15話
部屋の明かりはランタンを使うとして、
「部屋はこれでいいかな? 次は、トイレを見に行こう」
と言うと。
「ノエール様、了解っす。俺っち、トイレにはかなり厳しいっすよ」
ラテは尻尾をピンと立てて、きりりとした顔をする。まるで戦場に向かうかのような気迫だ。
「……ラテは猫だから、か?」
「違いますよぉ。俺っち、前のご主人様のところで、トイレ掃除専門だったんす。毎日の掃除と、トイレの魔石に魔力を込めていたっす」
「それは、すごいね」
屋敷のトイレの扉を開けた。
――おお、伯爵家のトイレと一緒だ!
広めの空間に、淡く光を反射するくすんだ水色の石が壁に埋め込まれている。床は滑らかな白石で、足元の籠には、黒ずんだ手のひらサイズの石が入っている。
――あれは、浄化魔石かな?
便器の一部は欠けているが、全体の構造はしっかりしている。このトイレはどこか品のある、古い魔道具の香りがした。
「これは魔石式トイレっすね。なかなかいいトイレっす。前のご主人様のトイレと同じですね」
「所々、直せば使えるかな?」
「はい。魔石に魔力を流せば、ある程度は復元します。ただ、便器の欠けやこびりついた汚れは俺っちじゃ無理っす」
「それは僕がやるよ。魔石に魔力を流せばいいんだね?」
頷いたラテを見て、僕は壁に埋め込まれた浄化魔石に手を当てた。ひんやりとした、石の感触を手のひらに感じる。
僕は意識を集中して、そのくすんだ魔力を石へと流し込む。すると、石の表面がほのかに光り出し、ゆっくりと脈打つように輝いた。水面に波紋が広がるような感覚が、掌から伝わってくる。
やがて魔石に魔力が流れて、光を取り戻す。
「魔石に魔力が籠ったっす。やっぱノエール様、魔力の質がいいっす」
少し得意げになりながら、僕は魔石から手を離した。
「この調子なら、風呂もなんとかなるかもな」
「おお、俺っちお風呂好きっす」
「あ、ラテ」
「先に行ってるっす」
まだ、トイレの修復が終わっていないのに、テオはお風呂場に走っていった。
「もうラテは……クク、楽しくて仕方がないんだな」
トイレを魔法で新品に直して、魔石を触り機能するか試した。伯爵家にいた頃と同じように、水が便器の中を流れていく。
「トイレはこれでいいかな」
僕はテオの後を追って屋敷のお風呂場に着いたが、扉を開けた瞬間、思わず後ずさった。
「うわ、これは……予想以上にボロボロだね……」
湯船はひび割れ、床の魔石は真っ黒だった。
「ノエール様……これはちょっと、大掛かりな修復になるっすね」
「そうだね」
でも、どこかワクワクしている自分がいた。




