「356話」
途中から何となく嫌な予感はしていた。
男が言っていた『嘘は付かず出来るだけ詳しく答えろと言われたのでな』これは本当のことだろう。
そうでなければあんな自己紹介はしないはずだ。
そして『人の子に対して神の力を振るうつもりはない』そう男は言っていたが……これは正確には俺の質問に対する答えではない。
それに振るわないと断言もしていない、振るうも振るわないも男次第といえる。
だからだ。この男はいざとなれば神の力とやらを使うつもりじゃないか? と疑問に思ったのは。
「人の身で神に楯突いたことを後悔するがいいっ!!」
全身に鋭い痛みが無数に走る。
一拍おいて俺の体はバラバラの細切れになって爆ぜるだろう。
そうなればさすがに再生は叶わず死亡判定を受けるのは間違いない。
限界まで身体能力が上がったからだろうか? それとも死を間際にして脳の処理速度が上がったか……止まったような時の流れの中、俺は必死に考えを巡らせる。
男はバラバラになる直前の俺を前に勝ち誇るように、見下すように顔を歪めている。
そして視界の端に全身から火を噴き上げ、男へと迫るクロの姿がみえた。
俺と同程度に強化されていたとして、男と一対一で勝てるかと言えば難しいだろう。
痛みの無効化は俺の攻撃のみで、クロの攻撃はそうではない。俺が死にさえすれば男は痛みを気にすることなく、冷静にクロへと対応できる。
だから俺がやられる訳にはいかないんだ。
「っ」
体が爆ぜ、思考が細切れになる。
男に抱いていた疑問から、神の力とやらを振るわれても冷静でいられたこと。
それにバラバラになっても俺は、俺たちは男に勝つ方法を考え続けた。
ただ生き残り、男を殺すことを。
だから間に合った。
「なっ!?」
バラバラに爆ぜた体が濡れた音を立て、再び一つに集まる。
俺たちがとった選択は、体液操作で血液を操作し細切れになった肉体同士をくっつける事だった。
脳が多少損傷しても死なないことは分かっていた。
バラバラになって、死亡判定が出るまでに再生が間に合うかは賭けだったが……ほかに選択肢は思い浮かばなかった。
バラバラだった体も思考も一つにまとまる。
外れていた視線を向けると、男の顔が驚愕から恐怖へと変わるのが見て取れた。
「こ、っの化け物がァ!??」
まだ完全に付いていない足を一歩前に出すと、男はそう叫んで逃げようとする。
が、男の望みが叶うことはない。
クロの一撃で両足を根元から持っていかれた男は、宙で藻掻くことしか出来なかった。
今なら大技でもあたるだろう。
俺は土蜘蛛を男に……使おうとしたが、声がうまく出せなかった。
四肢の再生を優先して、顎は後回しになったか……? まあ、それならそれで構わない。
今なら通常の攻撃でも、無防備な男の首を飛ばすことぐらいは出来る。
「たっ」
首が胴体と泣き別れになる寸前、男が何か言いかけたが最後まで聞くことはなかった。
何を言われても手を止める気はさらさらない。
飛んだ男の首をつかみ。万が一逃げ出さないよう男の体は地面に縫い留める様に踏み抜く。
男の首は全力で地面へと叩きつけた。
そして痙攣する体から足を引き抜くように蹴り上げ、宙に浮いた体を細切れにし、ブレスで焼き尽くす。
頭部はミンチになり、体は燃え尽きた。
……肉片が再生する様子もない。
倒し切ったか……?
そう思った瞬間、忘れていた飢餓感と全身を焼く苦痛が襲ってきた。
俺の体から発するこの唸り声のような音は、腹の音からそれとも別のものか。
「もご」
地面に散らばる肉片に視線を向けた直後、口に何かを突っ込まれる。
それが何であるかを認識する前に、無意識に咀嚼して飲み下していた。
「……クロ、ありがとう」
突っ込まれたのはクロのおやつのジャーキーだった。
それを束でねじ込まれたので、わずかであるがそれでも正気を失わない程度に飢餓感が薄らぐ。
クロにお礼をいうと、いつの間にか出現していた氷柱の上で丸くなったクロから「にゃ」と短く返事がある。
さすがに全身を焼かれたのはこたえたようだ。
氷柱で体を冷やすクロを見て俺も氷柱に抱き着くと、水が蒸発する音と共に蒸気がぶわっとあふれる。
全身から吹き上がっていた炎は収まり、徐々に赤熱していた体が暗くなっていく。
……ほんとギリギリの戦いだった。
事前にステータスを上げていなかったら、カードを集めていなかったら……生首の干渉がなければ負けていた可能性が高い。
これ以降の階層にこいつが出ることを考えると、頭が痛くなる……っていうか、出てくるのかこいつ?
こんなのが大量にいるとか嫌すぎるんだが。
……まあ、あとでアマツさんに聞くとしようか。
おそらくそろそろ顔を出しに来てもおかしくないし。




