「349話」
「あ、今日はクロも一緒なんだね。例のチーズとおかかの猫まんまぐらいならだせるけど、どう?」
クロがダメそうなんで、せっかくのお誘いを……などと今日はごめんね的な言い訳を考えていたら、車にすすっと寄った遥さんが、そんな感じでクロに声を掛けていた。
そしてクロの反応はというと……車のドアがガチャっと空いたかと思うと、隙間からにゅるりと這い出てきた。
そして後ろ足でドアをばたんとしめる。
お行儀悪いですよっ。
しかし天かまよりも猫まんまの興味が勝ったかー……そういやうちだと普通のカリカリとか猫缶、あとはダンジョンで買い食いとかしてはいるけれど、猫まんまとか作ったことなかったな。
チーズって、ワームのあれだよな。
それにおかか……俺もちょっと貰っちゃう?
お醤油ちょっと垂らして食ったら地味にくっそうまいやつじゃん。
とりあえずクロもその気っぽいし、今日は遥さんの家で夕飯頂いていこうかな。
キャベツに夢中だったお義母さんも、とてとてと近寄ってきたクロに気付いたようで「あらあら、可愛いねこちゃんねー」と、さらにテンション上げているし。
どうやら猫自体は好きそうなようで何より……お義父さんとお義兄さんは分からんけど、クロなら粗相することなんざ無いだろうし問題ないだろう。
「これでぜんぶー?」
「はい、残りは晩御飯に使うそうなんで、それで終わりです」
「おけ」
家の床下収納にキャベツを詰め込んでいく遥さんに最後のキャベツを渡す。
家も広いからか、床下収納も割と広そうな予感がする。
ちなみにクロは与えられた座布団の上でくつろいでいる。
さっき妹さんがにじり寄っていく姿がちらっと見えたが……まあ、静かなので別に喧嘩とかはしとらんだろう。
ダンジョン外でも結構補正効いちゃうからねー……威力だけでいえば猫ぱんちがライオンのそれ並みにあると思う。
んで、あたる面積が小さいもんだから余計に痛いと。
ヒグマと殴り合って普通に勝てるだろうなー。
「おぉぉぉぅぅ。おぅっおぅ」
キャベツ格納して戻ったら、妹さんの顔をクロが肉球ではさみこむようにたぷたぷしてた。
俺ですらそんなことしてもらったことないのに!
なんだよなんだよ、オットセイみたいな声だしおってからに。
そんなに良いのか、気持ち良いのか?おおん??
「なんで悔しそうにしてるの」
爪かんでぎりぃってしてたら、遥さんに白い目でみられた。
「お邪魔してます」
「おお、きとったのか。ゆっくりしていくと良い」
クロに俺にもしてと頼んで、代わりに猫ぱんちくらってと遊んでいたら、お義父さんたちが帰ってきた。
ちょっと恥ずかしい姿を見られた気がしなくもないが、お義父さんはスルーしてくれた。やさしい。
「ちょうど良いタイミングできましたね。新作の酒が……そういえば酒はまだ駄目でしたか」
「代わりに私が飲むよー」
体勢を整えたところでお義兄さんが酒瓶片手に入ってきた。
酒はまだ飲めないんすよねー……なんかすっごい高級そうな見た目だから、ちょっと気にはなるんだけどね。
まあ、もうちょっとしたら誕生日迎えて20歳になるし、そうなったら気兼ねなく飲める。
それまでの我慢だねー。
あ、ちなみにお義父さんもお義兄さんも猫は普通に好きっぽい。
お義兄さんは優しく頭を撫でていたし、お義父さんは構いたそうにちらっちら横目で見ていたけれど、俺含めて4人もクロのそばにいるもんで、やがて諦めたようである。
今度訓練所にクロを連れていくんで、その時にでも……いや、周りの目がもっとあるだろうし余計構いにくくなるかな?
うん、まあ……そのうちってことでここはひとつ。
「ごはんできたよー」
そうこうしているうちにお義母さんといつの間にか参戦していた義妹さんが料理を作り終えたようで、ごはんタイムとなった。
ほかの人はどうしていたかって?
俺は一応お客さんなんだし、休んでてーと言われ、クロは言わずもがなで……遥さんはまあ、うん。戦力外的なあれだった。
んでお義父さんとお義兄さんは稽古帰りってこともあって、お風呂タイムだったね。
てかあの二人に任せると酒のつまみ的なのばかり出てきそうだしな。
「うまっ」
最初に箸をつけたのはキャベツを使ったレシピでは定番であるホイコーローだ。
ひたすら良い匂いを漂わせていたのと、出来立て熱々だったので思わず手が伸びてしまった。
香ばしい香りにご飯に合う濃いめの味付け。
肉は柔らかくジューシーで歯ごたえの良いキャベツと合わさり抜群にうまい。
ご飯がとんでもなく進むが、そこは日本昔話盛りだけあって中々茶碗が空になることはない。
てかこれ茶碗というか、丼ぶりじゃね……? まあそっちのほうが俺的には嬉しいけど。
たぶん普通の茶碗だとすぐ空になってお代わりしなきゃだから、そのへんの手間を減らす為にも丼ぶり使ってるんじゃないかなー……たぶん。
「キャベツ料理ってこんなに種類あったんですね……」
「キャベツ優秀だよねー」
炒め物に煮物、あえ物と……蒸し料理かなこれ。
あとはコールスローみたいのと、スープと見たことある料理はもちろん、見たことないのもちょいちょいある。
「クロもおいしい?」
クロは例のチーズとおかかの猫まんまをうにゃうにゃいいながら食べている。
鼻息でおかかがちょっと飛んでるし、かなりがっついているので相当美味しかったんだろう。
……うん、おいしそう。
「島津くんも食べてみるー?」
「いただきます!」
じーっとそんなクロの様子を見つめていたら、遥さんに猫まんまを進められてしまった。
いやあ、勧められたら食わないわけにはいけないからね! しょうがないね!
「お……おおっ、合いますねこれ」
「おにぎりの具とかにもなってるぐらいだしねー。おかかとチーズ」
予想以上にうめえ。
ご飯炊きたてなもんで、程よくとろけて……チーズとおかかと醤油のうま味が合わさってやばいことになっている。
こりゃ俺もチーズ常備しておかないとだな。
クロも気に入っているようだし、作るの簡単だし……うむ、そうしよう。
「ごちそうさまです」
あれだけあったおかずは、あっという間に皆のおなかに消えていった。
お義父さんとお義兄さん、それに遥さんは食後のお茶ならぬ、食後の酒を飲んでいるが……つまみにしているのはダンジョンで買ってきた漬物だ。
おかずが残っていればなーと思ったが、酒飲む分には漬物で十分らしい。
「そういえば康平くんは普段は誰と潜っとるんだ? 遥とではないのだろう?」
俺は酒はまだダメということで食後のお茶を頂いていると、お義父さんからダンジョンの活動について話を振られる。
「私は基本クロと一緒ですね。たまに遥さんとも潜ってます」
「そうかそうか、普段はクロと……クロ?」
そういやそんなに詳しく話したことなかったなーとか考えながら答えたんだけど……すっごい何言っとんだお前? みたいな顔されたぞっ。




