「368話」
「っと」
一瞬平衡感覚を失い、がくりと床に膝をつく。
……幸いなことに視界はすぐに戻った。目に映る床はいつもと変わらない、おそらくアマツの眼球と置き換わったのだろうが、特に目が良くなったとかそういうことはなさそうだ。
「アマ、ツ……さ」
初めに聞かなかった自分も悪いが、アマツさんから何が起こるか説明があっても良いだろうと、一言ぐらい文句いってもよかろうと視線を上に向け……何か違和感があることに気が付いた。
脚、胴、顔といくにつれ違和感は強くなっていく、アマツさんであるはずなのに……別の何かがダブって見える。
それは徐々に輪郭をはっきりさせていき、やがてそれが何であるのか俺にも認識できるようになってしまった。
「ぁ」
「はい! はいそこまで!!」
停止しかけた思考の中、手が無意識に腰に伸びたところでサッと目を手で覆われた。
武器を取ろうとした……今は身に着けていないが、腕もついでに脚も手でしっかりと押さえられている。
視界にあれば入ってこないことで、徐々にではあるが意識がはっきりしてきた。
止まっていた息を吐いて吸うと思いだしたかのように心臓が早鐘を打つ。
……アマツさんにダブって見えたあの姿が本来の姿ってことなのだろうか? それか今頃になって再発症した中二病のせいか……分からん。
ただ、普段からあの姿で居ないのは正解だと思う。人によっては見た瞬間気絶して、下手すりゃ精神やられかねない。
てか、両目、両腕、両足を手で押さえられてるんだがけど、大丈夫? 本来の姿でちゃってない??
「……落ち着きました。もう平気です」
時間にして1分も経っていないと思うが、どうにか心臓の鼓動も思考も落ち着いてきた。
「お、そうかい!? もう慣れるとはさすがだねっ!!」
「鼓膜やぶれる」
別にあの姿に慣れた訳じゃないんだけどね。
正直また見続けたらどうなるか分からん。
「必要なとき以外はこちら側にピントを合わせるようにね! 大丈夫、島津くんならすぐ使いこなせるよ!!」
「ガンバリマス」
慣れてきたのはアマツの眼球の使い方だ。
こう……どこか遠くにピントを合わせたまま近くの物をみるというか、うまく説明は出来ないが何時ものピントを合わせるのとは別に、アマツの本体が居る世界にピントを合わすことも、その逆もどうにかできそうなのだ。
とはいえすぐには無理だ。
使いこなすまでは出来るだけアマツの姿を直視しないようにする必要がある。
意識しないとあっちにピントが合っちゃうぽいんだよなあ。
「……生首は生首のままなのな」
「私はこれが本体じゃないからねえ」
アマツからそっと顔をそらしたら、そらした先に生首がいた。
あ、やべっと思ったが視界に変なものが映ることはなかった……生首も本体みちゃったらヤバそうなんだよなあ。
生首の時点でどうかとは思わなくもないが、そこはさすがに慣れてしまっている。悲しいね。
「ところでアマツさん」
「なんだい!!?」
ま、生首はさておき。
ちょっとアマツさんに聞かなきゃならんことが一つある。
「これ、いつ元に戻るんです? 戻るよね?」
「……」
「急に真顔になって黙るのやめようぜっ!」
このままじゃまともにお外に出られないんですが、どうしてくれる。
明らかに腕のパースが狂っているし、この分じゃ目だって普通じゃ無いだろう。何せ中二病の産物だ。
コミケとかそういったイベントなら行けるかも知れないが……日常生活に支障が出るのは困る。
「そのうち元に戻ると思うよ…………どうしよ」
「不吉なセリフが聞こえたんだが??」
こんな小声のアマツさん初めてみたよ。
これ本当に戻るんだろうな?
「な、何せ結構前につくったものだからちょっと記憶が曖昧でね……でも大丈夫! 慣れてくれば切り替えは出来るよ!」
「ほんとにぃ?」
おいこらそこで顔背けるんじゃないっ。
薄目で見ているけどそれぐらい分かるんだかなっ!
「……それで、クロの強化だけど」
まあ……本当かどうか怪しいけれど一応元に戻れるらしいので、一旦追求するのは止めておいてあげよう。
「そ、そうだね!!」
話変わった途端に嬉しそうにこっち向くんじゃありません。
うっかりピント合っちゃったらどうすんのよ。
まあ、そんな俺の気持ちなんぞにアマツさんが気が付く訳もなく。
箱から怪しげな物体をポイポイと取り出すと、両手でまとめて丸め出す。
何してんの? と突っ込もうかと悩んでいるとアマツさんの手の中で、玉はどんどん小さくなって行き、やがて指でつまめるサイズとなる。
「……はいっ!! この飴玉を口にすれば大丈夫だよ!!」
「ほんとにぃ?」
俺の惨状を見てどう思う?
「安心していいよ! 島津くんみたいなことにはならないから!!」
……その言い方だと俺の方は安心できない状態ってことにならんか?
まあ、クロが大丈夫なら良いけど……俺の方は自力で戻れなかったらアマツさんがどうにかするだろう。アマツさんが落ち着いてからにはなるだろうけどね。
とりあえずはこの飴玉? をクロに上げるとしよう。
結構小さいからクロでも問題なく食えると思う。
てかこんなことが出来るのであれば。俺の時にもやって欲しかった……。
思い出すとこみ上げてくるものがある。主に吐き気とか。とか。
「……クロ、お口あけて。あ~んって」
お前じゃないよ生首。




