表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/88

Sランクの実力

 冒険者ギルドとは有体に言えば、職業斡旋所である。

もう少し詳しく説明すれば、村や街から発せられる悩みや解決してほしい事柄を依頼としてギルド構成員(冒険者)に紹介するというのがメインの場所である。そしてその依頼を解決することにより報酬(給料)が手に入るという寸法だ。その他、国からの補助を受け、住民に害の及ぶ魔物に懸賞金を懸けて危険な魔物の間引きを推奨している。これも討伐部位をギルドへ提示することにより懸賞金を貰えるシステムになっている。

 冒険者として参加しているのは何も筋骨隆々の戦士ばかりでなく、普通に街や村で生活している一般市民もギルドに所属している人は多い。何故なら冒険者ギルドに所属していない者は依頼を懸けることは出来るが、依頼を受けることが出来ないからだ。

 冒険者ギルドという名前を使っているが依頼の内容は多岐に渡り、子供でも簡単に出来るような仕事がある為、小遣い稼ぎに何か依頼を受ける人や家計の足しに依頼を受ける主婦も居る。依頼を懸けるにせよ依頼を受けるにせよ、地元住民にとっては切っても切れない施設なのである。

 とはいえ、そういった誰にでも出来る簡単な依頼もあれば、戦闘のプロフェッショナルのみが受ける依頼というのも当然存在する。

 基本的に冒険者とは文字通り危険を冒す職業である。当然、人の生死に関わる危険な依頼も存在している。そうした依頼がある中で、やはり無謀な挑戦により命を落とす冒険者も多いのだ。

 度々、自分の能力と依頼の危険度を計り間違える者が続出したため、ギルドでは冒険者の熟練の度合いを表すものとして『ランク』という制度を設けた。

ランクは1番上のSランクから下はFランクまであり、Sに近いランクを持つ者ほど、実力者として評価されるようになる。依頼もそのランクに応じて受けられる内容が決められており、自分より1ランク上の依頼までしか受けられない事になっている。ただし、Sランクのみ例外で、Aランクの者がSランクの依頼を受けることは出来ない。Sランクの依頼はSランクにしか達成出来ないようになっているのだ。この規則が決められたことにより、Fランクの冒険者がAランクのような命の保証が無い熟練者向けの依頼を受けられないようになり、無謀な挑戦で命を散らす者が減少した。

基本的にランクを上げる方法は、依頼を数多くクリアすることにより上昇していく。Fに近いほどランクが上がりやすく、逆にSに近いほどランクは上がりにくくなっている。更にAランク以上になるためには特定の条件を満たす必要があり、誰でもなれるというわけではない。

とはいえ、危険度が上がれば上がるほど自分に返ってくるリターンも大きく跳ね上がるので、一攫千金を夢見る者たちはSランクを目指すのだ。

 余談ではあるが、ギルドの方で正式な呼び方を決めていない為か、S“ランク”冒険者と言う人もいればS“級”冒険者と言う人もいる。どちらも意味は同じなので人によって言い方は異なるという(割とどうでも良い話ではある)


俺の場合は修行と称した超危険な依頼を受けさせられ、片付ける度に糞爺が俺が稼いだ金を全額どっかに寄付しやがるので毎回タダ働きさせられている。最初の頃は死と隣り合わせで金を請求する余裕など無かったが、余裕が出始めた辺りで(この頃には既にSランク一歩手前のAランクになっていた)何の権限があって人の稼いだ金を勝手に持っていくのかと抗議をしたことがあった。最初の頃に言えば良かったのだが、もうその頃には武道大会の優勝賞金が霞むくらいの莫大な金が動きまくっており、何に使ったのかと聞いたら孤児院と国庫に寄付したからとかホザきやがったのだ!!お前、国庫に寄付とか大商人レベルの奴らしかやらねぇだろ!

 公共事業とかインフラ整備に使われたとか言われても知らんがな!!金を返せと言われてももう使ってないとかホザきやがるし、もし孤児院への寄付が無くなったら困るのは子供たちじゃぞ、とか訳の分からない理論を展開。その次の日に地方の村へと連れて行かれ、これがお前の成果じゃと見せられたのはなんと【ジェラルド孤児院】なる領主の館以上の面積を要した立派な建物があった。勝手に人の金と名前を使うな!!

 そこで茫然自失している俺に向かってクソジジイは、もしこの孤児院が寄付が途絶えて潰れてしまったら、ワシはお主にその後子供たちがどうなったかを逐一知らせるぞと脅してきやがったのだ!

 ………あれか?こんな感じで報告がくるのか?

 『孤児院が潰れて路頭に迷った○○君は誰も助けて貰えないまま真冬の寒い中、道の真ん中で餓死して死にました。それもこれもジェラルドが寄付金を打ち切ったからです』

 とか、誰かが死ぬたびに言ってくるのか!?

 悪趣味すぎるわ!!

 寄付金を打ち切ったら、ワシは絶対お前を許さない、とかそっちの展開の方がまだマシだろ!!

 っていうか、クソジジイ自体使い切れないくらい金持ってやがる癖に何で自分の金を使わないんだ!

 まったく、なんつー悪趣味なジジイだ………

 まぁ、そんな訳で寄付金を切るなんていう外道な真似が出来なかったお陰で、俺は鍛治で細々と稼いだ金や低ランクの依頼で稼いだ金で貯蓄していた分しかなく、武闘大会での臨時収入がなければ自分の店を建てるのは当分先になっていたことだろう。

 そういえば、まだ真実を知らなかった頃にずっと疑問に思っていたことが一つあった。それはジジイの依頼を受けるようになってから、配達先を間違えている手紙が頻繁に届くようになったのだ。内容は、まるで子供が書いたような雑な絵が書かれ「いつもありがとう」だとか「貴方のお陰で子供達が健やかに日々育っています」だの身に覚えのない言葉が羅列された手紙を週一ペースくらいで貰っていたのだ。内容が内容だけに何と無く捨てるのを憚っていたが、あの時下した判断は間違っていなかった。

 その実態は、自分が知らない間に人の金で孤児院を勝手に立てられて、その孤児院から感謝の手紙が俺に向かって来ていたのだ。もし捨ててたら、当時の俺は理不尽な罪悪感を感じるハメになっていたことだろう。


っていうか、予想外すぎるだろ!!



話は脱線しまくったが、とにかく高ランクになるほど金が稼げるのだ。

 Sランクともなると王都にあるギルドの最高責任者の許可と、ギルドで多大なる貢献を残したもののみが名乗ることが許される最高の名誉職であるSSランク保持者のクソジジイ(国の英雄)の許可が無ければ名乗ることが許されない。

そんな経緯があり、こんなものを振りかざした暁には凄く目立つ。

俺は目立つのが嫌いなので、偽名が印字されているBランクのギルド証の携帯を特別に許可されている。そのギルド証は本物で作られた偽物なので普通に問題なく使用することができる。むしろギルド側も、いらぬ騒動のタネとならないよう推奨して俺に持たせているのだ。むしろ、それはSランク特権であったりする。他にも特権はあり、例えば目の前で土下座している受付を月に3人までならクビに出来るという謎の特権もある。どこのCEOだよと突っ込みを受けそうだが、持ってるんだからしょうがない。っていうか月に3人ってことは次月になればまた3人クビにできるのか………まぁ、どうでもいいな。

 とにかく俺は通常は目立たないように、Bランクのギルド証を使用しているのだが、あまりにもムカついたので、目の前で土下座しているオヤジに印籠のごとく見せたのであった。


「それで?………他に何か言うことは?」

「「「申し訳ございませんでしたぁー!!」」」

 三人揃って俺に向かって土下座をする受付連中。そんな異様な風景にさっきまで大声で酒をかっ食らっていたジジイ連中が訝しげな表情で成り行きを見ていた。

「まぁ、謝ってくれればそれで良いんだよ。それよりも困ったことがあってさー」

「何なりとお申し付け下さい!!」

「レアメタルを手に入れたいんだけど、どうやったら手に入るのかなー?」

「そ、それは………」

 冷や汗を垂れ流す受付のオッサン。それを半眼で睨み付ける俺。

「まさか手に入らないとか言わないよね~」

「………!!!

か、必ず手に入れます!!しかし、2日ほど猶予を頂きたいのですが……」

「ん~?何だって~?

かならず今日中に手に入れて明日の午後一にはお出しできますだって~?いやー助かるよー」

「そ・・・そんな・・・」

「じゃあ、頼んだぜー。

あぁ、もし出来なかったら………いや、そんな事ある訳ないよね~。じゃあ頼んだよー」

 そう言い放って俺はギルドを後にした。

 後ろのほうで怒号やら悲鳴やらが聞こえてきたが、そんな事は俺の知ったこっちゃないのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ