58話
ラテとオオカミの親子に見守られながら、でっかいハンバーグミートスパゲッティがついに完成した。僕は大きなお皿を人数分並べ、山盛りのスパゲッティをよそってテーブルに置く。
「いい匂い! 我ながら美味そうだ!」
「はい! とても美味そっす!」
「さぁ、みんなで食べよう!」
子供のオオカミはとてとて歩き、テーブルの前にちょこんと座る。けれど、お母さんのオオカミは迷うように足を止めた。
「私達もご一緒して、いいのですか?」
「もちろん。みんなで食べた方が、何倍も美味しくなる!」
さあ「いただきます!」――そう言おうとしたその時。屋敷の方から、チェルシーと叔父様がこちらへと、歩いてくるのが見えた。
(まさか、スパゲッティの匂いにつられて……? いや、そんなわけないよな)
チェルシーはオオカミ親子に視線を落とし、静かに頷くと、僕へと目を向ける。
「こんにちは。あの親子……ノエールが助けたのね」
「ああ、そうだよ。薬草を摘みに行ったスノート原っぱ近くの森の中で、怪我をしていたんだ。……あ、その、ここに連れてきたのは、ケガを治すときに、僕が魔法を使ったからで……」
「え? ノエール、魔法を?」
「うん。焦って、なんとか助けたい一心で……。魔法を、気がついたら眩しいほどに光ってた」
「ふーん、やっぱり。あの時、スノート原っぱの方角から、一瞬だけど膨大な魔力を感じたわ」
あちゃ……魔女のチェルシーには、やっぱりバレてたか。
「……でもさ、僕の魔法の力が役に立って、この子のお母さんを助けられてよかったよ。……ラテに“人が来るかも”って言われたときは、正直どきどきしたけどね」
「どきどき?」
チェルシーがふふっと笑みをこぼす。その隣で、叔父様が――泣いていた。いつもは厳格で冷静な人の目から、静かに涙がこぼれ落ちている。
「ノエール……ほんとうに、本当にありがとう」
掠れた声でそう告げると、叔父様はお母さんオオカミをそっと抱きしめた。
「――我妻、イリーナを……助けてくれて」
その名を呼ばれたオオカミは、静かに目を細める。僕は言葉を失い、ただ息をのむ。
(……え? 我妻? イリーナ?)




