第16話 休日の予定
ゴールデンウィークに、幼なじみ五人で遊びに行くことが決まった。
……なんだか申し訳ないな、と俺は思った。瀬名は五人じゃないと嫌だと言っていたが、おそらく恋歌はそうじゃない。嫌いなやつと遊園地になんて行きたくないに決まってるよな。
本当は俺がもっと強く断っていれば良かったんだろうけど、結局、チャット越しの瀬名の圧力に負けてしまったのだ。
「はあ……」
と、俺が息をつくと。
通話越しに、鈴北さんがむすっとした声を返してくる。
『――ちょっと、綾田っち? なんでため息なんてついてんのさっ』
「いや、悪い。こっちの話だ」
そう。俺は今、鈴北さんと通話しながら、エンフィルのマルチプレイをしていた。
ついさっきまで勉強をやっていた反動からか、いつもの倍くらいエンフィルが楽しく感じる。やはり息抜きは偉大だな、と思う。
「というか悪いな、鈴北さん。予定、一日ズラしてもらっちゃって」
『あ、そのこと? ウチはべつに気にしてないよ、どうせ毎日暇だしねっ』
あっけらかんとした声で、鈴北さんはそう言ってくれた。
俺と鈴北さんは、ゴールデンウィーク中にエンフィルのコラボカフェに行く約束をしていた。だが運悪く、たまたま瀬名たちに提案された日と被ってしまった。そこで仕方なく鈴北さんに頼んで、日程を再調整してもらったのである。
『ま、ウチは行ければ何でもいいしっ。えへへ、楽しみだねっ』
「コラボカフェか。俺、そういうの行ったことないんだよな」
『ウチも行くのは初めてだよっ。ああいうのって、ひとりで行くのはちょっと勇気いるもんねっ』
俺からすれば、鈴北さんみたいな美少女とふたりで行くほうが緊張するのだが……まあ、そのことは黙っておこう。
『ん、もう十時じゃん!? ウチ、もう寝ないとっ』
「あぁ、そんな時間か。じゃあ切るか」
『うんっ。綾田っちとのエンフィル楽しすぎて、時間忘れちゃってたよっ』
う……鈴北さんって、こういうの無意識で言ってくるんだよな。
うっかり惚れてしまいそうになるから、本当にやめてほしい。
『じゃ、おやすみ綾田っち。また明日、学校でねっ!』
「お、おう。おやすみ」
通話を切って、そのままエンフィルも終了させる。
それから俺はベッドにごろんと寝っ転がると、幼なじみたちとのグループチャットを開いて履歴を読み返した。
「……恋歌、やっぱり不機嫌だったよな……」
顔を見ながら話したわけじゃないから、正確なことはわからない。
だけど……恋歌が俺のことを嫌っているという前提が入ると、さっきの恋歌の数件のチャットは、俺に対して苛立ちをぶつけてきているふうにも見えた。
せめて当日は、できるだけ恋歌に話しかけないようにしなければ。
そう考えながら、俺は歯磨きをしに洗面所へと向かった。
◇◇◇
それから、数日が経過し――ゴールデンウィークの三日目、月曜日。
最寄り駅でスマホをいじっていると、前方から見慣れた金髪の美少女がやってきた。
「綾田っち、おはよっ! ごめんっ、待たせちゃったかな?」
「大丈夫。ちょうどデイリー消化できたし」
「ふふ、何それっ。綾田っち、やっぱり面白いっ」
そう言って笑う鈴北さんの格好は、当然だけど、私服である。
というか……イメージ通りだが、やっぱり鈴北さんってめちゃくちゃオシャレなんだな。
まさにギャル風といった感じの格好だった。肩出しのニットにショートパンツ、高級感のあるロングブーツ。鈴北さんの綺麗なふとももが、いつもより艶めかしく見えた。
「ちょっと綾田っち。脚、じろじろ見すぎっ。バレバレだからね?」
「う……わ、悪い」
「ふふっ、冗談だってば。今日は綾田っちに見せるために、こういう格好してるんだしっ。見たかったら、もっと見ていいよ?」
なんだそりゃ。ギャル、マジで怖い。
そんなことばかり言われていたら、いつか本当に鈴北さんのことが好きになってしまいそうだ。
もし俺が恋歌への想いを断ち切ることができていたら、簡単に鈴北さんに惚れてていだろう。そしてきっと、最後にはこっぴどくフラれるのだ。
「それじゃっ、行こっか! 目指すは池袋だよっ、綾田っち!」
その後も俺たちはエンフィルの話をしたりしながら、電車を乗り継いで池袋に向かった。
鈴北さんと一緒にいるときは、俺は恋歌のことを忘れることができていた。……俺のことが嫌いだと言っていた、初恋の幼なじみのことを。
だから俺にとってこの時間は、とても心地いいものだった。




