48話
チェルシーに、「スライム液入りのゴミ箱を作るには、スライムが五十匹必要」と言われた。だが、僕はまだスライムに会ったことがない。
「ノエール様、スライムって美味しいんすよ」
「え、スライムが美味しい? ラテ、食べたことあるの?」
「はい。中の液を取ったあとの皮に、ハチミツをかけて食べると最高なんす」
「ええ、スライムのハチミツがけは絶品よ。皮のコリコリした歯ごたえがたまらないの」
「へぇ、そうなんだ……でも、まずは捕まえないと食べられないよね。スライムってどこにいるの? どうやって捕まえるの?」
食べられると聞いて驚いたけれど、肝心のスライムを見たことすらない。
⭐︎
ゴミ箱の話をしてから、三日たった。
僕とラテ、それにチェルシーの三人で、屋敷から西にあるサーゴの森へやってきた。この森の奥には、スライムだけが棲む“スライムの洞窟”があるらしい。新人冒険者の訓練場としても、知られている場所だそうだ。
「ノエール、この洞窟に入ったら、氷魔法でスライムを凍らせればいいの。五十匹なんてすぐよ」
「そうっすね。ここ、昔よくスライム狩って食べてたっす」
二人とも、久々の戦闘に目を輝かせている――いや、スライムを食べたくて仕方ないだけかもしれない。とはいえ、戦闘経験のない僕にとっては、心強い仲間だ。
チェルシーは暗く光のない、洞窟に入る前に「ライト」の魔法を唱えた。ふわりと暖かな光があたりを照らし、洞窟の中には水色の液体状の、生き物たちがうごめいている。
チェルシーは魔法の杖を構え、足元にいるスライムに狙いを定める。
「ノエール、これがスライムよ。ちゃんと見てて――『フリーズ!』」
魔法の詠唱とともに、スライムは一瞬でカチンと凍りついた。その氷の塊を、ラテが広げた緑色の布の上に載せると――シュッと、小さな音とともに、スライムは姿を消した。
「えっ、スライムが消えた?」
「それね。ノエールのアイテムボックスと似たようなものよ。“スライム袋”っていって、凍らせたスライム専用の収納袋なの。中で液体が漏れても溶けない、特別な素材で作られてるの」
「便利なものっす!」
「ほんと便利だね。……さてと、僕も『フリーズ』使ってみてもいい?」
二人にそう伝えると、チェルシーとラテは「いいよ」と頷いた。
よし、目の前のスライムを……あまり魔力を使いすぎずに凍らせるんだ。唱えれば、きっと、僕は少しだけ魔力を込めて、唱えた。
「フリーズ!!」
……のはずだった。だが、声を出した瞬間、「魔法を使うぞ」という意識が強くなって、気づかぬうちに、多くの魔力を放出してしまった。
太陽のように光る僕。
「眩しっ、やばいっす!」
「きゃっ……目が! これはまずい! 『障壁!』」
チェルシーが素早く詠唱し、魔法の壁で自分とラテを守った。




