49話
僕の唱えた氷魔法は、スライムだけでなく、洞窟そのものを丸ごと凍らせてしまった。壁も床も、天井すらも、びっしりと氷に覆われている。
ーー少し力が、入っただけだぞ。神様からもらった♾️(無限大)は凄かった。
唖然とする僕の頭の中で、「どうしよう」「やばい」「どうしたらいい!?」と、焦った声がぐるぐる回る。
眩しい光が消えて、つぶった瞳を開けたチェルシーとラテは、その洞窟の光景に唖然としたが。まずい、早くここから去らないと。
「ラテ! 温かな手でスライム回収して! すぐに撤収するわよ!」
「了解っす!」
ラテが手早く魔法を使い、僕の作った氷を丁寧に溶かして、スライムを布袋にぽんぽんしまっている。
そのラテの姿を見ながら……魔法量を誤り、洞窟を凍らせてしまうなんて。僕はまだ、魔法を使うには早かったかもしれない。で、でも、内心では――魔法を使えたことが、うれしくてたまらなかった。
ーー屋敷でこっそりしていた練習じゃない、しっかりした魔法を使った。魔法がある、異世界ってすごい。
「ノエール、うれしいのはわかるけど、ニヤけすぎ! 私たちの後に続いて!」
「うん、ごめん……やっぱり、まだ早かったかな」
「ふふっ、そんな楽しそうな顔で謝られてもね。でも、魔法って楽しいでしょ?」
「ああ、すごく楽しい。普段はラテに任せて、僕はあまり使わないようにしてるけど……やっぱり、魔法っていいな」
洞窟の中、チェルシーとラテの後を追いながら、ニヤけ顔が止まらない。もっと魔法を使いたい。もっと上手くなりたい。僕が全力で魔法を放ったら、どれだけのことができるんだろう――想像するだけで、胸が高鳴った。
「ノエール様、チェルシー様! スライム、回収完了っす!」
ラテの声に、チェルシーが僕とラテの手をぎゅっと握る。そして転移魔法を唱えると、僕たちの身体はふわりと浮かび、洞窟から一気に屋敷の転移鏡前へと移動した。
「わっ、イテッ」
「ぎゃっ、いたいっす!」
「きゃっ……いたた」
空中から床に落ちた僕たちは、そろって尻もちをつき、声を上げてさする羽目に。
「ふふっ、ノエールったら、洞窟をまるごと凍らせるなんて! ははは! 長年生きてきたけど、こんなに楽しいことはなかったわ!」
「俺っちも、めっちゃ楽しかったっす!」
「……そう? 僕はてっきり、ふたりに謝らなきゃって思ってたんだけど……」
そう言うと、チェルシーとラテは首を横に振って、そろって笑った。
そのあと、神様からもらった焼肉のタレで、いただいた肉を焼いて食べた。食後、チェルシーはスライムの入った袋を持ち上げて言う。
「ごちそうさま、ノエール。スライム液入りのゴミ箱、作ってくるわ。できるまで一週間くらい待ってて」
「一週間か。ありがとう、すごく助かる」
「よろしくお願いしまっす!」
チェルシーの背を見送りながら、僕は洞窟での出来事を思い出す。
あのあと、凍りついたままの洞窟を発見した新人冒険者が、ギルドに緊急報告した。そこに駆けつけた職員たちは、その異常な光景に言葉を失い、ギルドマスターに報告するも、誰もその氷を溶かすことができなかった。
その、洞窟はしばらくのあいだ「使用禁止」となったのだった。




