53話
就寝前、ランタンの柔らかな灯りの下で、僕はチェルシーからもらった本を読んでいた。
これは、魔女である彼女が書いた薬草の本だ。見たことのない薬草、草花が並んでいるが、これは新人魔女のための入門書で、貴重な薬草は載っていない。
たとえば、肌を美しくすると言われる〈月の雫草〉も載っていない。けれど、まだまだ初心者の僕には、この本で十分すぎるほどだ。
明日、前にスライムを採りに行った北の森ではなく、南に広がるスノート原っぱにお弁当を持って、ラテと一緒に薬草を探しに行く予定。
持っていくのはものは、神様からもらった食パンを使って作る、ポテトサラダと野菜のサンドイッチのお弁当。現地でシングルバーナーでお湯を沸かして、スープとコーヒーもいれるつもりだ。
「ピクニックなんて、いつぶりだろう。薬草採取も楽しみだな」
遠足前夜のように、胸が高鳴って眠れない感覚を、僕は久しぶりに味わっていた。
⭐︎
「おはよう、ラテ」
「ノエール様、おはようっす」
僕よりも早く起きて、焚き火を起こしていたラテに声をかける。隣にテーブルとチェアを並べ、朝食とお弁当のサンドイッチを作り始めた。
今朝のメニューは、畑で採れたキュウリ、レタス、トマトと、焼いた虫チキンをのせたボリュームたっぷりのサラダ。それに、二人で分けるスープパスタ。
「このスープのパスタソース、好きなんだ」
「それ、美味しいっすよね」
「だよね。今日の原っぱも楽しみ」
「俺っちは、サンドイッチが楽しみっす」
朝食を作る僕の手元を、ラテは楽しげに見つめていた。卵があれば彩りがもっとよくなるけれど、今日はマヨネーズを手に入れたから、卵はまた明日だ。
朝食を終えた僕たちは畑を見回り、片付けを済ませた。少し休憩をとったあと、いよいよ出発の準備に取りかかる。僕はキャンプ道具を置いた部屋へ向かい、ピクニック用のテーブルやチェア、食器を選びはじめた。
「この椅子もいいけど、あっちも座り心地がいいんだよな。このカップにするか、いや、こっちのほうが雰囲気あるかも……。あ、そうだ。缶ジュースがまだあったな。持っていこう」
ぶつぶつと独り言をこぼしながら、たくさんのキャンプ道具の中から選んでは、ウキウキとアイテムボックスにしまっていく。
⭐︎
「準備できた?」
「はい、バッチリっす」
テントの前で集合すると、ラテはいつになく肩からカバンを提げていた。普段は手ぶらの彼だけど、今日はちょっとしたお出かけ仕様らしい。
「じゃあ、原っぱに向かうよ。後ろに乗って」
「了解っす!」
僕はホウキにまたがり、ラテを背に乗せると、空へと舞い上がった。




