18話
とつじょ女の子の声が聞こえ、僕は持っていた箸を置き、近くのランタンを手に辺りを見回した。しかし、誰の姿もない。反対側のチェアに座っていたラテが、ばっと空を見上げて言った。
「ノエール様、上です。声は上から聞こえたっす!」
「え、上?」
ラテの声に促されて僕も空を見上げた。そこには、ぼんやりとした火の玉のようなものが、ふたつ浮かんでいる。
――ゆ、ゆ、幽霊?
初めてみる幽霊(?)に、興味津々でじっと眺めていた。その一方、ラテはなぜか慌てた様でそわそわしている。ラテは空を飛ぶ火の玉が怖いのか、アウトドアチェアから立ち上がると、僕のところへ駆け寄って袖を掴んだ。
「ラテ、大丈夫?」
「はい……っす」
その火の玉から
「あ、やっと、見つけたわ。もう時間もないのに、そんなところで油を売って(……)家に帰るわよ早くこっちへきなさい。あれ? (……」の名前が呼べない?」
また、女の子声が聞こえてきた。そして、空中でゆらゆらと揺れだけだった火の玉は、なぜか僕達の方へと降りてきているようみ見えた。
「ラテ! あの火の玉、こっちへ来ていないか?」
「火の玉? 違うっす、あれは……」
ラテが言葉を発する前に、
「なんで? さっきまで呼べていた(……)の名前が呼べないの? まさか……新しい名前が付いちゃったの? 嘘よ、私と叔父様よりも魔力が高い人間がいるはずなんて――!」
驚きの声を上げた。
「すみませんっす。それがいたんす……前のご主人様」
前足を胸に置き、ラテが深深く頭を下げた。そのラテの言葉に驚き、僕は火の玉を見たがそこには、手にホウキを持ち、魔女の様なとんがり帽子を被ったおさげ髪の少女がいた。
⭐︎
二人の話を聞いていると、この子はラテの元の主人で、ラテを家から追い出した張本人。迎えにきたと言ったが、ラテはあと少しで消えていた。そうなってもいいように捨てた使い魔を、この少女は必死に探しているんだ?
じっと見ていた僕に視線を向け、指をさした。
「そこのあなた! 私の(……)を返してくれない?」
「それは無理っすよ。ノエール様の方が、魔女エーニャ様より魔力が上っす。たぶん、大魔女様の全盛期よりも、叔父様よりも、ずっと」
「そんなぁ~。(……)がいないと、師匠に怒られちゃう」
「諦めてくださいっす。あなたは一度、俺っちを手放したっす。だから俺っち、覚悟決めたっす。ずっと住んでたカジロベの森を離れて……そして出会っちゃったっす。あなたよりも、美味しいご飯くれるノエール様に! ああ、あのカップラーメンは最高だったっす。夕飯も、見てくださいっす、早く食べたいっすよ!」
――おや、カップラーメンがラテの胃袋をつかんだ? 僕の胃袋もつかんでいるし、まぁ……カップラーメンは美味いよなぁ。
「カッ、カップラーメン⁉︎ それはどんな食べ物なの? そこのテーブルからもいい匂いがする……ごくり。その美味しそうな料理を、今から食べるの?」
――あれ、話の流れが変わった?
「そおっす。ノエール様と今から食べますっす!」
「ひどい、うらやましい……」
話がズレにズレた二人をよく見れば、口元が涎でキラキラ光っていた……。




