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自称スパイの提案

 うのていで命からがら何とか脱出した俺たちは、崩れ落ちた坑道の入口で座り込んでいた。

 坑道の入口は見事に土砂で埋め尽くされ、ここに入口があったとは思えないくらいグチャグチャになっている。というか蹴り一発で崩れ落ちる坑道なんて危ない以外の何物でもないだろう。

「クソ!こいつ(キース)のせいで散々な目に遭った!何とか脱出出来たのは良いが、お前のせいでレアメタル手に入れ損なっちまったじゃねぇか!責任とって死ね!」

「元はといえば、テメーがぶっ壊したんじゃねぇか!

見ろこの惨状を!!中のレアメタルもろとも埋まっちまったじゃねぇか!どうすんだよおい!」

思いのたけをぶちまけたが、ああ言えばこう言う口だけのキースがそれに噛みついてきやがる。うざいったらありゃしない!

「あー………君たち、まずは助かったんだから喧嘩は止めたらどうだい?というか、崩落に巻き込まれる寸前だったっていうのに、すぐに喧嘩を始めるなんて君たちのマイペースさにびっくりだよ」

 そんな中、自称スパイのなんちゃって工作員が何か言ってるが知ったことじゃない。俺にはもっと大事なことがあるんだ。

「くそがっ!レアメタルを手に入れ損なっちまった!キースは殺すとして、この先どうやって手に入れたものか」

「何で殺されなきゃならんのだ!」

 ギャーギャー喚くキースをどついて黙らせると、とりあえず俺は今のこの状況について再確認する必要があると思い、まとめることにした。

 領主の息子に頼まれたレアメタルという鉱石だが、その納品分についてはギルドにお願い(脅迫)して用意してもらうことになっているから依頼は達成されたも同然だ。だが、キースも言っていた通り、希少な金属な上に一般の取扱いもしていないという事から入手は困難である。

 当然、俺のお願い(脅迫)であってもギルド側もそんなに多くは入手することはできないだろうから、領主の息子へ持っていく分しか手に入らないだろうと考えておいて間違いないだろう。となると、俺の分まで欲しい場合はどうしても+αのレアメタルが必要になってくるのだ。

 そんな面倒な事をしないで必要な納品分だけ貰ってそのまま帰ればいいじゃないかと思う人も居るだろうが、俺は鍛冶師なのであって冒険者ギルドの構成員というわけではない。俺はあくまで鍛冶師だ。

 大事なことだから2回言いました。

だから、あくまでメインは俺自身がレアメタルを手に入れその鉱石で鍛冶をすることが目的なのだ。

 まだ武器を作るのか防具を作るのかさえ決めてはいないが、手に入れた暁には何かしらの武具は作りたいと思っている。

 未だかつて取り扱ったことが無い鉱石を使って鍛冶をする経験は、何物にも代えがたい俺自身への成長の糧となること間違いなしだろう!今からわくわくが止まらない!

 ………という意気込みを語ったところで気づいたとは思うが、このまま帰ったらレアメタル(俺専用)ゲットの主目的が達成出来ないのだ。かといってサブ目的の領主の息子に献上しなきゃならんレアメタルはぶんどれないときたもんだ。

        

 そんなクソみたいな制約の中でやりくりしようと、レアメタル採掘場に忍び込んだは良いがキースのせいで坑道が土砂で埋もれてしまった為、思いっきり肩透かしを食ったというか当てが外れてしまった。

さて、どうしたものか………

「あの………ちょっと良いでしょうか?」

 自称スパイの外人が俺に向かって何か言ってきた。俺たちと何の接点も無いくせに話かけてくるなんて何か目的でもあるのか?

 とりあえず俺が言える事は、スパイとか一番信用ならない職業についてる奴が何を言ってこようが全て胡散臭いことこの上ない。

 あ、そうそう。スパイといえば昔、そういった漫画か何かを読んだことがあるが、その作中では口封じで証人を殺すだの、証拠隠滅で住人ごと建物を爆破するだとかとんでもない内容だったのをふと今思い出した。

 はっ!

 そういえば、こいつ何時暴発するか分からないようなキチ○イ装備を平気でぶっ放していた。

 そんな言動を見るに、口封じだの何だので平気で俺たちに害を成そうとしているのやもしれん。ここは一つ牽制でも入れておいた方が無難かもしれん。まぁ、別にキースが殺される分には平気なんだがな。

「なんだ?まだ居やがったのか?自称スパイなんて職業に就いてる怪しいヤツめ。口封じだの何だの訳の分からんことをしようとしやがるなら、全力で返り討ちにしてやるぜ!」

 言うが早いか、俺は件の柄に手を置きいつでも斬りかかれるように万全の体制を整えた。この体勢からなら、どんなに離れた場所であろうと対応出来る自信がある。

「ちょ!!ちょっと待ってくれ!!

流石にアンタにゃ勝てないし、口封じだなんてやれる訳ないじゃないか!!レアメタルが欲しいと言っていただろう!?ちょっとした提案をしようと思っただけだ!」

 凄く慌てた様子で俺から距離を取る自称スパイのおっさん。

 はっ、ばかめ。どこまで逃げても俺の射程圏内だ………じゃなくて、こいつ今なんて言った?

「提案だと?どういうことだ?」

「なにぶん危険なんで今まで見送っていたんだが、アンタを見込んで頼みがあるんだ。上手くいけば俺は任務達成で帰れるし、アンタはレアメタルを手に入れることが出来る。そんな提案なんだがどうだろうか?」

 自称スパイのおっさんは、俺が剣の柄から手を離していないのを横目で見ると、冷や汗をかきながら必死で俺にその提案とやらを持ちかけてきた。

 考えるに、このままの何もしなければ俺の分のレアメタルなんて手に入らないのは目に見えている。運よくギルドが俺の分のレアメタルまで調達してくれれば言う事ないんだが、あんまり期待は出来ないだろう。そうなると、やはりこの怪しい男の話を聞いた方が良さそうな気がしてきた。とはいえ、自称スパイの怪しいおっさんの戯言を真に受けるのも危険だ。

「よし、その提案とやらを言ってみろ。聞くだけなら聞いてやるよ」

 未だに痛みで唸っているキースを踏みつけて本当に黙らせると、俺は自称スパイの提案とやらを聞くのであった。

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