42話
ラテには庭でのんびりしていてもらい、僕は転移鏡を設置するために、二階の角部屋へ向かった。
そこは僕たちの部屋よりも広いが、壁紙はところどころ剥がれ、壊れたシャンデリアが天井からぶら下がる、がらんとした空間だった。壁際には、姿見ほどの転移鏡がぽつんと置かれている。
――神様、お姫様みたいなピンクの部屋って、どんなの?
〈かしこまりました。お姫様のようなお部屋ですね。少々お待ちください〉
しばらくすると目の前に画面が現れ、ピンク色の部屋の映像が、スライドのように次々と映し出される。神様がネットで検索して、見せてくれているらしい。
その中で、ピンクと白の家具が調和した、可愛らしくも品のある部屋に目が留まった。――おお、これいいじゃん。チェルシーも気に入ってくれそうだ。
――神様、さっきの部屋の映像、もう一度見せて。
〈かしこまりました〉
映像を確認しながら、創造魔法を発動する。無機質だった部屋が徐々に変わっていく。ピンクと白の壁紙、窓辺で揺れるピンクのカーテン、ふわふわのシーツがかかったベッド。真っ白なテーブルやドレッサーが、柔らかな光の中に並び始める。
……これで、どうだろう。チェルシーも文句なしのはず。――いや、ちょっとベッドまでは、やり過ぎたかな。
完成した部屋の壁際に、転移鏡をそっと置いた。
「……よし、完成!」
――神様、ありがとう。素敵な部屋になったよ。
〈どういたしまして。また何かあれば、お気軽にどうぞ〉
神様との会話を終えて、テントを取りに一度部屋に戻り。夕飯の支度とテントの張り替えのために、再び庭へと向かった。
「ラテ、部屋が完成したよ」
庭のチェアで寛ぐラテに声をかける。焚き火台に火をつけてくれたのだろう、ラテが火の番をしてくれていた。
「おつかれさまっす。火の準備はばっちりっすよ。いまから、夕飯の支度っすか?」
「ありがとう。その前に、エアーフレームテントから、新しいテントに張り替えようと思って」
僕はラテに、新しいテントを見せる。
「おお、いい感じっすね! 手伝うっす!」
「じゃあ、一緒にやろう」
二人でエアーフレームテントのペグを抜き、空気を抜いてたたむ。たたんだテントはアイテムボックスへ収め、新しいテントの設営に取りかかる。
まずは、八角形のテントを広げてペグを打ち、フレームを組み立てる。中央にポールを立て、最後に布を張って形を整える。
「ラテ、先にテントを広げておこう」
「はいっす!」
息を合わせ、手際よく作業を進める。ポールを立てて、周りの張り綱をピンと張って、完成。
風がテントの布をやさしく揺らし、焚き火の温もりが、辺りに広がっていた。




