王都西区~職人通り~
未だにギルドのソファで真っ白に燃え尽きているキースを放っておいて、俺は西区へと足を向ける。
王都というだけあって、キーロフの村とは比べ物にならないくらい広いので移動が一苦労である。とはいえ、現在地であるギルドは中央区に位置しているから、西区へのアクセスはそこまで大変じゃない。
そもそも何で西区へ足を向けるのかというと、西区には色々な職人達が店を構えているからだ。
「やっと俺の目標が達成出来る………」
静かにひとりごちる。
武道大会といえば剣士達が名を売る千載一遇のチャンスであるが、職人達にとっても自分の作品と名前が世に出るチャンスなのである。つまり武道大会は、職人たちにとっての武具の祭典と言っても過言ではないのだ。
そんな武具の祭典で出回る商品ともなればさぞや優れた作品も世にでることだろう。俺はそういった作品をこの目で見て、自分に何が足りないのかを勉強しにきたのだ。
今まで王都へ勉強の為に何度か訪れよう、訪れようとは思っていたが微妙な距離が邪魔をして(頑張れば行ける距離だが、わざわざ行くだけで2日掛かるのは馬鹿らしいし、何かのついでにでも行けるだろうとジェラルドは考えていた)今の今まで先延ばししていたのだ。
まぁ実際に不本意だとはいえ、武道大会に出場した「ついで」で王都には来れたのだが、いかんせん会期中に行けなかったことは痛恨のミスだった気がする。
今までは三本の指に入るほどの凄腕である親父の作品を見るだけで満足していたが、やはり親父以外の作品も見て回りながら勉強することも大切であろう。
出来だけを見れば、親父よりは劣るであろう王都の職人達の作品であっても(失礼)自分が会得していない技やハッとさせられるような武具に巡り合えるかもしれない。
そう思うとニヤニヤが止まらなかった。
「さ~て、どんな武具があるのかな~♪楽しみだな~♪」
いつの間にか自然とスキップをしながら移動していた。
――――――――――――――――
西区に入るとそこにはそこかしこに工房らしき建物が見えてきた。通りには露店と思しき仮設テントのようなものが何か所か立っており、一番手前のテントでは商人が客に剣を売っているところだった。
おっと、こうしちゃいられないな………というわけで、俺もさっそく近くで売っている剣を一つ手に取って見てみることにした。
「ふーん………なるほどねー」
何の変哲もない鉄の剣だが(失礼)、グリップの部分が持ちやすいように工夫されており、手になじんで扱いやすい一品となっていた。
「よお、兄ちゃん。アンタも新しい剣でも探してるのかい?」
話しかけてきたのはさきほど客に剣を売りつけていた店員だった。
「ん~、剣というか色々な武具を見て回ってるんだよね~」
俺は正直に答える。どうせ剣など買う気なんてサラサラ無いからだ。
「あぁ~なるほど。アンタ、もしかして鍛冶師か何か目指してんのかい?」
そう答えた俺に対し、合点がいったかのように相打ちをする店員。
「そうそう。俺ってば鍛冶師なんだよね~、うん」
久しく鍛冶師扱いされてなかったせいか、この台詞に少しばかりジンとした。
「そうかそうか。確かにここは職人通りなんて言われてるほど優れた鍛冶師が多いからな。きっとアンタも勉強になるだろうな………将来、アンタも凄腕の鍛冶師になるかもしれねぇから、好きなだけ見てってくれよ!まぁ、凄腕になった暁には、ウチに安く仕入れさせろよな」
そう言って店員は笑いながら離れて行った。
とにかく、店員からの許可も貰ったし、これで堂々と店内を物色できるって訳だな。まぁ、許可貰おうが貰えなかろうが関係ないけどねー。
暫く物色するも、これといった鍛冶品にはめぐり合わなかった。剣・鎧・果ては東方から伝来してきたという鎖鎌というものまで見させてもらったが、なんというか出来が値段相応というか………あの程度の作品だったら断然、俺のほうが良い剣を打てる自信がある。
「う~ん………やっぱり親父は偉大だったんだなぁ」
こうして他の作品と比べて初めて分かったのは、親父の腕が天元突破していたという事実だけ。手にとってみるだけでも親父の作品とは色々な部分がかけ離れているのだ。
例えば親父が鋼で剣を打てば、質量保存の法則を無視した羽のように軽く鉄だろうが岩だろうがどんな物でも一刀両断する剣が出来上がるのだが、この店にある剣で例えば鉄を斬ったとしたら、刃の部分が簡単に駄目になってしまうだろう。
やはり昔から親父に口をすっぱく言われていた事だが、自らの鍛冶品で紙を切るかのようにスッパリと鉄を断ち斬れる事………これが鍛冶師としての『最低ランクの実力』だと言われてきているので、その基準すら満たしていない武器郡を見ると本当にここは王都の職人通りなのか?と思いたくなる。
………いや、そんな事はないはずだ。きっとここは鍛冶師を目指す卵の作品を扱っている店なのだろう。職人が多いという事は、それだけの作品が世に出るということ………つまり、この職人通りでは鍛冶師見習いの作品が多く世に出る場所でもあるのだ。そう考えれば合点がいくような気がした。
「あぁ~っ!!やっぱり武道大会期間中に行けなかったのは失敗だった~っ!!」
武道大会期間中であれば、名のある名匠が打った鍛冶品に出会うこともあっただろう。その機会を失ってしまったのだと思うと、とても残念な気持ちになった。
「はぁ~………すっげー残念だ………ん???」
俺が溜息を付いていると、視界の隅にチラリとどこか見覚えのある剣を見つける。
「こ、これは………もしかしてもしかしなくても………」
俺がその剣を凝視しているとさっきの店員がニコヤカな営業スマイルと共に再び現れた。
「はっは~、やっぱりその剣に目がいったか~。
こいつはな。この国で三本の指に入る名匠『ギリアム・マクラレン』の一番弟子『キース・ロワイヤル』が作ったショートソードだよ。
滅多に出回らない超レア物なんだぜこれは」
笑いながら剣の説明をする店員。
「はっきり言って、これ以上出来の良い剣なんて王都で探し回ってもそうそう見つからねぇと自負できるぜ。これを超える作品があるとすりゃ、師匠のギリアム・マクラレンの作品しかないだろうな。
アンタも鍛冶師を目指すなら、こいつらの作品を見て何が良い作品かってのを理解しないと一流にはなれないぞ」
そう言って段々とドヤ顔になっていく店員。
どうでも良いけど、アンタがいう『こいつら』の作品を毎日俺は見てるんですが何か?
「今回、ウチのボスが難攻不落といわれるギリアム・マクラレンに頭を下げに言って何とか数量限定で仕入れさせてもらえるようになったんだよ。その上、二人の作品とまではいかないが、『結構良い武器』を定期的に仕入れられるルートも開拓したって連絡もあってな。
とにかく、ウチのボスのスゲー手腕によって、名匠二人の作品を仕入れられるようになったってんで『ムスターファ商店』の名が王都中に広まったんだぜ~。」
さらにドヤ顔になっていく店員に白けた眼差しを送った俺は、非常に精神的に疲れたので適当に別れを告げて店を出る。
「………………」
暫く無言になりながらカレンさんの宿に戻った俺は、いつもの癖で部屋に鍵を掛けてそのままベッドにダイブした。
「まさか、王都に来てまでキースの作品を見るハメになるとは………」
軽く嫉妬心も起こりながら、今日一日を振り返る。
武道大会決勝戦の対戦相手が王子としらず、ぶっ飛ばしたらそのまま城に拘束された。
そして、その後思わぬ大金を手に入れて有頂天になった。
最後に武器屋でキースの作品を見つけて欝になった………って、色々ありすぎだろっ!!
「今日はもう何も考えたくない………」
精神的にも肉体的にも疲れた俺は、そのまま眠りについた。
その後、鍵が掛かって部屋に入れなかったキースが一晩中泣き喚いていたとかいないとかあったそうだが、そんなもん知ったこっちゃない事である。




