23話
ほっこりとした空気の中、僕のそばで二人はパンケーキを一口、また一口と食べ、あまりの美味しさに口元がニヨニヨしている。久しぶりに味わうパンケーキの甘さに、前世の記憶まで蘇りじーんときて、ふと寂しさが蘇ったけれど――でも今は、ラテという相棒もできたんだ。楽しくやっていこう。
「ラテ、チェルシー、パンケーキはどう?」
「ん~、バターのコクと塩味が効いてて、ふわっふわの生地に、甘いメープルシロップ……口に入れた瞬間、幸せになる味だわ」
「ほんと、そっすね」
そう言って、二人はペロリと一枚を平らげたあと、僕の皿をじっと見つめてくる。――そのときの僕はというと、こっそりアイテムボックスから取り出した、オレンジの香りがたちのぼる炭酸の缶ジュースを飲んでいた。
なぜ黙って飲んでいたのかというと、炭酸みたいに刺激の強い飲み物を、彼らに飲ませてもいいのか分からなかったから。
――まぁ、飲み物を出さずに自分だけ炭酸を飲むのは、ちょっとばかり心が痛むけど……どうしても飲みたかったんだ。はあ、久しぶりの炭酸は最高だ!
「あっ、ひどい。ノエール、何を飲んでるの?」
「んんん? ノエール様、一人で飲むの、ずるいっす!」
「ずるいか。ごめん……それはわかってたんだけど、君たち、驚くかなって思って……いや、独り占めはやっぱり悪いよね」
僕はアイテムボックスから二つカップを取り出し、二人にも炭酸を分けた。カップの中でシュワシュワと音を立てる炭酸に、二人は「なんだこれは」といった顔で眉をひそめる。
――初めて見るのだから、そうなるよな。
「チェルシー様、先にどうぞっす」
「いいえ。ラテ、あなたから飲みなさい」
「……え、えぇ、わかったっす。いただきますっす」
ゴクリとオレンジ味の炭酸を口に含んだラテの瞳が、ぱっと見開かれる。何か言うのかと思ったら、そのままゴクゴクと一気に飲み干した。
「うおーっ⁉︎ 喉がピリピリするっすが……それが、なんか快感っす! 美味しい、おかわり!」
「え? 喉がピリピリ? それって毒なんじゃないの? ノエール、あなた何を飲ませたの?」
「いや、チェルシー、これは毒じゃないから大丈夫だよ」
僕もゴクゴクと喉を鳴らして炭酸を飲む。
炭酸ジュースが、冷えてたらもっと美味しかったかもしれないけど……久しぶりだからか、めちゃくちゃ美味しく感じた。たまらず、もう一本と、アイテムボックスから取り出して缶を開けた。
⭐︎
その音に「ずるいっす」と缶ジュースをせがむラテのその姿を見てか、意を決してチェルシーが炭酸を飲み干した。彼女もまた瞳を大きくして、何も言わずコップだけ僕に差し出す。
これは「おわかり」だと言っているんだと思い、僕はジュースを注いだら一気に飲んでしまい、またコップを差し出す。
「……なんて、シュワシュワする不思議な飲み物。冷えていたら、もっと美味しいんじゃないかしら?」
彼女のコップの中にコロンと氷が浮かぶ……。
どうやら彼女は魔法を使ったようだ。それを見たラテが飛びつき、ずるいっすとまた叫んだ。
「もう、わかったわよ。ノエールもこっちにコップを置いて」
言われた通りにおくと、コップの中にコロンと氷が現れた。――そうか、これは氷魔法だ。その魔法でジュースを冷やしたんだ。その発想にならなかった自分は少し悔しさを覚えたが、これで美味いジュースが飲めると喜んだ。




