閑話―才能の秘密―
人は何かしらの才能を持って生まれる。例えそれが本人の望まぬ才能だとしても。
ウポポ出版「天は二物を与えず」より抜粋(大嘘)
昔々、あるところにとてつもなく面倒くさがりな神様がおりました。
その神様は生まれてくる新たな生命に才能を授ける大切な役目を担っていました。
しかし元来の面倒くさがりな性格が災いし、下級の天使(部下)にその仕事を丸投げすると自分は鼻くそをほじくりながら毎日毎日日がな一日ぼーっとしながら過ごしておりました。そんなある日の出来事です。
――――――――――――
「神様、神様。創造主様から大切な仕事を授かりました」
仕事を全部丸投げしている部下からの一言に、当の本人は顔を顰めた。
「え~………凄く面倒そうじゃん。
いつも君に丸投げしてるように、今回も君に全部任せたよ~」
そう言ってすぐ横になった自分の上司を目の前にし、流石にカチンと来た天使は言いました。
「今回はそうはいきませんからね!
創造主様(神の上司)も貴方がサボっていることはお見通しなんですから!きっちりしっかり仕事をせよとの厳命付きですからね!」
そう言って天使が見せたのは創造主のサインが入った命令書だった。
「うげえええぇぇぇぇぇ!
なんつー厄介な物を………ってちょっと待て!!!
しかもこれ”呪い”付きじゃねぇかあああぁぁぁぁぁぁぁ」
神様と呼ばれる存在があたふたしながら指を差したそれは、契約がなされない場合は三日三晩決して消えることのない”神の炎”によって焼かれ続けるという正に”呪い”が掛けられていた。
「な!!!
呪いだなんて、そんな悪魔が使うような下劣な代物と一緒にしないで下さい!
これは創造主様の”祝福”なんですから!!」
………どこの世界に三日三晩燃やされ続ける祝福があるんだよと呟く神の一言は天使によって聞き流された。
「とにかく、仕事はきっちりして貰いますからね」
そう言って勝ち誇ったような顔を晒す部下の天使を睨みつけながら渋々了承した。
「………で?
その”大切な仕事”ってのは何なのさ?
私ってばチョー忙しいんだから早くしてよね☆」
「…………はぁ。
まぁ、やる気になってくれただけ良しとしましょう。
今回のお仕事というのは、創造主様が力を込めて作ったこの二つの”才能”をある子供達それぞれに渡して欲しいとの事です」
天使がおもむろに出したのは創造主が丹精込めて作り上げた二つの”才能の塊”だった。
「一つは”鍛冶の才能”で、もう一つが”剣術の才能”です。まぁ、本職である貴方に今更説明するまでもないとは思いますが………仕事をサボってばかりいるので忘れているのではないかと思って説明しました」
半眼になって神を睨みつける天使。その視線を飄々とした様子で避わす神。
「ははは、確かに君の言うとおりすっかり忘れてたYO☆」
「……………」
「怒っちゃやーよ☆」
「……………話を続けますよ。
キーロフの村に二人の男の子が生まれる予定となっています。
一人は”あの”名匠ギリアム・マクラレンの息子であるジェラルド・マクラレン。
もう一人はその幼馴染になる予定のキース・ロワイヤルという男の子ですね。
その二人に創造主様が作った”才能”を渡して欲しいのです」
天使が上げた名前の一つに心当たりがある神は思い出しながらこういった。
「あぁ、ギリアムってあれだろ?
えーとねぇ………確かヘパイストスのヤツが弟子に欲しいとかって言ってた野郎だったよな?
んで、タナトスを脅して死んだらそいつの魂を寄越せとか無茶苦茶な要求したのがバレてその後アテネのゴリラ女にアイギスの盾でしこたま殴られたんだよな」
ゲラゲラ笑い転げる神を尻目に天使は説明を続ける。
「………こほん。とにかく、創造主自らが動いたということは、アナタでもお解りになられるかとは思いますが、かの”魔王”が復活する兆しが現れたからです」
「魔王ねぇ………たしか何百年か前にそんなのが居たような記憶があるような無いような?」
「アホかァァァァァァっ!!
あんだけ天界で騒ぎになったっていうのに覚えとらんのかボケ!!」
上司の怠惰に慣れている天使も、さすがに突っ込まずにはいられなかった。
「とにかく!
そういう訳ですから、ちゃっちゃと仕事を終わらせて下さい!」
「分かったよ~………
ったくめんどくさいなー。それじゃさっさと終わらせますかねぇ~。えいっ!」
ぶつくさ文句を言いながらおもむろに立ち上がると、神は天使から受け取った”才能”をあろうことかぶん投げたのだった。流石の天使も展開についていけず3秒ほどフリーズした後、我に返って目の前の神が何という事をしでかしてしまったのかという事を嫌でも理解してしまった。
「おいぃぃぃぃっ!!
アンタ何しとんねんっ!!!アホちゃうかこんボケがぁぁぁぁぁぁっ!」
生前人間であった頃の方言を撒き散らしながら天使は神の胸倉を掴んだ。
「ちょっ!!おまっ!!暴力反対っ!!
大丈夫だってっ!!ただぶん投げたじゃなくて、ちゃんと狙って投げたんだからっ!!
決して直接才能を渡すのが面倒だったからぶん投げたわけじゃないんだからねっ!!」
「本音が丸聞こえだボケがぁぁぁぁぁぁっ!!どうしてくれるんだよっ!!おいぃぃぃぃぃっ!!」
掴んだ胸倉をガクガクと揺らし始める天使に危機感を覚えた神は本気で焦る。
「お、おいっ!!だから大丈夫だって言ってるだろ!!
ほら、とにかくあっち見ろってっ!!
ちゃんと”ジェラルド”と”キース”に才能が渡っていってるだろ!」
言われて天使が下界を見下ろすと、ジェラルドとキース目掛けて神がぶん投げた才能が飛んでいっているのが目に入った。
「あ、本当だ………腐っても神なんですねぇ」
「おい………その台詞は本人の目の前で言う台詞じゃねぇぞ」
半眼で睨みつける神を無視しながらふとある違和感に気づく。
「ところで………アナタがぶん投げた才能なんですけれども………」
「え?
だから君も見てる通り、ちゃんと二人に届くから安心しろって!」
「う~ん………」
何だか嫌な予感がした天使は更に目を細くして才能の行方を追った。
そしてそうこうしている内に”才能”が二人の男児の元へとたどり着く。
そこで天使が見たものは
”名匠”ギリアム・マクラレンの息子であるジェラルド・マクラレンに”剣術”の才能が
そして幼馴染であるキース・ロワイヤルに”鍛冶”の才能が入っていく様子であった。
「………………」
「なぁ!平気だって言っただろ~。
いや~いい汗かいたなぁ~。よーし、さっそく風呂にでも入って寝るとしますかね~」
そう言ってこの場を去ろうとする神の襟首を天使は無遠慮に掴んだ。
「ぐぇっ!?」
蛙が潰れたような声を出して苦しがる神。
「………ちょっと待って下さいよぉ………」
抗議の声を上げようとした神は、まるで幽鬼のような顔している天使の様子を見てギョっとした。
「ちょ………何かチョー怖いんですけど………仕事が終わったんだから、もういいでしょ………」
冷や汗を垂らしながら必死に逃れようとするがビクともしない。そんな様子を知ってかしらずか天使はその幽鬼のような顔をしたまま神に告げる。
「………アナタがぶん投げて下さった才能ですが………”名匠”の息子であるジェラルド・マクラレンに”剣術の才能”が………そしてその幼馴染には”鍛冶の才能”が渡ってしまいましたが………逆です」
「えっ?」
冷や汗を滝のように流しながら神は天使に問う。
しかし、神も馬鹿ではない。”逆”という言葉に心当たりがあるのだ。
「逆っていうのは、あれかなー??
入れる才能が逆だったー、な~んて事があったりして☆
そんな訳ないよね~、あはははは~………」
「…………………」
無言で襟首を更に締め上げる天使。
「ぐうぇええぇぇぇぇ」
顔面蒼白でギブアップを伝えるが一向に意に返さない。
「創造主様がお作りになられた”才能”は強力過ぎて一度その身に入れば二度と取り出すことが出来ないのは神であるアナタなら知っている事でしょう………もはやこれまでです」
襟首を締め上げたまま、天使はニッコリと微笑みながら死刑宣告を放った。
「三日三晩燃え続けろ、駄目上司」
「え、ちょっと待っ………ぎゃあああああああああああああああああっ!!!!」
二人の赤ん坊がキーロフの村で生を受けたその夜、一際異彩を放った輝く星が三日間王都で観測されたのはまた別の話である。




