43話
はじめて見るテントに、ラテは瞳を大きく見開いた。
僕は入り口を広げ、ポールの周りに食事用のテーブルとクッションを並べる。その横には、押し入れの奥にしまい込んでいた、“人をダメにする”大きなクッションを置いた。
「ラテ、このクッションに寝てみて」
「はいっす。お、おおっ? 体が……沈むっす……」
「どうだ? 気持ちいいだろ。そのクッションを知っちゃったら、もう逃げられないぞ」
「はいっす、逃げられないっす……」
気持ちよさそうに、クッションに埋もれるラテを見て、僕も魔法で同じものをもう一つ作り、飛び込んだ。中のビーズが僕の体に合わせて沈み込む。
……もう動きたくない。けど、夕飯の準備をしないと。
「ラテ、あと一時間だけ休もう」
「休むっす!」
一時間、ふたりでダメなクッションに沈んでいた。
⭐︎
辺りが暗くなり、日が暮れてきた。そろそろ、夕飯を作らないと。
「はぁ、お腹すいたね」
「すきましたっす」
「そろそろ、動かないとね」
「そおっすね……」
今夜のメニューは、焼くだけで食べられるハンバーグをのせたボロネーゼパスタ。サラダは千切りにしたニンジンにマヨネーズを和え、胡麻をかけるだけの簡単なもの。
アイテムボックスに手を突っ込むと、残り物のキャベツ、ウインナーが出てきた。これでコンソメスープを作ろう。あ、キャベツがあるから、あとで種生成の魔法で種を作っておこう。
「ノエール様、ハンバーグを焼きました」
「ありがとう。ニンジンは千切りにしたし、スープも煮込んだ。パスタも茹でたから……次はお湯を沸かして、ボロネーゼソースを温めようか」
夕食の準備をしながら、ふと思う。
――転生前、スーパーで買って冷蔵庫にしまった食材を、よく忘れていたな。
一度、アイテムボックスの中も整理しておいた方がいいかも。スープに使った、このキャベツは、キャンプ場近くのスーパーで買って焼きそばを作ったときの残りだ。
確か、前に干からびた苺もあったはず。
畑が充実するはいいとして、問題は米だ。米の栽培には水が必要。田んぼを作って水を引くのは、今の場所ではちょっと難しい。
……いずれ、米がなくなる前に神様に相談してみよう。
大皿にパスタとハンバーグを盛り、上からソースをかける。サラダとスープも、それぞれよそった。
「ラテできたよ、食べよう」
キャンプの中にランタン、ライトをつけて、テーブルに座り、夕飯を食べる。エアーフレームテントもよかったが、座って食べられるこのテントもなかなかいい。
「ノエール様、今日のごはんも、美味しいっす!」
「うん、美味しいね」




