VSキース
人が前もって何かしようと決めることを『予定』という。時間軸に分けるならば、過去・現在・未来の三つにおいて未来に分類される事柄である。
とどのつまり何が言いたいかっていうと、予定ってのは崩される場合もあるって事だ。
「ゲェッ!!二回戦目でお前と当たるなんてツイてねーッ!!」
目の前で力の限り叫ぶ馬鹿一名。
「それはこっちの台詞だ、ウスラトンカチがッ!!」
殴りたい衝動を抑えながら、目の前のアホンダラと向かい合う。最近、物凄く調子に乗っているこの××野郎(自主規制)を半殺しにする事は、こんな腐れ大会に出るハメになった場所………つまり領主の館の中で既に決定済みだったのだが、いかんせんあのアホと戦いたくない理由が出来てしまった。
もちろんあの呪われた斧のせいである。
「それを俺の目の前に持ってくるんじゃねぇよッ!!何で置いてこなかったんだッ!!」
「はぁっ!?そんなもん俺の勝手じゃねぇかっ!!何か今日はこれを持って行かないとダメな気がしたんだよっ!!」
あの呪われた斧を目の前にして『持って行かないとダメな気がした』といわせる根拠は何なんだ?お前は呪いのアイテムフェチか何かなのか?
人に言えない趣味があるって誤解のある言い方で、お前の親にバラしてやろうか!!
「おおっとっ!!
両選手、すでに臨戦態勢に入っているようですっ!!それでは試合を開始致しますっ!!」
レフェリーの合図とともに―ゴーン―という鈍い音が会場に響き渡った。試合が開始されてすぐに、よく分からないがキースは腰に括り付けていたバトルメイスと盾を取り出した。
そして気持ち悪い顔をしながら、へっぴり腰で俺と対峙するキース。
………見ていて腹が立ってきたので即効で潰すことにする。
「おらあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
俺はキースの顔面めがけてロングソードを横なぎに払った。キースはというと、俺の気合いで一瞬体が硬直したあと、俺が顔面を狙った一撃を決めようとしていると気づいて顔面を蒼白にさせた。
「のおぉぉぉわああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ゴキブリ並の素早い動きで小汚いブリッジを決め、俺の一撃を避け腐りやがった。しかし、その代償に後頭部をしたたかに打ったようだが。
「ぎゃあああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
これまたゴキブリのように床をゴロゴロと動き回るキース。見ていてあんまり気持ち良いものじゃないな。
「これでトドメだっ!!
死ねええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
割かし本気で放った(言葉と)突きで床のゴキブリの撃退を試みる。しかし、これまたゴキブリのように素早い動きで的確に避けやがった………クソがっ!!シブトイ奴めっ!!
「さっさとくたばりやがれっ!!このアホンダラっ!!」
突きのオマケで、腰に挿してあった小刀(どさくさにまぎれて受付で出してない為、殺傷能力がそのまま)を三本ほどぶん投げたが、これも見事に回避されてしまった………さすがはゴキブリ。生命力が半端じゃないってことか。
「お前ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!俺を殺す気かあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
一気に距離を取ったキースは、なにやら向こうの方で不自然なポーズをキメながらギャアギャアと喚き散らしている。
………さっきのナイフを避けたときに、ビックリ人間大賞を貰えるくらい気持ち悪い動きをしたから、どっか関節でも痛めたのか?
まぁ、そんなことはどうでもいい。さっさと殺るか………
「そうは行くかってんだよおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
突然、キースは雄たけびを上げると何をトチ狂ったのか呪われた斧を取り出し、あろう事か俺に向かってぶん投げやがったっ!!
「げえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
斧は前回の魔術師を襲ったスピードよりも更に段違いの速度で俺の頭………いや、ちがうぞっ!!クビ目掛けて飛んできてるぅぅぅぅっ!!!
「ぎょええええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
一般的な回避行動が間に合わないと判断した俺は、咄嗟に重心を後ろに倒してそのまま倒れこむ。斧は俺の首の薄皮を切り取ってそのまま場外へと飛んで行った。
「ふざけんなあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!このクソ野郎っ!!殺す気かぁぁぁぁぁぁっ!!」
「うるせえぇぇぇぇぇぇっ!!さっきのお返しに決まってんだろうがあぁぁぁぁっ!!」
一進一退の攻防に場内は更なる熱気に包まれる。こいつら、人事だと思って物凄い歓声をあげてやがって………見世物じゃねぇぞコラァっ!!(※一般開放されている武道大会は紛れも無い見世物です)
歓声を上げてる奴ら全員に対して殺意がふつふつと沸いてくる。いや、今はそんな事を考えるよりもキースを血祭りに上げなきゃな。
それにしても、さっきの斧………何か一瞬、紫色に光ったような気がしたんだが………
「ふん、これで終わりだと思うなよ………」
気持ち悪いドヤ顔でのたまうキースに嫌悪感がムクムクと顔を出す。さっきの借りは高くつくことを思い知らせてやらねばならないだろう。
俺は剣を握り締めながらキースに向かって突っかか………ろうとした瞬間に”ありえない”物を見つけて血の気が引いてしまった。
何を見たかというと、さっき場外に飛んで行ったはずの”斧”をキースが持っていたからだ。
「何じゃそりゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
俺は力の限り叫んだ。
どうなってやがるっ!?
「ハッハッハーーっ!!どうだっ!!驚いただろっ!!
最近気づいたんだが、何故かぶん投げてもいつのまにか手元に戻ってくるんだよっ!!流石は俺っ!!知らない間にそんな機能付けちゃうなんて凄すぎるだろっ!!ウハハハハーッ!!」
キースは”呪いの斧”を掲げながら”そのように”ドヤ顔でのたまった。
「………………」
思わず言葉が出てこなかったが、そういえばキリュウオーナーから似たような話を聞いた事がある。何でも東方より古来から存在するという”ICHIMATU NINGYOU"という人間を模した置物(?)があるらしい。その置物に魂やら悪霊やらが入り込むことがあり、そうなった”ICHIMATU NINGYOU”は伸びるはずのない髪が伸びたり、気持ち悪いからと言って捨てたとしてもまた同じ場所に帰ってくるという事があるらしい…………って、その斧もしかしなくても”本物”じゃねぇか………ッ!!
「喰らええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「っ!!」
不味いっ!!非常に不味いぞ………何故か知らんが、俺に対して物凄い憎悪を斧から感じる………
あの斧は絶対に命を取りに来ているに違いない。
こうなったら、いち早くキースを血祭りに上げるしかないだろう。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
俺は剣を強く握り締め、キースに向かって突っ込んで行く。
それに呼応するかのようにキースの手からは呪われた斧が投げ出された。
「チィっ!!」
間に合わなかったが、キースをこれで仕留めれば次はないはずだ。
斧は投げ出された勢いよりも更に加速し、確実に俺の”首”目掛けて飛んできた。
「こなくそおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
以前同様、回避が間に合わないと悟った俺は、一か八か剣を斧にぶち当てた。
片やキースの作品である”呪われた斧”、片や名工として名高い俺の親父の作品。奇しくも師弟対決と相成った訳だが、結果は俺と俺の親父の勝ちだった。
呪われた斧は”奇妙な金属音”(まるで悲鳴のようだ)を放ちながらリングにぶっ刺さった。しかし、俺の剣も勢いを完全に殺すことは出来ずに、俺の手から弾かれてしまった。
「クソっ!!剣がっ!!」
俺は走り出したままの勢いでキースに迫っている。ついでにキースのように武器を何本も持ってきてはいないので完全に素手である。
「げええぇぇぇぇぇっ!!弾きやがったあぁぁぁぁぁぁっ!!」
キースは慌てふためきながら、腰に挿してある武器をゴソゴソと取り出そうとしている。いくらキースとはいえ武器をもたれては分が悪い。という事で。
「死ねっ!!!
ボケキィィィィィィィスっ!!」
―ゴツン―という鈍い音を放ちながらキースは場外へと吹っ飛んで行った。
え?何をしたかって?
渾身の力を込めた親父直伝の”ラリアット”をかましただけだが。
場外へと吹き飛んで行ったキースは”間抜けな顔”(白目&泡まみれの面)を晒しながらピクリとも動かない。
「勝者っ!
ジェラルド・マクラレン選手っ!!!」
レフェリーが宣言すると会場が爆発したかのように盛り上がる。
俺はそれを一瞥すると、剣を拾いながら会場を後にした………え?キースはどうなったかって?
知らんよ、そんなものは。




