44話
ボロネーゼパスタ、ニンジンサラダ、ソーセージスープの夕食を終え、片付けも済ませた頃。お風呂から上がったラテが、くつろいでいた僕の部屋に顔を出した。
「失礼します、ノエール様。あの「幸せクッション」が欲しいっす。さっきの場所から、俺っちの部屋に、持っていってもいいですか?」
ーー幸せになるクッション?
「ああ、さっきまったりした。“人をダメにするクッション”のことか。いいよ、僕も部屋に欲しいから、いま魔法で作るよ」
創造魔法でクッションを二つ生み出すと、ラテは「ありがとうっす」と、満面の笑みでそれを持ち上げ、自分の部屋へと持ち帰った。
――ラテ、嬉しそうだな。今日は、あのクッションに埋もれて、寝るつもりなのかな。僕も、今夜はクッションに埋もれて、ゆっくりしよう。
ランタンの淡い灯の下、クッションに体を沈め。以前、チェルシーにもらったポーションの瓶を手に取った。
透明なガラスの瓶に入った、透明な液体。
これがポーションか――確か、癒しの魔力と再生を促すハーブが含まれているって、前に読んだ錬金術の本に書いてあったっけ。
――伯爵家の書庫にあったあの本、最後まで読んでおけばよかったな。作り方を知っていれば、僕にもポーションが作れたかもしれない。
だが、チェルシーは魔女だ。見たこともない、変わった薬草を育て、魔力を込めてポーションを調合しているのだろう。
それに「とてもいいのができた」と言っていたから、僕の料理が影響しているのかもしれない。
ラテも翌朝、畑で大はしゃぎだったし……。
もしかしたら、今ごろチェルシーはウキウキと、薬を仕込んでいたりして。そして、チェルシーと一緒に来た叔父様も、驚いているかも。
僕はポーションを抱えたまま、人をダメにするクッションに埋もれて、眠ってしまった。
⭐︎
――その夜、ノエールとラテが眠りについた頃。
チェルシーは「力が有り余るわ!」と、滅多に作らない薬を調合し、叔父様は久しぶりに身体にみなぎる力を、心ゆくまで堪能していた。




