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セクト大聖堂への侵入

「で?………この格好に何か意味があるのか?」


 時は丑三つ時、場所は死霊の館前。


 俺たち3人は全身黒ずくめの格好をしている。しかもただの黒ずくめではない。この辺では見たことがない独特な異彩を放つ衣装だ。

 何でも東方の“NINJA”が着ているという隠密行動に適した衣装との事。

 ちなみにプロの“NINJA”ともなると背後から問答無用で首を切り落としてくるらしい………なにそれ怖い


「なんていうかほら、こういうの着るとさ。雰囲気出るだろ?」


「……………」


 自称スパイのふざけた答えに対して、俺は無言で剣の柄に手を置いた。お前は雰囲気だけでスパイを気取っているのかと小一時間問い詰めてやりたい。


「うそうそうそ!ちゃんと理由あるんだって!

これだけ黒ずくめなら、こんな夜中だしバレにくいでしょ!それに、東方の”ONMITSU”である”NINJA"といえば、有名なスパイなんだぞ!それが来てる服なんだから、これ以上TPOを弁えている衣装は無いんだって!」


「うさんくせー」


 半眼で睨みつけてやる。

 自称スパイはノリノリで着替えたが、俺達に関しえいえば「潜入するにはこれしかない」とか胡散臭い事を言われて“仕方なく”着たのだ。無理やり着させられたといっても過言ではない。文句の一つくらい言ってもバチは当たらんだろう。



「強いられているんだ!!(くわっ)」



「うるせー馬鹿!急に大きな声を出すんじゃない!」


 いきなり声を荒げたキースを殴って黙らせる。何だこいつ、急に叫びやがって。


「いや、何となく叫びたくなっただけだ。気にするな」


 そう言って着替える前に聞いた“NINJA”の説明を聞いてノリノリで動きまわるキース。その姿を見て俺は不安になった。


「やっぱり俺らは普通の格好で行くわ。お前だけその格好で行けよ」


「え?やだよ。一人だけこんなの着たら馬鹿みたいじゃん。俺が持ってるスパイ道具の中でこれだけ唯一使ったことがなかったから今回使ってみようと思っただけだし。そもそも一人で着たくないから、これだけ使った事なかったんだよね。君達が着ないならいいや」


 自称スパイが何やら戯れ言をホザいている。相手を怒らせようとしてるのなら文句なしの大成功だが、誰かに協力を仰ぐ要請であるなら完全に失敗である。


「……………やっぱり帰るわ」


「ちょっと待ってくれぇぇぇぇぇ!嘘だから!嘘、嘘、マジで待ってぇぇぇぇぇ!」


 ふざけた返答に答えてやる義理は無いので、そのまま館の中に戻る。そんな中、一人取り残されたキースがぽつりとつぶやいた。


「え?………これで行かないの?結構着心地良いんだけどなぁ………残念」



閑話休題それはさておき


「じゃあ、セクト大聖堂に突っ込むぞ」


「へいへーい。準備は出来たよー」


 結局、普段着に戻った俺たちはスパイの七つ道具とかいう怪しい品物を色々と担いで教会堂の壁を登ことになった。

 そして、スパイから怪しい道具を借りて壁を登る。スパイが使う道具ということでちゃんと道具として機能しており、ジェラルドは壁をスイスイと登れた。

 この壁を登るこの道具もスパイの七つ道具の一つらしいのだが、城かと見紛うかのような作りになっているセクト大聖堂は高さが50メートルもあり、その壁を登るなんて正気の沙汰ではない。

 調子に乗ってスイスイと進んでしまったが、そこそこの高さまで登ってしまった今となってはそのまま進もうが引き返そうがどちらにしても危険が伴う為、何を言おうが最早遅いのである。タコの吸盤のような気持ち悪い形をしたソレを両手両足に装着し、壁に貼り付けながら上へ上へと進んでいく。


「ってか、そもそも何で壁なんぞ登らされてるんだよ!あぶねーだろーが!」


「それは目的の“マクア枢機卿”の部屋が教会堂の上部にあるからでしょ!あんた等それを納得してついてきたんじゃないのか?」


「うひぃぃぃぃぃぃ!高いぃぃぃぃぃ!死ぬぅぅぅぅぅぅ!」


 上から俺、自称スパイ、キースの順である。三者三様で酷い有様である。


「いや、ぶっ潰すって言ったから、てっきり正面から乗り込むのかと」


「どこの世界に正面からたった3人で組織を潰しにかかるヤツが居るんだよ!しかもそれじゃワザワザ夜に見つからないよう来た意味が無いじゃないか!」


 壁に張り付きながら悪態を吐くも、自称スパイの正論に俺はぐうの音も出なかった。

 急にふと横が気になって振り返ると、キースが両手だけで壁にぶら下がっていた。どうやら足の吸盤が外れたらしい。目算だが今の高さは大体20mくらい登ってきたようだ。


「………まぁ、とりあえずキースは放っておくとしてだな………この指に付けてるタコの吸盤みてーなキモチワリー道具なんだが、本当に落ちないんだろうな?ちなみに“フリ”じゃないからな。真面目に答えないと殺すぞ」


「いやいやいや、大丈夫だって。これまでこれ使って落ちたことなんて無いんだからさ!」


 陽気に答えながら自称スパイは笑った。


「………………」


 無言で隣を見る。


 キースが片手で壁に掴まっていた。手はプルプルと徘徊老人のように震えており、その両目の眼は血走っている。マジで落下する5秒前といった所だろうか。



「………マジで信用できねーんだが」


 キースが力尽きそうだったので、壁をよじ登るのを止めて途中の窓から中に侵入した。




 セクト大聖堂の中は丑三つ時ということもあって真っ暗だった。どうやら通路だったらしく無数の扉が両サイドから見え、闇がカーペットの先へと伸びていた。


「死ぬかと思ったわ!!このアホォォォォォ!!」


「おい!もう中に侵入してるんだ!バレるから黙ってくれ!」


 キースと自称スパイが怒鳴っている。なんでこんな所まで来てコントをやってるのか分からないが、もうそのような心配はしなくてもいいらしい。


「おい、てめーらこのスカポンタン。今更そんな事言ったって遅いみてーだぜ」


 剣の柄に手を置きながら構える。

 するとタイミングを見計らったかのように武装した聖騎士が俺たちを取り囲んだ。それらの物騒な姿を見て自称スパイは焦りながらこのように叫んだ。



「な、何で、どうして………どうしてバレたんだぁぁぁぁぁぁ!!」



「「外であれだけ叫んでたら、普通に分かるわぁぁぁぁぁ!」」



 聖騎士からの総ツッコミが自称スパイに降り注いだ。

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