ノエールの家族
ノエールの兄ジールは、焦りに駆られていた。
王家からの依頼で、彼は所属する騎士団の仲間と共に、魔物が出る森へ派遣された。
ジールは森での出来事に直ぐ戻らず、騎士団と離れて、辺境地にいる弟の様子を見に行った。そこで会話を交わした彼は――急ぎ屋敷へと戻った。
「父上、母上……大変です! ノエールが――魔法を使ったようです」
「なに、魔法を使った?」
「その慌てよう……ただ事ではないのね」
食堂で夕餉を囲んでいた両親に、息せき切って報告する。
「はい。本日、森を捜索していた際、森全体が眩い光に包まれました。急いでその場へと駆けつけましたが、残されていたのは魔法の痕跡と血痕だけ……人の気配はありませんでした」
ジールの言葉に、両親は顔を見合わせる。森を覆うほどの光――それを引き起こせるのは、ノエールしか考えられなかった。
「……森を光で覆うなんて。誰かに見られてはいないのでしょうね? それに血痕とは、怪我でもしたの?」
「いいえ。血は魔物のもので、ノエールのものではありませんでした。幸い、魔法の証拠も残っていません。ただ……その後、辺境の屋敷に向かったとき、奴は泥だらけの服を着ておりまして。しかも……ここにいた頃より、嘘をつくのが妙に下手になっていて……あの顔には、思わず笑いそうになったほどです」
と思い出し笑いするジールに、母は困ったように眉を寄せた。
「あらあらノエールったら、服を汚したままなんて、洗濯の仕方を教えなければなりませんわね。それに嘘まで下手になって……困った子」
「なに、泥だらけだと! 一人にしておくと、何をしでかすかわからん。うむ。……陛下から勇者を押しつけられるのも時間の問題。そろそろ、ここを引き上げる頃合いかもしれん」
「まあ、あなた。いい考えね。でも、急に押しかけては、ノエールを驚かせてしまうでしょうから……最近買った別荘へ、みんなでお引越ししましょう」
ジールは頷き。
「母上、承知しました。弟のコースには私から話を通しておきます」
こうして、その日を境に、ノエールの屋敷のすぐ側の別荘へ、彼らの荷が魔法で運び込まれてた。




