表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が育てた勇者が牙を剥く  作者: エイノ(復帰の目処が立たない勢)
第七章 更なる力は限界を越えて
63/69

確執が呼んだ禍

 騎馬四天王の一人“青龍”を倒したことで、海は穏やかになり漁も再開された。

 港街には活気が戻り、市場には新鮮な魚介類がところ狭しと 立ち並ぶ。

 一方のアレイス達は、大海原に駆け出す準備をしていた。


「父上、怪我の具合はどうですか?」


「息子に心配されるとは、私も落ちぶれたか……」


「そういう意味では……」


「まぁ、いい……。ところで、船の準備はどうなっている?」


「今、睦月とミネルヴァが、漁師のところに船の相談に行っています」


「そうか、では船の準備ができ次第、旅立つぞ」


「はい」


 アレイスとイシュケルは心が弾んでいた。これから待ち受けているだろう強敵より、一緒に冒険出来る喜びの方が勝っていたからである。


 程なくして、睦月とミネルヴァが戻ってきた。何やらこの二人も浮かれていた。

 そんな二人を見て、イシュケルが渇を入れる。


「これは、旅行ではないのだぞ! 気を引き締めるがいい」


 イシュケルとてこんなことは言いたくなかった。だが、ちょっとした気の緩みで命を落としかねない。だからこそ、厳しく言い添えたのである。


 港へ向かうと、漁師達が定置網のメンテナンスに汗を流していた。その中に、先日助けた漁師の姿もあった。

 約束通り彼が船を出してくれるらしい。


「もう出るのか? 船の準備は整っている。汚い船だがその辺はご愛嬌だ。さぁ、乗ってくれ」


 確かにお世辞にも綺麗な船とは言えないが、長年この漁師が大事に乗ってきた船だということは一目でわかる。

継ぎ接ぎされ修復された外観が、それをもの語っていた。


「何処に行くんだ?」


 漁師は誇らしげに舵を切る。


「アルタイトに向かってくれ」


「アルタイト? まぁ、いいが……あそこは……」


 漁師は何か言いたげな態度を示すも、それ以上何も語らなかった。


 先日までの荒れた海とは裏腹に、何処までも波は穏やかだった。ただ一つ言うならば、この漆黒の闇が取り払われたならどんなにいいことか。アレイス達はそう思ったが、敢えて言わなかった。


 暗黒の海を突き進むと、街の灯りがぼんやりと見え始める。そこがアルタイトの街だ。


「さぁ、着いたぞ。それじゃ、達者でな!」


 漁師はアレイス達を船から降ろすと、そそくさと逃げるように港街に帰っていった。さっきの言動といい、この態度といい多少の疑問を抱いたが、目的の為だと目を瞑った。


「さぁ、行くぞ!」


 イシュケルを先頭にアルタイトの街中に入っていく。

 現代のアルタイトと違って、街はまだこじんまりとしていた。

 象徴とも言うべき中央広場の噴水はもう存在していたが、街を取り囲む外壁は建設中であった。


「父上、アルタイトって、こんなにも小さな街だったんですね。人もまばらで今とは大違いですよ」


「そうだな……これから発展していくのであろう」


 アレイス達は一息つく為、中央広場の噴水へ向かった。

 そこで異様な光景を目の当たりにした。噴水から流れ出る紫色の液体。異臭を放つ液体は、明らかに飲み水に適していないのがわかる。


「何だ……この水は……」


 アレイスは思わず声を上げた。

 するとそれに気付いた痩せ細った街の男性が、アレイスに向かって言う。


「旅のお方よ、早急にこの街から立ち去るがいい。この街は“騎馬四天王白虎”の配下にある。飲み水も白虎に汚染されこの通りだ。とても人の住める環境ではない……」


 男性は息を切らしながら、懸命に伝えた。

 辺りを見渡すと、皆痩せ細り病に冒されているようだった。

 アレイスがその男性に質問をしようとしたその時、街中は慌ただしくなってきた。


「白虎の部下達がやってきたようだ。早く……早く逃げなさい……」


「ケケケッ――っ! 人間ども。食事に来てやったぞ!」


 一体のガーゴイルが禍々しい翼をはためかせながら空からやって来た。するとそれに続くように何十体……いや百体は越えるであろうガーゴイルの群れがやって来た。


「キャャ――っ!」


「逃げても無駄だ。大人しくしろ!」


 ガーゴイルは若い女性の頭を鷲掴みすると、咽を鳴らしながら一気に丸飲みした。


「ゲフッ。美味だ、美味。お、あそこにも美味そうな奴らがいるぞ! 皆、喰っちまおうぜ!」


 ガーゴイル達はアレイス達の存在に気付き、飛び掛かって来た。


「許せない……」


 アレイスは鞘から剣を抜き取り、ガーゴイルへ向け一目散に駆け出した。


「抵抗する人間が、まだいたのか? 面白い……俺達が相手になってやるぜ!」


 ガーゴイル達の群れは洗練された爪を目一杯広げ、アレイスに狙いを定めた。


「そんなもの俺には効かない! 纏めて相手になるぜ!」


「アレイス、無理をするな!」


 しかし、イシュケルの忠告を無視してアレイスは突出する。


「やむを得ん。我々も行くぞ!」


 慌ててイシュケル達も戦闘に加わる。


――が、しかし、その必要はなかった。


「残像魔斬鉄――っ!」


 幾重にも広がる閃光が、ガーゴイル達をすり抜ける。


「ぐはっ!」


「ぐえっ!」


「どぁ!」


 アレイスに襲って来たガーゴイル約五十体程が、無惨にも切り裂かれたのだ。





それはほんの数秒……一瞬のことだった。




「こ、これは……一体」


 イシュケルはアレイスの桁違いの戦闘能力に、唖然とした。


「イシュケル、アレイスはあの技で……青龍をたった一撃で倒したんです」


「本当か? ミネルヴァ……我々があれほど苦戦した青龍を一撃で……」


 自分が気絶していたうちに、そんなことがあったとは知らず、イシュケルは言葉を失った。


 尚もアレイスは、残りのガーゴイルに詰め寄る。


「さぁ、死にたい奴はどいつだ? かかって来い!」


 アレイスは容赦なくガーゴイル達に剣を向ける。


「く、くそぅ。野郎ども、撤退だ――っ! 早急に白虎様に報告せねば」


 残りのガーゴイル達は、慌てて空へと撤退していった。


「チッ、腑抜けが!」


 アレイスは逃げ惑う一体のガーゴイルに指先を向け、衝撃波を放つ。


「死ね!」


「どはっ……」


 ガーゴイルは丸焦げになり、空から落ちて来た。


「くそが……」


 アレイスは丸焦げになったガーゴイルを足蹴にした。


「アレイス、もうよすんだ。そいつはもう死んでいる。何もそこまで……」


「父上は甘い! このような敵は徹底的に痛め付けないといけないのです」


「貴様、この私に歯向かうというのか?」


 イシュケルは、今まで見せたことのない悲しい表情を見せた。


「やらなきゃ、こっちがやられるんだ……それが“戦い”なんだ……」


「お前の答えはそれか……ならば、もう一緒に旅は出来ん……さらばだ」


 イシュケルは背中に哀愁を漂わせ、一人街の外へと消えていった。


「アレイス……追わなくていいの?」


「いいんだ睦月……あんな、わからず屋のこと……」


――やらなきゃ、やられるんだ。俺は世界を救いたい……何としても……。


 イシュケルの悲痛な叫びは届かず、二人の間に大きな確執が生まれてしまった。



――このことがきっかけで、物語は大きく動き出す。



 ガーゴイルの群れを追い払ったものの、イシュケルと別れてしまったアレイス達。このことが、後に悲劇を生むことになろうとは知るよしもなかった。


 静まり返るアルタイトの街は、再び動き出す。

 聞くところによると、白虎がこの街に来てから飲み水が汚染され、疫病が感染拡大しているとのことだ。そして、弱った街の人々を魔物達が定期的に喰らいに来るらしい。やはり、騎馬四天王が一枚咬んでいたという訳だ。


 一通り情報収集を終えたアレイス達は、白虎を撃退すべく策を練っていた。


「このまま四天王をのさばらせる訳にはいかない」


「それはそうと、本当にいいの? アレイス……」


「何がだ?」


「惚けないで! イシュケルに謝ってよ」


「睦月……男には譲れない時があるんだ。わかってくれ……」


「……。アレイス、何か変わったね……」


「俺は何も変わってなどいない! 父上が腑抜けだから……」


「イシュケルを悪く言うアレイスなんて嫌いよ! もういい!」


「勝手にしろ!」


「お願い、二人共ケンカはやめて下さい」


 ここに来て、イシュケルを含む四人の心はバラバラになっていた。ほんの少しの食い違いが、絆に溝を作っていったのである。




◇◇◇◇◇◇




 ――一方、イシュケルサイド。


 イシュケルは一人アルタイトを離れ、彷徨っていた。


「さて、どうしたものか……」


 イシュケルは過去の戒めを嘆いていた。

 自分自身も魔王として数々の殺生をしてきた訳だが、我が子にはそうなって欲しくないという矛盾と葛藤していた。


 そんなことを考えていると、偶然魔物達の拠点を発見した。


「あれは?」


 先程逃げ帰ったガーゴイル達の中心に、一際異彩を放ち白い毛並みを持つ虎の魔物。

 その魔物は黒き天馬に股がり、ガーゴイル達に怒号を上げていた。

 イシュケルは物陰に隠れ、その様子を伺う。


「何――っ? 人間相手に逃げ帰って来ただと?」


「しかし、白虎様びゃっこさま。奴はとてつもない戦闘能力を持つ故、我々ではとても……」


「言い訳するのか? 恥を知れ!」


 白虎は持っていた長刀で、半ば強引にガーゴイルの首を跳ねた。


「貴様らとて同じことだ。死にたくなかったら、逃げるような真似はやめるんだな……その死体は始末しておけ! 見苦しい」


「ははっ……」


 ガーゴイル達は白虎に恐れをなし、手際よく分断されたガーゴイルの死体を片付けた。




――何と言うことを……。


 その様子を一部始終見ていたイシュケルは、アレイス達に報告せねばと思い立ち去ろうとした。


――しまった!


 動揺するあまり、草木を踏む音を立ててしまったのだ。


「ん~? 何かいるのか? 出てこい! さもなくば、命はないぞ!」


 白虎は懐に隠していたナイフを、イシュケルのいる方向に投げ付けた。


 イシュケルは素手でナイフを掴み取り、お返しとばかりに白虎に倍の速さで投げ返す。


 ナイフは白虎の頬を掠めた。白虎は流れ落ちる鮮血を指でなぞる。


「いい度胸だ……我を騎馬四天王と知っての愚行か? 出てこい!」


 圧倒的不利な状況にも拘わらず、イシュケルは白虎の前に姿を晒した。


「貴様が白虎か?」


「ほう、我を知っているのか? ならば何故楯突く?」


「貴様のような奴を、野放しには出来ないからな?」


「大した自信だな? ガーゴイルどもよ、こいつを血祭りにするのだ。行け――っ!」


「ケケケッ。覚悟はいいか?」


 十体あまりのガーゴイル達が、イシュケルに襲い掛かる。自分達の命も危ぶまれる為、ガーゴイル達も必死だ。


「貴様らなど、相手にならん!」


 イシュケルは脇を締めながら刀を構え、迫り来るガーゴイルを次から次へと一刀両断していく。


「ほう、思ったよりやるようだな。ガーゴイルどもよ、下がれ。貴様らでは無理だ。我が自ら行こう……」


 白虎は黒き天馬の手綱を手繰り寄せ、イシュケルの前に立ちはだかった。


 精神を研ぎ澄まし、イシュケルは刀を構える。

 まずは小手調べとばかりに、白虎に斬り掛かった。黒き天馬に乗った白虎は、それよりも速く長刀を振り回す。

 天馬に乗った分、機動力は白虎が一枚上手だ。だが、それ故小回りが効かないのを、イシュケルは見逃さなかった。


 白虎の長刀を受け流し、振り向き様に天馬を叩き斬る。


「ヒヒィィーン!」


 叩き斬った脇腹から天馬は臓物をさらけ出し、前足を上げ悶え苦しんだ。

白虎は天馬を宥めるも、身を投げ出され落馬した。


「貴様――っ! よくも、天馬を……」


 騎馬四天王の命とも言える天馬を失い、白虎は激怒した。


「口ほどにもないな……青龍のほうが、よっぽど強かった」


「何だと? 貴様……青龍を倒したというのか? 信じられん……」


「倒したのは私ではないがな……」


「何だ、貴様ではないのか……笑わせるな! 何れにせよ、貴様には死んでもらう……さぁ、屍を晒せ!」


 白虎は白い毛並みを揺らしながら、長刀を構えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ