35話
真っ赤な苺を、じっと見つめるチェルシーの様子を見て、僕は驚いた。まさか、あの酸っぱい黄色い苺が薬になるなんて……知らなかった。
だったら、この苺の種をチェルシーに渡したら、もっと美味しい風邪予防の薬が作れるかもしれない。
――面白そうだし、見てみたいな。
「チェルシー、苺の種いるかい?」
「えっ、苺の種あるの? 実験してみたいから、欲しいわ!」
「いいよ。ちょっと待ってて、今出すから」
僕はうなずいて、アイテムボックスからチャック付きのプラスチック袋を取り出し、チェルシーに手渡した。
彼女は苺の種よりも、袋そのものに目を丸くしている。
「なにこれ……見たことない袋。へぇ、こうやって口を開けるのね」
チャックを何度も開けたり閉めたりして、感心している。まあ、確かに不思議だろうな。この袋はいろんな種類があるけど、僕が使ってるのは食品用。冷凍もできるフリーザーバッグで、よく唐揚げの下味をつけるのに使っていた。
食べ物以外だと、キャンプ用品とか固形燃料なんかも入れてる。――便利だから、ついまとめ買いしちゃうんだよなぁ。
「これ、なかなかいいわね。……あっ、ここに来た目的を忘れるところだった! はい、これ。よくできた傷薬、持ってきたの」
チェルシーは密封されたガラス瓶を僕に手渡した。中には透明な液体が入っている。
「この薬はね。飲んでもいいし、傷に直接かけても効くの。万能傷薬よ!」
「万能傷薬? これって……もしかして、ポーション?」
「うん、よく知っているわね。冒険者たちはそう呼んでいるわ」
ーーポーションって、実際のあったんだ。
「すごい! チェルシーってポーションを作れるんだ!」
「まあね。他にも色々作れるけど、私のお師匠様は、もっとすごい薬も作れるわよ」
僕は「すごい、すごい」と、ポーションを手にとって眺めていた。そんな僕に、チェルシーが少し、照れくさそうに話しかけてきた。
「ねぇ、お願いがあるんだけど……空いてる部屋に転移鏡を置いてもいい?」
「転移鏡?」
「うん。ここに飛んでくるの、ちょっと面倒で」
――それってつまり、チェルシーは毎日ここに来るつもりなのか?
返事に迷っていると、ラテが口を挟んだ。
「あの、チェルシー様。また、お仕事を放って逃げるつもりですっすか?」
「え、違うわよ!」と、チェルシーは慌てて首を横に振った。
「私はノエールの料理が気に入ったから、食べに来たいだけよ! ラテだけが食べてるなんて、羨ましいじゃない。それに、ノエールの料理を食べると、仕事がはかどるの!」
「俺っちも、ノエール様の料理が美味い! それはわかるっす。でも、お師匠様と黒丸の了解は取ってあるんす?」
「えぇ、伝えてあるわよ。師匠も一度ノエールに会いたいって言ってたし、黒丸だって料理を食べればきっとわかるわ、きっと……」




