「372話」
「おっつー」
「おまたー。いやーさすがに腹減ってさあ」
腹が減っては戦が出来ぬ。
ということで、いい加減お腹空いたし昼飯にしようや? と訓練のエリアから戻った俺を出迎えた中村に軽く手を振りついでに笑顔をばらまいておく。
……笑顔ばらまく意味があったかは分からんけど、少なくともギラついた視線を向けるよりはずっと良いはずだ。
てかクロがおらん……あ、いた。
さすがにずっと中村に抱えられているのは嫌だったのか、床でへそ天しながらすぴすぴと気持ちよさそうに寝ている。
この殺伐とした空間の中、あの一帯だけ癒しの空間となっている。
さすがクロ。
「ちょうど昼だかんな。何喰うよ?」
「肉」
あいむはんぐりー!
「言うと思ったけど、ほんとに言うんじゃねえよ。てっかよくあんな斬りあった後で肉食えるよな……」
「運動したあとはやっぱお肉よお肉」
「うん、ソウダネ」
訓練施設は死亡判定出たら初期位置に戻されはするけど、別にアバターとか使ってる訳じゃない。
なので動いた分は実際に消耗しているわけで、たんぱく質補充せんとね。
「うましうまし」
昼飯は豚丼と豚汁にした。豚さんおいしいね。
野菜もとれるからヘルシー。
ダンジョンに豚も出てくりゃ良いんだけどなあ。
オークは豚タイプじゃなかったし……仮に豚タイプだったとしても二足歩行の時点でちょっと食欲がわかない。
別のダンジョンに豚いるのかな? いるならお肉調達に行くのは有りかも知れない。
ひさしぶりに焼き鳥も食いたいし……うん、良いね。あとで豚さんが出るダンジョンがあるのか探してみよう。
それはそうと。
「よく漬物だけで飯いけるな」
「いや余裕だべ。この漬物うまいし」
お米三合はありそうな丼ぶりをかっこむ俺の横で中村は漬物をおかずに飯を食っていた。
最後にお茶漬けにするらしい。
俺としては漬物はおいしいし、好きだけどおかずにするにはちょっときびしい……と思う。
豚丼にもセットでついてきたけど、やっぱ箸休め的な存在……まあその辺は人に寄るか。
「そういや島津よう」
「おん?」
豚丼と豚汁を美味しく平らげぽりぽりと漬物を食っていると、中村が箸を置きそう話しかけてきた。
「北上さんからチョコもらったん?」
「……いや? まだだけど?」
中村が何気なくはなった一言に、一瞬思考が止まってしまった。
おのれ、いきなりなんてこと言いやがるんだこやつは。
まだ貰ってないだけだからな! まだ!
これから貰えるんだ……スマホに何の連絡とか来てないし、今日は一度も遥さん見てないけれど……動悸が激しくなってきた。
「そっかー」
「なにさその憐みの目は……中村だってまだ貰えてねえべ」
俺もそうだけど、中村もこれまでの人生で身内以外の異性からチョコを貰った経験はないはずだ。
学生時代下駄箱にチョコが入ってないと嘆いている中村の姿を何度みたことか。
そもそも女子がほぼ居ない学校だし、居ても誰かと付き合っている子ばかりだしで……むしろ下駄箱にチョコが入っていたら、それ不法侵入者が入れていったチョコだよねってことになる。
食うどころか開けるのも怖い。
ま、学生時代もそうだけど仕事でもプライベートでもダンジョン潜ってばっかじゃ出会いも無かろう。
自衛隊の人もほぼ男性だし。
だから、中村も貰えていないはず……はずなのだが。
なんでそんな視線を俺に向けているのだろうか? イマジナリー彼女でもできたんか。
なんて思っていたら、中村が徐に上着のポケットから何かを取り出した。
「いや、それがさ……ほれ、ここにチョコが二つ」
「は? え、なに拾ったの?」
せめて買いなさいよ。
「お前は俺をなんだと思っているんだ? クロと太郎がくれたんだよ!」
「……クロと太郎……え、まじ?」
人じゃないんかい。
てか、え、クロと太郎が? なんで中村に……? 俺貰ったことないのに。
「まじ。ほれ、ここに歯形あるべ……って、目が! 目、怖い!?」
「ごめんちょっとびっくりし過ぎて裏返っちゃった」
「目って裏返るもんなの……?」
あぶねえあぶねえ。
一瞬ダークサイドに墜ちるところだった。
太郎は中村から食いもんちょくちょく貰っていたし、クロは中村の残念なところも分かっているし……しょうがねえなあ、これでも食って元気だせよとかそんな感じで渡したに違いない。きっとそう。
それはさておき。
目玉どうすんべ……うっかり裏返ってしまったが、誤魔化すか正直に話すか……引かれるのもあれだし誤魔化すか。
「いいだろ最近はやりのコーデだぜ?」
「え、そうなん……?」
「そうだよ」
まじで信じるなし。
……いやまあダンジョン最前線の流行りと考えれば嘘ではないか?
だから中村も早くこっちおいで。怖くないよ?
アマツ汁くそ不味いけど。
……そういえば、飲むのはアマツ汁とは限らんのか。
大抵はあの顔色の悪いおっさんの一部だろうし……がんばれ中村応援してるぞッ。
俺は絶対飲みたくないけどなっ。
「やっほー」
と、中村の未来を想像していたら後ろから聞きたかった声がした。




