33話
「カレーは、食べてみればわかるって!」
僕はまだ首を傾げているチェルシーに声をかける。早くカレーを食べたい気持ちもあるけれど、何より彼女にもカレーの美味しさを知ってほしい。
チェルシーがどれくらい食べるのか分からないけど、同じ大きさの皿をアイテムボックスから取り、同じくらいのご飯をよそった。
「チェルシー、カレーは好きなだけかけていいからね」
「えぇ……。あの、これ、なんの野菜?」
カレーの中を覗き込んで、チェルシーが質問する。
「その野菜はジャガイモ、ニンジン、タマネギだよ。お肉は豚肉――あ、生姜焼きに使ったやつね」
「う、嘘……ジャガイモが青くないし、ニンジンが水色じゃない。タマネギも黄色じゃないし……それ、本当にその野菜なの?」
彼女が言う通り、この世界の野菜はジャガイモが青、ニンジンは水色、タマネギは鮮やかな黄色。見た目も味も、少し異なる“異世界の野菜”たちだ。
「えっと、僕が、その……魔法で改良したんだ。味はいいと思うよ」
「ノエールが野菜を改良? そんな魔法まで使えるの? ……ノエール、あなたすごいわね」
チェルシーは瞳を大きくしたが、それ以上何も聞かず、カレーにニンジンを多めに盛った。どうやら、ニンジンが好きらしい。
――なぜだろう? 僕がよくわからない魔法を使っているのに、二人は何も聞いてこない。ラテとチェルシーにとっては初めて見る食材ばかりだろうし、調理器具だって見慣れないものばかりのはず。
まぁ、聞かれないのは楽だけど、少し気になる。でも、そのことはまた後で聞こう。今は――
「ラテ、チェルシー、カレーを食べよう」
「いただきますっす!」
「いただきます」
久しぶりのカレーをスプーンですくい、口に運ぶ。まろやかな甘みとピリッとした辛さ、野菜と肉から出たコクと、旨みが口いっぱいに広がる。
「やっぱり、カレー美味しい!」
「美味いっす! これなら何杯でもいける!!」
「本当に美味しいわ。そんなに辛くなくて、甘い……野菜とお肉の出汁もよく出てる」
二人とも「美味しい、美味しい」と言いながら、大盛りのカレーに夢中でかぶりつく。どこで食べても、カレーライスはみんなに愛されるんだな。ああ、幸せだ……。カレールウはあと一箱しかないけど、今が幸せなら、それでいい。
「おかわりっす!」
「私もおかわり」
「僕もおかわりしたいけど……次のカレーは、揚げたてのカツを乗せた“カツカレー”にしない?」
「カツカレー? 食べるっす!」
「よくわからないけど、カツカレー、いただくわ」
「じゃあ、今揚げ焼きするね」と言って、アイテムボックスから冷凍のトンカツを取り出す。このアイテムボックス、普段なにも考えずに使ってるけど……冷凍食品も、冷凍庫にあったそのままなんだよな。
カチカチに凍ったトンカツの袋を、しばらく見つめてしまった。




