鈴北さんはそう言ってくれた。

 俺と鈴北さんは、ゴールデンウィーク中にエンフィルのコラボカフェに行く約束をしていた。だが運悪く、たまたま瀬名たちに提案された日と被ってしまった。そこで仕方なく鈴北さんに頼んで、日程を再調整してもらったのである。


『ま、ウチは行ければ何でもいいしっ。えへへ、楽しみだねっ』


「コラボカフェか。俺、そういうの行ったことないんだよな」


『ウチも行くのは初めてだよっ。ああいうのって、ひとりで行くのはちょっと勇気いるもんねっ』


 俺からすれば、鈴北さんみたいな美少女とふたりで行くほうが緊張するのだが……まあ、そのことは黙っておこう。


『ん、もう十時じゃん!? ウチ、もう寝ないとっ』


「あぁ、そんな時間か。じゃあ切るか」


『うんっ。綾田っちとのエンフィル楽しすぎて、時間忘れちゃってたよっ』


 う……鈴北さんって、こういうの無意識で言ってくるんだよな。

 うっかり惚れてしまいそうになるから、本当にやめてほしい。


『じゃ、おやすみ綾田っち。また明日、学校でねっ!』


「お、おう。おやすみ」


 通話を切って、そのままエンフィルも終了させる。

 それから俺はベッドにごろんと寝っ転がると、幼なじみたちとのグループチャットを開いて履歴を読み返した。


「……恋歌、やっぱり不機嫌だったよな……」


 顔を見ながら話したわけじゃないから、正確なことはわからない。

 だけど……恋歌が俺のことを嫌っているという前提が入ると、さっきの恋歌の数件のチャットは、俺に対して苛立ちをぶつけてきているふうにも見えた。

 せめて当日は、できるだけ恋歌に話しかけないようにしなければ。

 そう考えながら、俺は歯磨きをしに洗面所へと向かった。


   ◇◇◇


 それから、数日が経過し――ゴールデンウィークの三日目、月曜日。

 最寄り駅でスマホをいじっていると、前方から見慣れた金髪の美少女がやってきた。


「綾田っち、おはよっ! ごめんっ、待たせちゃったかな?」


「大丈夫。ちょうどデイリー消化できたし」


「ふふ、何それっ。綾田っち、やっぱり面白いっ」


 そう言って笑う鈴北さんの格好は、当然だけど、私服である。

 というか……イメージ通りだが、やっぱり鈴北さんってめちゃくちゃオシャレなんだな。

 まさにギャル風といった感じの格好だった。肩出しのニットにショートパンツ、高級感のあるロングブーツ。鈴北さんの綺麗なふとももが、いつもより艶めかしく見えた。


「ちょっと綾田っち。脚、じろじろ見すぎっ。バレバレだからね?」


「う……わ、悪い」


「ふふっ、冗談だってば。今日は綾田っちに見せるために、こういう格好してるんだしっ。見たかったら、もっと見ていいよ?」


 なんだそりゃ。ギャル、マジで怖い。

 そんなことばかり言われていたら、いつか本当に鈴北さんのことが好きになってしまいそうだ。

 もし俺が恋歌への想いを断ち切ることができていたら、簡単に鈴北さんに惚れてていだろう。そしてきっと、最後にはこっぴどくフラれるのだ。


「それじゃっ、行こっか! 目指すは池袋だよっ、綾田っち!」

  

 その後も俺たちはエンフィルの話をしたりしながら、電車を乗り継いで池袋に向かった。

 鈴北さんと一緒にいるときは、俺は恋歌のことを忘れることができていた。……俺のことが嫌いだと言っていた、初恋の幼なじみのことを。

 だから俺にとってこの時間は、とても心地いいものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ