60話
助けたオオカミの親子は、森に住む魔女チェルシーが預かってくれることになった。
いくら辺境とはいえ、このあたりには小さな村や街もある。
森の中で暮らす、魔女チェルシーのそばなら――きっと親子は、安全に、そして幸せに暮らしていけるだろう。
なにより、愛する旦那も近くにいる。
彼がいれば、二人を必ず守ってくれるに違いない。
「さて、ラテ。今日の夕飯だけど……缶詰のサンマ蒲焼を使って、丼にしようと思う」
テーブルに缶詰を置くと、ラテは目を丸くした。
「これが……食べ物っすか? いや、でもノエール様が出すものは、なんでも美味しいっすから! 楽しみっす!」
理解が追いつかないのか、途中で考えるのを放棄したらしい。そんなラテを笑いながら見つつ、いつものように米を焚き火台で二合炊く。
米が炊ける、その間に味噌汁の準備。
〈一日恩恵〉で手に入れた“簡単味噌汁の具”の袋には、乾燥ワカメと細いお麩、そして刻みネギが入っている。
(味噌汁を作り、この具の上からかけるだけで――あら不思議。ワカメとお麩、ネギの味噌汁が完成する)
昔、キャンプのときもよくお世話になったな……。
「できた! ラテ、食べよう!」
サンマの蒲焼丼と味噌汁を並べて、二人でテーブルを囲む。香ばしいサンマの香りが立ちのぼり、甘辛いタレが白米にしみる。
箸をつけた瞬間、懐かしい味が口いっぱいに広がった。
「……美味しい」
唸る僕の横で、
「な、な……っ! 甘辛いタレがご飯と合いすぎるっす! 止まらないっす!」
ラテが目を輝かせて、丼をかき込んでいた。
あまりの美味しさに、僕の箸も止まらなくなった。簡単に作った味噌汁も、やさしい味で心にしみる。
「サンマの缶詰、もうひと缶あるから……炙ってみるか?」
「いいっすね!」
網で炙ったサンマの蒲焼は、香ばしさが増してさらに美味い。二合炊いたご飯は、あっという間になくなった。
(ふうっ、食った食った、最高な夕飯だったな。明日の〈一日恩恵〉は何をもらおうかな)
「ノエール様、味噌汁おかわりっす!」
「あ、僕も!」
笑いながら、お椀を差し出し合う。
――今夜も、満ち足りた夕餉だった。
「片付けをしたら、寝ようか」
「そっすね」
屋敷の部屋には戻らず、エアーテントの中で、ラテと一緒に寝ることにした。
最近の僕とラテは畑仕事のほかは、のんびり過ごしている。お風呂はクリーン魔法で、体を綺麗にして、気が向いたときだけ服を洗う日々。
まぁ男二人だし、細かいことは気にしていなかった――それが、いけなかったのだろう。
翌朝。
僕とラテを叩き起こすような声が、テントの外から響いた。




