50話
どうして僕が、洞窟のことを知っていたのかだって? それは気になって、翌日、ラテと一緒にホウキに乗って、その洞窟を見に行ったんだ。
「そろそろ、洞窟に着くっす」
「じゃ、降りるね」
着いた洞窟の入り口には、冒険者ギルドの張り紙が貼られていて、紙にはこう書いてあった。
『洞窟が凍結のため。しばらくの間、この洞窟の使用を禁止する』
「……禁止っすか。やっぱり冒険者ギルドの中に、この氷を溶かせる者はいなかったんすね」
「そうなんだ。ラテも、この氷を溶かすのは無理?」
「一つずつなら溶かせるっす。でも、洞窟全体を溶かすのは無理っすね。ノエール様の氷、質が良すぎる上に、かなり分厚いっす。でも……ノエール様は、魔法を使ってはダメっすよ?」
「わかってる。ここで、この氷を溶かそうと、火の魔法なんて使ったら、洞窟だけじゃなく森まで、燃やしてしまうかもしれない」
それほどまでに、僕の魔力は強大だ。
だって、あの日。ほんの少し、氷の魔法を使っただけで、これほどの事態になったのだから。いや、もう十分、おおごとかもしれない。
すぐ魔法の訓練をしなくては。あるいは、魔力を制御するための、魔法の杖を作るべきかもしれない。杖はチェルシーの知恵を借りて、作ろう。
「ラテ、屋敷に帰って、畑に米でも植えようか」
「米? 植えるっす! はやく行きましょう。……この場所に長くいると、誰かに見つかるかもしれないっす」
ラテは、洞窟の入り口をしばらく見上げたあと、僕に急いで帰ろうと促した。僕は頷き、ホウキを取り出し、ラテを後ろに乗せて空へ舞い上がる。
ーーホウキは伯爵家にいた頃、むちゃくちゃ練習したから、上手く乗れるけど。他の魔法はまだダメダメだな。
「あの、ノエール様……」
「どうしてたの?」
屋敷への帰り道、ホウキの上でラテがぽつりと言った。
「さっき、洞窟の前に来たものを撮影する、撮影石が入り口につけられていたっす」
「え、撮影石? そんなのが付いていたの?」
「はい。ノエール様が気付かなかったのは、撮影石を、見たことがないと思うっす。俺っちは前に、見たことがあったから、すぐ気付いたっす。でも、ノエール様大丈夫っす。撮影石に、写された映像に細工しておいたっす。ノエール様と俺っちの姿は、映ってないっすよ」
「ラテ、ありがとう」
――頼もしいな、ラテは。
彼がそばにいてくれることに、僕は深く安心した。いつも助けてくれるラテ。今日の晩ごはんは、ラテの好物にしよう。そう、心に決めた。




