「354話」
本業が多忙につき、今月いっぱい死んでおります('ω')
「ふむ。再生持ちか」
下半身は数秒でくっつき、俺は立ち上がるとすぐに戦闘態勢に入る。
傷が癒えて構えるまでの間、男はこちらに一切攻撃するそぶりは見せなかった。
余裕からなのか、それともイベントの一環なのか……何にせよ向こうから攻撃を仕掛けてきたのだ、既に戦闘は始まっていると考えていいだろう。
違ったとしても攻撃を控えるつもりはない。
俺もクロも。
一瞬で男の背後に回ったクロが、後頭部に向かい爪をふるった。
頭部が消えるかと思ったが、ゴリッと嫌な音を立てただけで男にはさして効いた様子は見えない。
ただクロに一撃を入れられたことに不快そうに顔を歪めただけだ。
「獣風情が……ほう? 思ったより動けるではないか」
クロに向かった意識を俺に戻すため、袈裟懸けに斬りかかる……が、あっさりと躱され、代わりに男の振るった刃が俺の腕を斬り付ける。
傷は深くはない、骨には達しているが切断されるまではいかない……それよりも気になるのは男が一瞬クロに視線を向けたことで見えた、クロの爪痕である。
肉がえぐれて骨が露出していた。
なのに一切効いた様子がない……この顔色の悪さといい、所謂不死者とよばれる類なのだろうか? それに加えて……傷が見る間に塞がっていく。どうやらこいつも再生持ちらしい。
どう倒せば良いか……簡単だ。
傷は付くのだからバラバラに細かく切り刻んで燃やしてしまえば良い。
そこまでして倒せなければアマツさんに苦情でも入れるさ。
戦闘を始めてからどれほど時間が経過したのだろうか。
レベルアップによる脳の処理速度の増加と、身体能力の著しい増加によって時間の感覚がおかしい。
体感的にはそれこそ半刻も戦っているように感じるが、実際には数分のことかも知れない。
「なかなか粘る……が」
男が剣を振るうと、床に血が飛び散る。
白かった床は真っ赤に染まり、ところどころ乾いて黒くなりつつある。
床の血は全て俺のものだ。
男の血は一滴も流れていない……むろん男も無傷というわけではない。
時折のクロの一撃が入っているがどれも深手には至っていないのだ。
土蜘蛛が入ればさすがに無事ではすまないだろうが、男もそれは分かっているようで土蜘蛛だけは確実に避けている。
そして腹立たしいことに俺の攻撃は一切当たっていない。
すでに全身が文字通り焼けるように熱くなり、身体能力がかなり上がっているのにも関わらずだ。
そして男の攻撃はすべて俺に向けられており、今のところ全部当たっている。
どうやら男の話を聞いてなかった事に相当おかんむりのようである。
時折鼻をならして馬鹿にするように笑っているので間違いないはずだ。
まあクロに攻撃が向くよりは良い。
問題は……この男を倒しきれるかどうか何とも言えないこと。
俺は血を流しているが、男は流していない。
この男も無限に再生ができるわけではないと思うが、血を流している分だけ俺が限界を迎えるほうが早い。
現に再生しすぎによる飢餓感が徐々に強くなってきている。
クロの攻撃だけでは火力不足。
俺がどうにか攻撃を当てるしかない、が正直このままじゃいつまで経っても当たらない。
確実にあたるもの……紫電を剣鉈に纏わせているが、これは効果は見られない。
男の剣が絶縁体で出来ているのか、雷が効かないのか……おそらく後者だろう。
時折紫電が男の体の方にも伸びていくことがあるが、傷一つ付いていない。
ブレスは効いたから、属性攻撃的なものが効かない訳ではないはず。
となると一定以下の火力だと無効化されるとかか?
あとは一つだけ確実に当たられそうな手段があるが、あれは一度使うと以降は対策されそうな予感がする。
できればチャンスの時に使いたい。
「つまらんな」
そう俺が全身切り刻まれながらも対策を考えていると、不意に男がため息をつく。
戦闘開始からずっと変わらない展開に嫌気でもさしたか?
そう思った直後、男は今まで斬るように振るっていた剣をまっすぐに突き刺し、ぐりっと捻りをいれてきた。
腹、腕、肩、喉、眼球。
刺して、ねじって、引き抜く。
斬られた時の比ではない痛みが走る。
眼球と一緒に脳も一部持っていかれ、左腕の力が抜ける。
それらを全て無視して悉く反撃すると、男の顔がゆがんでいく。
「もっともがき苦しむかと思っていたが……つまらん」
こいつの目的は俺をいたぶり、苦しむさまを見ることなのだと確信した。
そのためだけに、俺の攻撃をかわしてみせ、その気になればもっと激しく攻め立てることが出来るだろうに、手を抜いた。
そうかい。
死にさらせ。
「は?」
再び膝に剣を刺された瞬間、俺は曲がらない膝を無理やりに曲げ、武器を固定し抜けなくした。
ここで確実に当てる。
間抜けづらを晒している男に向けて横なぎの一撃を放つと同時に、体液操作で床に広がった血液を動かし男の足を床に固定する。
キュンッと甲高い音が響き、男の胸部がごそりとえぐれる。
とっさに上体を反らして僅かに攻撃を逸らされた。
だがそれでも、どうみても致命傷ではある……が、男は軽く舌打ちをして剣を手放すと俺から距離をとる。
やはりダメージは無さそうだ。
土蜘蛛だったら違う結果になっていただろうが、あっちは即発動とまではいかない。
発動を察知されれば、男は何がなんでも俺から距離をとっていただろう。
距離をとった男の手には、いつの間にか手放したはずの剣が握られており、俺の膝には傷だけが残っている。
武器奪取ならず、か。
体液操作はもう見せてしまった。
ここからは使えるもの全て使い、ひたすら削りあうしかない……ジリ貧だな。
だが、やるしかない。
そう覚悟を決めて、男に向かい距離を詰めていく。
男も再び剣を構えこちらを見る。
その顔には余裕が浮かんでいた……が。
「あっ、があぁっ!?」
急に男が胸の傷を抑え苦しみだした。




