マクア枢機卿終了のお知らせと王子しばき隊の乱入
マクア枢機卿が魔方陣の中に入ると、より一層の光を放ちながら爆発したかのような閃光を放つ。とても目など開けていられるような状態ではないが、どん臭いキースはその光を直視してしまったようだ。
「うぎゃあぁぁっ!目がぁぁぁぁー!目がぁぁぁぁー!」
後ろのほうでバタバタと暴れまわっているようだが、そっちの方に気を取られるのもアホらしいのでいつものように無視をする。一方で外野3人もそれぞれのリアクションをしているようだ。
「王子!これは不味いんじゃないですか!?」
「待ってください!不味いってレベルじゃないでしょうアレは!どうするんですか王子!」
「そんな事言われたって、どうしようもないじゃないか!」
そんなやりとりをしてる最中、眼前の眩い光は突如消え失せ、そこから豪華な杖とマントと王冠を装着した見るからに邪悪という言葉を体現したかのようなスケルトンが紫色のオーラを纏いながら浮いていた。
「ふははははは!素晴らしい!素晴らしい力だ!この全能感!滾る、滾るぞぉ!まさに神になりし我に相応しい力ではないか!」
そう言って杖を薙ぐように払うと一番後ろにいたキースの後ろの地面が隆起し、扉が土砂で埋もれたように塞がってしまった。ついでにキースも隆起した土に巻き込まれて地味にぶっ飛ばされていた。どんだけ不器用なんだコイツ。
「これで逃げられんぞ貴様ら!この全能なる我が力で嬲り殺しにしてくれるわ!」
どこからどう見ても神になったようには思えない見た目でテンション高く叫びだす枢機卿だったモノを見る。異様な姿になったソレはとても神のような聖なる存在には見えない。
流石に自分の姿を見ることは出来ないだろうが、自分の手とか身体を見ることは可能だろう。だと言うのに自らの身体を見てもその姿が当然だというように何のリアクションも無い。普通は自分の身体が骨だけになってる姿を見たら発狂モノなんじゃなかろうか………
魔方陣の魔法が不完全だったのか、或いは元々あれが完成系なのかは知らんが正気では無いということなのだろう。
まぁ、正気じゃないのは元々だったのだろうが拍車が掛かったような印象を受ける。自分の身体が骸骨に変貌するなんて、どうせロクな魔法ではないのだろうな。
「ちくしょう!出口を塞がれちまった!見るからにヤバそうだし、どうしたらいいんだ!」
自称スパイが焦ったように声を荒げるが、そんな事を言ったって後の祭りである。そんな中、馬鹿王子と一緒に部屋に入り込んできたシスター服を着た女が無言で雷の魔術を骸骨に放っているが効いているようには見えない。
「っく!どうやら分が悪いようですよ、王子!」
「まぁ、あんなマトモとは思えない見た目になっちゃってるからねー。人間辞めてパワーアップしたんじゃないかな?」
「何を暢気な事を―――」
そんな事を言っていると、女の魔術を煩わしく思ったのか目の前の骸骨枢機卿が杖を振り下ろすと馬鹿王子の近くで爆発が起こり、巻き添えで女も吹き飛んだ。ついでに偶然近くに居た自称スパイも爆発に巻き込まれる
「ぐあっ!」
「きゃあ!」
「んのぉぉぉぉ!」
吹っ飛ばされて気を失う女と、何とか意識を保っているが満身創痍の馬鹿王子。そして完全に気を失っている自称スパイ(マジ使えん)。状況を見れば悪い以外の何物も頭に浮かんでこないだろう。
「ふははははは!ここ最近、予定外のことが起こりすぎてはいたが、無事に私は神となった!貴様等がどういう目的でここに来たかは知らんが、ここに来たからには全員生かして帰さん!皆殺しにしてくれるわ!」
高揚感からなのか大仰な動作で俺の方に向き直る。周りを見れば隆起した土にぶっ飛ばされたキース、爆発に巻き込まれて気絶している女、同じく爆発で吹き飛んで満身創痍の馬鹿王子とゴミと化した自称スパイ。まともに動けるのは俺だけのようだ。
「全く、どいつもこいつも使えねぇやつらばかりだなー。こんな雑魚にやられちまうなんてよー」
俺はNINJA服を渡された時に一緒に渡された変な真っ黒なフード?みたいなもんを頭から毟り素顔を晒す。
「ふん、ふざけた格好をしよって!何の茶番か知らんが、貴様等全員皆殺しだ!」
唯一動ける俺に向かって杖を振りかざし火球を飛ばしてくる。それを避けると地面に着弾した火球は大きな爆炎を上げて爆発し地面を削り取る。
「ふはははは!私の力はこの程度ではないぞ!いつまでも避けきれると思うなよ!」
そう言うと更に骸骨枢機卿は中空に鋭く尖った岩石のような物を出現させてこちらに射出してくる。その岩石は30を超える数で俺に向かってくるが、こんなもんは攻撃としてカウントされるようなもんじゃない。
「ったくメンドクセェーなぁっ!」
俺は剣を振るって全ての射出物を打ち払う。何発か払った射出物がキースの方に飛んでいった気もするし悲鳴も聞こえた気がするが、そんなものは気のせいだ。その様子を見て少しうろたえる骸骨枢機卿。
「な、……貴様、何者だ!只者ではないな!」
「何者だって言われてもよー。ただ単にレアメタル探しに来たただの冒険者だよ」
「な、な、な、なんだとぉぉぉぉぉ!」
いきなり絶叫し出す骸骨枢機卿。レアメタルを探しに来たってだけでどこにそんな狼狽える。
「お、お、お、お前は……まさかS級冒険者!この化け物めぇぇぇ!」
「いやいや!お前に言われたくはねぇよ!」
化け物に化け物呼ばわりされたのは生まれて初めての経験だ。嬉しくない。
「俺に敵対するってことの意味は分かってるんだろうなぁー?あぁん?ぶっ殺すぞこらぁぁぁ!」
攻撃された上に暴言まで吐かれるなんて正当防衛待ったなしだろう。というか化け物が相手なんだから正当防衛もクソも無いか。という訳で
「んじゃ、まどろっこしいのもアレなんでサクっと死んでくれや」
俺は剣を上段から振り下ろす。すると剣先から水色のドラゴンが顕現し、徐々に姿を大きくしながら突っ込んで行き避ける間もなく骸骨枢機卿は龍の顎に飲まれる。轟音と衝撃による地響きが辺りに鳴り響き土埃を上げて骸骨枢機卿は消えていった。
「これにて一件落着ってな。はぁー、ダル」
振り下ろした剣を鞘に入れてため息を吐く。ただレアメタルを探しに来たのになんでこんな大惨事になったのか不思議でしょうがない。
「……大体、お前のせいだろうがジェラルド」
いつの間に復活したのかボロボロになりながらキースが暴言を吐く。口に出してないのに返答をするとは器用なヤツめ。
「き、君……流石はS級冒険者だね……あのような姿になったマクア枢機卿を倒すとは驚きだよ」
「S級冒険者……本当に凄まじい力を持っているようですね」
「……あー、頭がガンガンしますわー。スパイって労災とか降りるんでしょうかね?」
爆発でぶっ飛ばされた馬鹿王子と愉快な仲間達も何とか復活したのかヨロヨロになりながらこちらに集まってきた。馬鹿王子は骸骨枢機卿が吹っ飛んでいった方向を見て
「ふむ、マクア枢機卿は完全に倒されたようだな。安心したよ。本当にね」
心底安心したかのように、ホッと胸をなでおろしてその場にぐったりと座り込む馬鹿王子。その横で慌てたように馬鹿王子を支えようとして、怪我の為か同じく力なく座り込むハメになった女が叫ぶ。
「……くっ、それより王子、この後の後始末はどうするつもりですか?大変な事になりますよ!」
馬鹿王子はそれを聞いて嫌そうな顔をしながら
「いや、そんなの逃げるに決まってるでしょ?だって僕、一応逃亡中だし、それに―――」
と何かを言いかけたタイミングで
――ドカアァァァン――
「居たぞぉぉぉぉぉおおお!!」
突如、入り口が爆発。それと同時に武装した兵士達がこの空間になだれ込んできた。
その集団を見るに、先頭は年嵩の将軍のような見た目の男がサーベルのようなものを王子に向けて突撃のサインを出している。その目は血走っており正気の沙汰とは思えない。
同じくその隣では棒状の筒のようなものを王子に向けながら兵士と共に突っ込んでいく細身の男の姿が見える。その目は血走っており正気の沙汰とは思えない。
良く見るとその周りの兵士も一般の兵よりも良く訓練されたような無駄の無さ過ぎる姿で突撃を仕掛けてきている。その目は血走っており正気の沙汰とは思えない。
「王子ぃぃぃぃ!!死ねぇぇぇぇぇ!!」
「王子ぃぃぃぃ!!覚悟ぉぉぉぉぉ!!」
「「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」
「え、ちょと待……ぎゃあああああああああ!!!!」
哀れ、王子は突如なだれ込んできた軍隊に鎮圧されるのであった。




