炎上ゾンビと追いついた王子達
扉を開けるとそこにはだだっ広い空間が広がっていた。
壁には燭台が点々と灯ってはいるが、広さのせいで部屋全体が仄暗く感じる。
よく見ると中央にはまるで台のように隆起した石碑が置かれ、そこには何だか偉そうなローブを来た老年の男が俺たちを迎え撃つかのように待っていたのだった。
「招かれざる者達が来たようだな。
アルメリア情報局の無粋な輩共め!私の神聖な儀式の邪魔をしおって!」
偉そうなローブを来た男が俺たちに向かって叫ぶ。
なんか知らんが俺らまでスパイの仲間だと思われてるようだ。
儀式だか何だか知らんが俺は目的(石泥棒)を達成できればそれで満足なので別に何に思われていようがそこらへんは興味は無い。
それこそ邪神を呼びだそうが不老不死になろうが俺にとっては関係無いことだ。とはいえ、レアメタルを手に入れるに当たっての大義名分が必要になるからその分の仕事はしてやることにしよう。
「よぉー、オッサン!あんまり悪いことしてるとなー……こわーいお兄さんがお仕置きに来ちまうんだぜぇー」
鞘に入ったロングソードで肩をトントン叩きながらゲス顔で挑発する。
「ちょっと、ジェラルドさん!それじゃただのチンピラですって!」
自称スパイが余計な茶々を入れてくる。
「つーか、何でここに押し入ったのかの大義名分なんて覚えてねぇし。そもそも俺はレアメタルを取りに来ただけだ」
「ジェラルド、お前ってヤツは……まぁ、お前は三歩歩いたら忘れるド阿呆だから仕方が無いか。ついでに教えておいてやるが、傍から見たらお前のやってることは押し込み強盗と大差ないぞ」
減らず口を叩いたキースにボディブローを連続で叩き込んで黙らせていると、茶番に付き合いきれなかったのか目の前の偉そうなジジイが変な呪文を唱えだしてゾンビを召喚し出した。その数は大体30体くらいだろうか。
「神をも恐れぬ罰当たり共め!神罰を下してやろう!」
そう言うと偉そうなジジイは周りのゾンビを嗾けてくる。神罰とかいってゾンビを嗾けてくるとか、それこそ神を冒涜している行為なのではないだろうか?
なんにせよ果てしなく面倒くさいが、俺は鞘からロングソードを引き抜いて臨戦態勢を取った。
後ろではボディーブローを喰らって未だに倒れ伏しているキースと、瓶らしきものに火を付けている自称スパイが……って、火?
「スパイ七つ道具が一つ……ジャジャジャジャーン!カエンビーン!」
むかつく効果音を口で唱えながらゾンビに火炎瓶を投げつける自称スパイ。瓶はゾンビにぶち当たり引火。周りのゾンビにも火が燃え移った。
「ヒャッハー!汚物は消毒だぜェー!」
何故かテンションが上がっている自称スパイが叫ぶ。
「スパイの七つ道具で火炎瓶をチョイスするってのはかなり可笑しいと思うんだが、ジェラルドはどう思う?」
「知るかボケ」
ゾンビ相手にキャンプファイヤーを楽しんでいる自称スパイを尻目にキースのどうでもいい質問に答える。地下室で火を使うだなんて酸欠を疑うレベルなんだが、辺りはかなり広いし多少燃えたところでどうということはないだろう。ゾンビも良く燃えてるようだ。
暫く自称スパイの奮闘を見ていると燃えてるゾンビの数も増えてきた。地下室なのに辺りがやけに明るくなってきたな。
「……なぁ、ジェラルド。かなりゾンビが燃えてきたんだけど、倒れたゾンビ一人も居なくね?」
改めて観察してみると、なるほど。確かにキースの言う通りであった。
ついでに気のせいか、段々と自称スパイの動きが鈍くなってきたように思える。
「そのようだな。むしろ火が付いたまま自称スパイの退路を段々と絶ってきてるような気がする」
「あのさぁ………もしもなんだけど。
あんな火達磨ゾンビに複数で抱きつかれたりしたら、俺たちヤバいんじゃね?」
「…………」
「…………」
「うひー!!おたすけー!!」
いやな予感は的中し、なんとヤツは謝罪しながら火達磨ゾンビを引き連れてこちらに走ってきやがったのだ!
「嘘だろ!火だるまゾンビ全員引き連れてこっち来やがったぞジェラルド!マジで信じられねぇー!!足をひっぱるとかいうレベルじゃねぇぞアレは!!」
「このクソッタレ!あとで覚えておけよ!」
邪魔しかしていない自称スパイがこっちに突っ込んできたので回し蹴りでキースの方にぶっ飛ばす。
やつは蛙が潰れたような奇声を上げながら、キースの方へぶっ飛んでいった。
もちろんキースに避けられるはずもなく、勢いよくぶつかってキースを押しつぶした。
そんな寸劇を挟みつつ、俺は剣を構えて炎上ゾンビを迎え撃とうと剣を上段に構えた。そして剣の柄を持った手に力を入れたその時―――
『Exorcism!』
独特の発音で紡がれた呪文によって発現した霧状の現象が火だるまゾンビ達を包み込むと瞬時にゾンビ達は塵となった。声がした方――つまり、俺たちが入ってきた入り口の方を向くと杖をゾンビに向けてポーズをキメている一人の女と、金髪碧眼のどこかで見たことがあるような一人の男が息を切らせながら壁に手をついていた。
「ぜぇぜぇ――ようやく追いついたか……マジでしんどいんだけど……」
「王子、鍛え方が足りないようですね。今度、将軍にトレーニングでも頼んでおきましょうか?」
「やめてくれ!彼の兵士を出し抜いて脱走したばっかりなんだ!今頃怒り狂ってるだろうから嬉々として殺しにくるに決まってる!」
入り口付近で漫才を始める謎の二人衆が加わり、舞台は更に混迷を深める事態に突入していった。




