地上げ屋
宿に案内されたと思ったら、そこは廃館だった。
何を言ってるか分かんねーと思うが………いや、見た目そのまんまだし誰でも分かるよな。
というか外観だけでなく内装まで酷いとは思わなかった。
しかも予想外の方向からの酷さだ。ただ古臭いだけではなく、蝋燭台やら花瓶やらが辺り一帯にぶちまけられているのだ。まるで空き巣にでも入られたかポルターガイストが暴れまわった後かの2択しか無いような荒れ方である。
そういえば王都では一風変わったサービスが売りの『ビックリ宿』なんていうのがあるらしいが、こんな所でびっくりの意外性を出されても迷惑だ。
「何なんだ、一体ここは………」
「ここはどこかって?ここは、この町一番の宿『死霊の館』さぁ!」
ガバっと手を上げながら大げさに説明する青年。何の目的でそんな事をしたのか分からないが、殺意しか沸いてこない。もうゾンビだの死霊だのはこりごりなのだ。狙ってやった訳ではないとはいえ、嫌な記憶を思い出させるタイムリーな話題を出すとは、よほど命がいらないと見える。
「………自分の命を掛けてまで冗談を言うとは、ずいぶんと体を張ってるんじゃないか?えぇ、おい?」
スラっと小気味良い音を立てながら鞘からロングソードを引き抜く。そんな俺の様子を見て焦ったように青年は後ろに下がった。
「待った!待った!嘘だって!!本当は違う名前なんだ!!ちょっとした冗談じゃないか!」
「冗談に聞こえねぇーんだよ、マジでよぉぉぉぉぉぉ!」
ズタボロな玄関ホールを舞台にしながら俺は力の限り叫んだ。
「改めまして………私はこの『栄光の鷹』のオーナーを務めます「オーランド」と申します」
青年改め、オーランドは散らかった玄関ホールを無視して今更な説明を行った。
外観も酷い建物だが中は凄まじいまでに荒れ放題であった。その荒れ方はまるで空き巣に入られたかのような散らかり方をしている。
普通に考えれば一般的な宿とは程遠い内装をしており、とうてい一般客が泊まりたいと思えるような宿ではない。
そこを敢えて無視し、何か捻り出して言わねばならないのであれば、地面に散らかっている調度品や館の規模からすると昔はそれはそれは立派な建物だったのだろう。それこそオーランドが言ったように、この町一番を名乗っても恥ずかしくないくらいの規模の、だ。
今じゃ見る影もないが。
「説明が今更すぎる上に、館の名前も『栄光』じゃなくて『栄枯』の間違いだろ」
「HAHAHA、お客さん、誰が上手いことを言えと」
「ふざけんなアホが!俺をこんなフザケタ所に連れてきやがって!俺はもう帰るからな!」
こんなアホに付き合ってても仕方がない。俺は踵を返してこの場を立ち去ろうとした。
「お客さーん………この町の宿は全て埋まってますよ~」
まるで幽霊のような不気味な声が後ろから聞こえてきた。確認するまでも無いがオーランドの声だ。
「何でそんな事がわかるんだよ。町中探せば一軒くらい見つかるだろ」
何をそんな当たり前なことをと思いながらオーランドを見つめる。
「普通はそうでしょうが、今の時期は降臨祭が開かれてますからね。”王都観光ツアー”みたいな王手の旅行会社が今の時期目掛けて紫峰山にやってきてます。探し回ったところで到底見つかるとは思えませんね」
オーランド最後に、だからここに泊まりましょうと言って締めくくった。
「………確かにスゲー人ばっかりだなと思ってたが、何か特別な催しでもやってたのか………それにしても王都観光ツアー許すまじ………」
「………なんだか目が据わってるけど、大丈夫かい?」
王都観光ツアーをどうぶっ潰すか頭の中でプランを考えていると、オーランドの心配そうな声が聞こえてきた。キッと睨み付けてやると半笑いを浮かべながら後ろに後ずさりした。
「心配といえば、この宿………どんだけマニアックが客層を狙ったかは知らねーが、こんなに荒れた宿泊施設のフロントは未だかつて見たことがねーぞ」
紫峰山へ向かう途中に寄り道した宿ですら不気味で古臭く感じたが、宿という最低限の体裁は残っていた。そう考えるとここはあのゾンビ宿以下の価値しかないのかもしれない。
「いや~、やっぱりそこに目が行くよね~。これって今朝やってきた地上げ屋達が暴れていってさ~。こんな強盗にでも入られたように散らかされちゃったんだよね」
オーランドは困った困ったといいながら、荒らされた調度品を片付け始めた。
「地上げ屋?地上げ屋って確か………他人の土地を買収してる連中の事か?」
「そうです。最初はこの土地を売るように説得されたのですが、断り続けている内に段々と強硬な対応をしてきましてね。今ではここの客を追い返したり、酷い時には今日のように暴れまわる事もあります。もちろん、普通の地上げ屋はこんなヤクザ紛いのことはしないんですけどね。詳しい話は分かりませんが、教会の人達が地上げ屋のバックにいるので表立って抗議出来ないんです。教会という強大なバックが地上げ屋に付いているのを知っている騎士達も、見て見ぬ振りをしてます。とはいえ、先祖代々に渡って続けているこの『栄光の鷹』を私の代で潰す気は無いので絶対に明け渡したりはしませんけどね」
「ふーん………ま、興味無いからどうでもいいけど」
胸を張って答えるオーランドをバッサリ切り捨てる。オーランドは方を落としてがっくりとうなだれていたが知ったことではない。
「とにかく野宿はもうこりごりだし、仕方が無いから泊まってやるよ。フロントは酷い有様だが、まさか部屋の方までは荒らされてないよな?」
「お、お客様………」
まさか泊まるとは思っていなかったのか、パッと顔を輝かせるオーランド。
「はい!部屋にご案内しますね!こちらへどうぞ!」
この日一番の笑顔で部屋に案内するのであった。
ちなみにキースの奴はというと、たまたま1名キャンセルが出た宿を探し当てそこに泊まったそうな。
…………
くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
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今回、試験的に改行して書きました。
いつもと同じ書き方が良いのか、はたまた今回のような書き方が良いのか分かりませんので、特にコメントが無ければ次回から元に戻したいと思います。




