45話
この屋敷に来てからひと月が経った頃、兄から手紙が届いた。その内容は「元気にしているか?」の一行だけだった。
たったそれだけの手紙だったけれど、兄にとって“邪魔者”扱いだった僕には、それだけでも十分に嬉しかった。すぐに「僕は元気にやっています。心配はいりません」と返事を書き、早馬で送った。
ここに移り住んでひと月も経てば、魔法での屋敷の修繕はほとんど終わり、隣の部屋にキャンプ道具を並べることができた。
この日の朝、朝食を作ろうと部屋を出たとき、足元に手紙と魔導書、それから薬の小瓶が置かれているのに気づいた。
「あれ、チェルシーからだ」
手紙には「手荒れに効く塗り薬をおすそ分け。魔導書は読んだら私の部屋に置いておいて」と、いつもの丁寧な字で書かれていた。
最近は薬作りが忙しいと聞いていたけれど、それでもこうして、気にかけてくれるのがありがたい。
そういえば数日前、生姜焼きを振る舞ったとき、チェルシーは転移鏡を使ってやってきた。可愛らしく整えた部屋を見て「すごい、すごい、可愛い!」と目を輝かせていた。
あのとき気に入った、人をダメにするクッションを何個か森の家に持ち帰って、今は屋敷の自室にも置いているらしい。
今日は手荒れに効く塗り薬か。前に貰った腹痛の薬、足の匂いをとる塗り薬とか、すごく効いた。僕にも薬を作れないかなぁ。薬となると薬草、知識が必要になる。本を読んで知識はあるが、薬草には詳しくない。
――そうなると「薬草知識」「錬金術」「調合」のスキルが必要かな? 今度、神様にもらえるか聞くかな。
朝食を作りに庭へ出ると、焚き火台に火をつけていたラテがこちらに気づき、手を止めた。
「ノエール様、おはようございますっす。今日の朝食後は、何をしますか?」
「あ、おはようラテ。今日も昨日と同じで、朝食の後に畑の収穫と温室の苺、それからこの前植えたコーヒーの木を見に行こう。お昼ご飯が終わったら、夕飯まで自由時間にしよう」
「わかりましたっす。俺っちは、読書して、お昼寝するっす」
――お昼寝もいいけど。僕はそろそろ、キャンプ道具の整理をするかな?
そう思いながら、僕もラテの隣に腰を下ろし、朝食の準備に取りかかる。
「ノエール様、今日の朝ごはんは何を作りますか?」
「ん? 今日はホットサンドメーカーで、ポテトサラダのホットサンドを作ろうと思う」
「ポテトサラダのホットサンド! 俺っち、それ好きっす!」
「僕も好き。飲み物はインスタントのコーヒーにしよう」
アイテムボックスから食材を取り出す。さすがに一ヶ月も過ぎれば、保存していた食材や調味料もだいぶ減ってきていた。
食料が、一年はあると思ったのだけど……食べすぎたな。
今、野菜は畑でどうにかなるけれど、元々は一人暮らしの小さな部屋にあったストックだ。ネットでまとめ買いした保存食も、減ってきた。
――どうする? 僕は戦闘にはあまり自信がないけれど、そろそろ近くの街に行って、冒険者ギルドに登録するかな。
魔物を狩って、肉を調達しよう。




