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才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!  作者: にのまえ


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59話

 叔父様は涙をこぼしながら、お母さんオオカミを強く抱きしめていた。その足元に、まだ幼い子オオカミがとことこと近づく。


「ねぇママ、この人が……僕のパパ?」

「ええ、この方があなたのパパよ」


「な、なんと……私に子がいたとは。そうか……そうか、とても嬉しい……君がいてくれることも。しかし――まだ仕事の途中で、しばらく一緒には……」


「それは、わかっているわ」

「だけど今だけは……会えた喜びを噛みしめて、君と息子を抱きしめたい」


 オオカミと人。種族を超えた親子の再会だった。叔父様は真っ赤に充血した目のまま、震える腕でオオカミの親子を抱きしめ続ける。


「よかった……。ノエール、本当にありがとう。間に合わないと思っていたの……でも、あなたのお陰でまた会えた。ありがとう」


 事情を知るチェルシーが、堪えきれずに大粒の涙をこぼした。


 その隣でラテは静かに微笑んでいる。温かな空気の輪の中で、僕だけが取り残されたように胸の奥がひどく寂しくなる。


 けれど、話せないことなら聞かない。無理に踏み込んでも、きっといいことはないから。


 抱き合うオオカミの家族を見つめていると――


「おい! ノエール!」


 この声。


 一番上の兄、ジールの声が外から響いた。

 なぜここに兄が? いま、ここまで来られたら、みんなの姿を見られてしまう。どうする――?


 ⭐︎


 僕は、みんなにここで待つよう告げ、屋敷の外に急いで出た。


 兄は騎士団の鎧を身につけ、馬にまたがっていた。その馬にまたがる兄の前に駆け寄ると、よれたシャツとスラックス姿の僕を見て、兄は眉をひそめる。


「なんだ、その汚れた格好は……? はぁ、まあいい。ノエール、ちゃんと食べているか?」

「は、はい、食べています」


 琥珀色の瞳が僕を射抜く。


 ──まさか、その目。僕を探ろうとしている?


 嫌な汗がにじみ、ドクンと鼓動が跳ね上がる。


「なぁお前、近くの原っぱと森に行っていないよな」


「近くの原っぱ? 森?」


 なぜ兄は、そんなことを僕に?

 まさか、あの森に冒険者だけじゃなく、王都の騎士団まで来ていたのか。


「森が光るほどの、魔力を魔法使い達が感じたそうだ。急ぎ現場に向かったが、残っていたのはオオカミらしい血の跡だけだった」


「魔法? オオカミの血? その森に、オオカミがいたのですか⁉︎」


 驚きを装う僕に、ジール兄は頷く。


 ──なんて、下手な演技だ。


 羞恥で顔が熱くなるが、それでも続けなければならない。ここで怪しまれれば、奥にいるみんなが兄に知られてしまう。


「……知らないのならいい。気をつけなさい」

「はい。気をつけます」

「また、近々会おう」

「え?」


 それ以上何も言わず、兄は馬を走らせ帰って行った。


 だが去り際、わずかに振り返った兄の横顔が目に焼きついた。

 あれは――疑いを残したままの眼差しだった。

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