ジェラルド、廃館に泊まる
キースをぶん殴って大地に沈めた後、俺は宿を探し始めた。どっかのアホの提案に乗ったばかりにテントで夜を明かす羽目になったので何とも寝た気がしない。早く宿を見つけて疲れを癒したいものだ。
「さて、宿屋でも探すとしますかねぇ」
それらしい建物が無いか辺りを見れば、すぐに一軒の宿が目に付いた。というかそこら中に沢山の宿がある。そういえば、キーロフの村を出発するときに見た観光本(4行くらいしか見てない)には、巡礼を行う者達で紫峰山は活気を見せ始めたとか何とか書いてあった気がする。宿屋に酒場に露店と、観光地ならではの店が沢山あり、それに付随して人も沢山いる。田舎(キーロフの村)で育ったせいか人が沢山居ると落ち着かない。
「うへぇ、人ごみってヤツには慣れんなぁ。王都も凄かったがここも凄い……」
しかめっ面をしながら人ごみを避け、適当な宿に入る。受付にはこれまた無愛想なおっさんが陣取っていた。
「何日か泊まりたいんだが」
「生憎、ウチは一杯でね。他を当たってくれ」
「そうかい。それじゃ他を当たるよ」
あまりの無愛想さに客商売を舐めるなと叫びそうになったが、時間を無駄にしたくないので次に目に入った宿に向かった。
「何日か泊まりたいんだが、空いてるかい?」
「ごめんなさいねぇ。ウチはもう一杯で泊められないのよ」
「………そうですか、他を当たります」
そう言って再び宿から出たが、ここで俺の第六感が警鐘を鳴らし始めた。
「これって何かデジャブを感じるんですけど………」
冷や汗が流れ始めたが、まだ”そう”とは決まっていないと気合を入れ次々と宿を襲撃した。
「何日か泊まりたいんですけどー!」
「泊まりたいんですよー!」
「泊めてくれー!!」
「泊めろっつってんだろボケがぁぁぁぁっ!!」
何十件回ったか分からないが俺が回った全ての宿から断られた。最後の台詞はやけっぱちで叫んだが、店員が騎士を呼びそうになったので気絶させて逃げてきた。
「ちくしょー!!どうなってやがんだコラァァァァッッ!!!」
露店の真ん中で叫んだら、周りの連中が悲鳴を上げながら逃げていった。
「くそがっ!絶対見つけてやるぞ!もう今日は寝るんだ俺は!!」
再び気合を入れて街を練り歩く。そして見つけた一軒の宿に躊躇無く入っていった。
「1名泊まれますか?」
キースのことは居なかった事にして受付に聞いてみた。
「申し訳ありません。ここは”王都観光ツアー”様の貸切となっておりまして、本日お泊めすることができないのですよ」
「うがああああああああああああっ!!一度ならず二度までも俺の邪魔をするとはぁぁぁぁぁぁ!!”王都観光ツアー”絶対潰してやるぅぅぅぅぅっ!!」
「お、お客様!他のお客様のご迷惑になります!帰って下さい!」
「ふんだ!帰るよ、もう………くそう、何だってこんな目に………」
敗戦国の兵士のような気分になりながらトボトボと宛ても無く彷徨った。
暫く宿探しをしていたがいい加減つかれたので、たまたま見つけた公園のベンチに座った。
「はぁ~………俺一人すら泊まれないとは参ったな」
もう完全にキースのことを忘れて、1名泊まれますか?で聞きまくったがこれといった成果が得られなかった。
「どっか泊まれるところ探さないと、また野宿になっちまうなぁ」
しんみり呟くが、2日連続で宿泊施設を目前としながら野宿とか勘弁願いたい。
「あんた、宿を探してるのか?ウチで良かったら泊まっていくかい?」
ハッとして後ろを振り返れば、幸薄そうな………失礼、人の良さそうな青年に話しかけられていたようだ。
「ひょっとして、俺に言ってるのかい?」
あれだけ探していて見つからなかったので、信じられない気持ちで聞いてみた。
「アンタ以外に誰が居るってんだよ。ま、とにかく
ウチも宿屋やってるから、良かったら泊まっていくかい?」
青年は幸の薄そうな笑みで………失礼、にっこりと微笑んだ。
キリュウオーナーが東方の格言として言っていた「地獄に仏」というのはこの事なのかもしれない。
「願っても無い!ぜひ、泊まらせてください!」
「おぉ、良かった。ウチはお客さんが少ないから、泊まってくれると助かるよ。それじゃ早速案内するかい?」
「ぜひお願いします!」
二日連続で野宿するという窮地を救ってくれるなら、例え廃館にだって泊まってみせるさ、ふははははー。とにかく、野宿せずに済むのは非常に嬉しい。
俺は青年の案内に着いていった。
「よし、着いた………まぁ、見た目ちょっとボロい宿だけど、歓迎するよ。」
「………マジで言ってんの?」
青年に案内されてたどり着いた先には、正しく”廃館”が存在していた。




