32話
青空の下、朝から焚き火台の上で、収穫した野菜をたっぷり使ったカレーを煮込んでいる。
焚き火の上の鍋の中では、カレーがことことと心地よい音を立てていた。そろそろいい頃合いだろうと、僕は蒸らしていた二合用のメスティンの蓋を開けた。
「おお、いい感じに炊けた!」
ふわりと立ち上る甘い香りに、思わず喉が鳴る。僕はアイテムボックスから大きめのカレー皿を二枚取り出し、水魔法でさっと洗ってキッチンペーパーで拭く。
――このでかいカレー皿、いつ見ても存在感あるな。でも、割ったときの予備に四枚セットを買っておいて正解だった。ラテと一緒に、山盛りカレーを食べられる。
一皿は普通に食べて、ふた皿目はカツカレーにしよう。
「はぁ、お腹空いたね。ラテ、カレー食べよう!」
「好きましたっす! 食べましょうっす!」
「ご飯は僕がよそうから、カレーは好きなだけかけていいよ」
「いいんすか? やったぁ!」
二合炊きのメスティンから、一合ずつ皿によそい、ラテに手渡す。辺りに漂うカレーの香りがたまらない。早く食べたくて、いつもの癖でジャガイモを多めによそってしまった。
ラテはと彼の様子を見ると、遠慮なく肉を多めによそっていた。
――ラテは、お肉好きなんだな。
よそったお肉たっぷりのカレーを手に、ラテはちょこんとチェアに座り、ちらちらと僕の様子を伺っている。ククク、早く食べたくて仕方がないんだな。それは僕も同じだ。
僕もテーブルを挟んだ向かいのチェアに腰かけ、スプーンを持つ。
「さあ、食べよう! いただきます!」
「いただきますっす!」
スプーンをカレーに差し入れたその瞬間――
「なに、なに、なに? この美味しそうな匂い~。……あ、ずるい!」
頭上から声がした。
「え、チェルシー!?」
「チェルシー様!?」
僕たちは、スプーンを持ったまま空を見上げる。まさに、待ちに待った一口目を逃して、ごくりと唾を飲み込む。
「……おはよう、チェルシー」
「……おはようございますっす」
「おはよう、ノエール、ラエ! とてもいい薬ができたから、おすそ分けを持ってきたの。だけど……この匂い、たまらないんだけど~」
チェルシーはふわりと舞い降り、僕たちの前に着地する。が、その直後、僕たちの皿を見て盛大に顔をしかめた。
「とても、いい匂いだけど……ノエール。その黒い食べもの……まさか二人とも、風邪を引いたから黒蛙を煮たの?」
「えっ? 黒蛙? ち、違うよ! これは“カレーライス”っていう食べものだよ」
「そぉーす! カレーっす!」
「カレー……ライス?」
チェルシーは小首を傾げ、理解できない様子で、僕たちの皿をじっと見つめる。
そりゃ、カレーは知らないよな。




